[3月9日・10日]一柳慧×白井晃 神奈川芸術文化財団芸術監督プロジェクト 第3弾

白井晃が描く“ダンス×音楽×演劇”のジャンルなき芸術——神奈川県民ホール『メモリー・オブ・ゼロ』

インタビュー
2019.02.09

身体を失くしたあと、記憶はどこへ行くのか——3月9日(土)・10日(日)に上演される『メモリー・オブ・ゼロ』は、作曲家・ピアニストの一柳慧と演出家の白井晃がコラボレーションする神奈川芸術文化財団芸術監督プロジェクトの第3弾。「身体の記憶」や「すべてが破滅してゼロに近づく世界で見出せるもの」を、神奈川県民ホールの大ホールすべての空間を舞台にして創造する。

ダンス、音楽、演劇の境界を越えた作品は、どう語りかけてくるのだろうか。

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インタビュー写真:各務あゆみ
聞き手・文
高橋彩子 舞踊・演劇ライター
高橋彩子
聞き手・文
高橋彩子 舞踊・演劇ライター
早稲田大学大学院文学研究科(演劇学 舞踊)修士課程修了。現代劇、伝統芸能、バレエ、ダンス、ミュージカル、オペラなどを中心に執筆。『The Japan Times』『E...
白井晃
演出家で、KAAT神奈川芸術劇場芸術監督の白井晃。

音楽、ダンス、演劇の境界を越えて

——「一柳慧×白井晃 神奈川芸術文化財団芸術監督プロジェクト」第3弾。音楽に一柳さん、構成・演出に白井さん、振付に遠藤康行さん、そして演奏が板倉康明さん指揮による東京シンフォニエッタ、と、かなり越境的な形になりましたね。

白井 僕自身、演劇だけでなく、オペラもミュージカルも演出してきました。僕が最初に演出したオペラは一柳先生の《愛の白夜》なんですよ。今年のKAATのラインアップもかなり節操なく(笑)何でもやりますというものになるのですが、それはやはり、劇場がいろいろな表現の場であるべきだと考えているから。

我々は芸術に触れることで、日常生活で忘れがちなことを思い出したり、自分を省みたり、世界に疑問を呈したりするわけです。つまり、芸術は我々の映し鏡であって、空気と一緒で必要不可欠なもの。

であるならば、それはジャンルなきもの、あるいはジャンルの枠組みにはまらないものでいいのではないかと思うのです。

——人間の映し鏡である以上、多様であるべきだと?

白井 そうですね。常にそんなふうに理屈で考えているわけではないけれど、これだけ多様性を帯びた現代ですから、音楽、演劇、ダンスと業界が分かれ、観客も分かれて、それぞれ島を作るのではなく、行き来し、溶け合ってもいい気がしています。

僕は先ごろ、世界の第一線で活躍するバレエダンサー首藤康之さんや振付家でもある中村恩恵さんと一緒に、舞台『出口なし』を作りましたが、彼らが毎朝何時間もトレーニングを行なうことに頭が下がりつつ、その横でただ歩き回ったり資料を見たりしながら、空間を共有している感覚が生まれてきたのがとても楽しかったんです。

そうやってさまざまな方と接触することで、自分自身もものの見方が変わるし、今回なら一柳慧さんや遠藤康行さんにも同じようにおもしろがってもらえたら嬉しい。そして願わくば、観に来られたダンスファン、演劇ファン、音楽ファンの間でも化学反応が起きてほしいですね。

一柳慧
神奈川芸術文化財団芸術総監督で、作曲家・ピアニストの一柳慧。ジュリアード音楽院留学中にジョン・ケージと知り合い、不確定性の音楽を展開。今回の舞台では、ピアノを演奏する予定。©Koh Okabe
遠藤康行
フランス、日本を中心に活躍する遠藤康行が、振付とダンスを担当。JAPON dance projectメインメンバー。横浜バレエフェスティバル芸術監督。

