インタビュー
2024.02.06
東京文化会館シアター・デビュー・プログラム〜音楽×ダンス×演劇の奇跡の融合で舞台鑑賞デビュー!

ラヴェルの数奇な人生と音楽の魅力を追体験する、舞台『ラヴェル最期の日々』

東京文化会館は、幼少期に音楽ワークショップや子ども向けコンサートを経験した青少年への次のステップとして、2021年度から「シアター・デビュー・プログラム」を開始。これは東京文化会館が一流のアーティストを起用し、小学生向け、中学・高校生向けのオリジナル舞台作品を企画・制作する取り組みである。
2024年度は作曲家ラヴェルの晩年を音楽、演劇、ダンスで描き出す『ラヴェル最期の日々』が上演される。今回は音楽監督と作・編曲を担当する加藤昌則、ラヴェルの友人