さまざまな“記憶”を紡ぐ

——『Memory of Zero』というタイトルの今作では、「身体と記憶」をテーマにされるとのことですが、白井さんは、KAATでのアーティスティック・スーパーバイザー就任第1作『Lost Memory Theatre』でも、やはり記憶を扱っておられます。

白井 『Lost Memory Theatre』は三宅純さんのアルバムのタイトルで、「Lost」「Memory」「Theatre」と、自分の好きな言葉が3つ入っていたことをきっかけに、音楽が記憶を結びつけて一つの形にするような作品はできないかと考えて作った舞台でした。

人が生きていたときの記憶や思念は、死んだらどこに行くんだろう? とよく考えるんです。その人をその人として成り立たせていたものは何なのか、今見て感じて考えていることはどうなるのか、といったことへの興味。

僕が今まで作ってきたものの根源は、そこにあるのかもしれません。

——『Memory of Zero』の第Ⅰ部は『身体の記憶』。ダンスの変遷を辿る旅とのことですが、どのようなものになるのでしょう?

白井 今はまだプレ稽古として遠藤さんに動きの要素を作り出していただいている段階で、今後の本稽古で具体的に決めていきます。

昨夏、KAATでバレエ・ロレーヌが、カニングハム、フォーサイス、ベンゴレア/シェニョーという3つの世代の振付家の作品を一挙に上演したのですが、それを見て、身体の中に動きが蓄積されていること、カニングハムがあるからフォーサイスが生まれ、フォーサイスが現代のベンゴレア/シェニョーに繋がっていることが、よくわかりました。だから、時系列的にダンスを並べていくのも面白いかもしれません。

ダンスは、クラシック・バレエ、モダン・ダンス、コンテンポラリー・ダンスと来て、今は少し混迷の時期に入っていると、専門家ではない僕から見ても感じます。この先、ダンスがどこに向かうのか、少しでも提示する、あるいは考える演目になればと願っています。

そのためにもまず、人間がなぜ音楽を作り、踊るのか——それはコミュニケーション手段だったのかもしれないし、ホモ・サピエンスの集団形成には祭りが必要で、音楽は精神性を繋ぐための大きな魔術だったのかもしれない——といったところから考えていきたいですね。

——第Ⅱ部は『最後の物たちの国で』。原作は、すべてが破滅に向かい、限りなくゼロに近づく世界に生きる女性アンナからの手紙という形式で書かれた、ポール・オースターの小説です。白井さんはこれまでにも『ムーン・パレス』『偶然の音楽』『幽霊たち』と、オースター作品の舞台化をたびたび手がけてこられました。

白井 僕がオースターの世界に惹かれるのは、どの作品にも、先程の記憶の話につながるところがあるから。特にこの『最後の物たちの国で』は、自分を取り巻く世界が全部削ぎ落とされて、ただ一人だけになったときに残るもの、自分を生かしてくれるものとは、自分が生きてきた時間や記憶なのではないかということを感じさせる作品なので、いつか形にしたいと思っていたんです。

非常に壮大な話だけに、演劇としてはあまりイメージできていなかったのですが、ダンス作品を作るならスケールの大きなものにしたいと考え、この題材を取り上げることにしました。実際にどうなるかはまだわからないのですが、僕が書いた現段階での構成台本では、アンナ役の小池ミモザさんをはじめとする出演ダンサーの方々に、少し台詞もあるんですよ。

アンナ役の小池ミモザ
アンナ役の小池ミモザ。モナコ公国モンテカルロ・バレエ団プリンシパルで、JAPON dance projectメインメンバー。「ものすごく元気な方」と白井さん。本公演のメインビジュアルは、神奈川県民ホールの地下で撮影された。©Toru Hiraiwa

——Ⅱ部には、一柳さんが東日本大震災を機に書かれた交響曲第8番“リヴェレーション2011”が演奏されるとか。

白井 僕がポール・オースターの小説をもとに書いたテキストを一柳さんがお読みになり、「8番を」とおっしゃいました。

実際、出だしは震災の恐怖や絶望、そしてレクイエム的な要素があるのですが、楽章が進むごとに再生のイメージが膨らむところが、作品世界とシンクロする。先生は「この曲をどのように使ってもいい、中断しても、ノイズを入れてもかまわない」と言ってくださっているので、音像を含めて何か面白いことをと構想しています。

「交響曲第8番-リヴェレーション2011(室内オーケストラ版)-」第4楽章

「リカレンス」

「タイム・シークエンス」

一柳慧からの信頼も厚い、クラリネット奏者で東京シンフォニエッタの音楽監督、板倉康明が指揮。©SUNTORY FOUNDATION for ARTS
同時代の音楽に積極的に取り組む、東京シンフォニエッタが演奏。白井さんいわく「ミュージシャンがオーケストラピットの箱の中ではもったいない」とのこと、本作では舞台袖に上がって演奏する予定。

今こそ問う、劇場の意味

——今回は、通常のステージエリアに客席を設えることも話題です。

白井 巨大な神奈川県民ホールを、『最後の物たちの国で』の何もかも崩れ去った都市として機能させられないかと考えたのが発端です。開館40年以上経ったこのホールでこれまで上演された演目たちへのオマージュの意味合いもありますし、だからこそ、劇場とは何なのかをもう一度問いたいという気持ちもあって。

今の時代の、決められた時間に席に着いて一つのものを観ること自体、かなり特殊ですよね。昔はどこかで誰かがパフォーマンスを始めてそれを観る人がいれば成立していたけれど、合理的に人を集めるために劇場ができ、より集中を高めるために照明や音響などの設備が生まれた。

そういう集中を作る空間に対する懐疑があり、劇場の意味を再発見したいと思ったのです。

2018年11月に行なわれたダンサーのオーディション。2,493人収容可能な神奈川県民ホールの大ホール全体の空間を用いて、客席は舞台上に特設する。

——神奈川県民ホールには、白井さんご自身も20代から足繁く通われて、観客としての“記憶”がたくさんおありだそうですね。

白井 最初に思い出すのは、大学を卒業してサラリーマンをやっていた85年に聴いた、ソニー・ロリンズ クインテットのコンサート。猛烈なプレイだったんですよ。80年代はコンテンポラリー・ダンスが盛んな時期で、89年のピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団『カーネーション』は国立劇場で観て衝撃を受け、神奈川県民ホールにもう一度観に行きましたし、フィリップ・ドゥクフレやインバル・ピントもここで観ましたね。

あの頃、僕にとっての横浜とは、神奈川県民ホールと、ジャズの会場としての横浜スタジアムがすべてでした。ですから、神奈川県民ホールはいろいろな芸術に出会わせてくれた場所。このホールを中心として、今回、さまざまなものが集まってきたという感覚があります。観に来られた方にも、「あの作品、どこでやったんだっけ?」ではなく「神奈川県民ホールでやったあれ」と言われるくらい、空間を含めて記憶に残る舞台にしたいですね。

一柳慧×白井晃 神奈川芸術文化財団芸術監督プロジェクト Memory of Zero(メモリー・オブ・ゼロ)
イベント情報
一柳慧×白井晃 神奈川芸術文化財団芸術監督プロジェクト Memory of Zero(メモリー・オブ・ゼロ)
 日時: 2019年3月9日(土)18:00開演(開場17:30)
3月10日(日)15:00 開演(開場14:30)

会場: 神奈川県民ホール 大ホール(横浜市中区山下町3-1)

料金: 全席自由(整理番号付・特設席) 一般 6,500円、学生(24歳以下、枚数限定) 3,000円

 

スタッフ・キャスト: 一柳 慧(ピアノ)、白井晃(構成・演出)、遠藤康行(振付・ダンス)、板倉康明(指揮)、小池ミモザ(ダンス)、鳥居かほり(ダンス)、高岸直樹(ダンス)、引間文佳(ダンス)、東京シンフォニエッタ(演奏)ほか

 

アフタートーク出演者:
3月9日(土)一柳慧、白井晃、板倉康明
3月10日(日)一柳慧、白井晃、遠藤康行、小池ミモザ

 

問い合わせ:

神奈川県民ホール事業課  045-633-2028

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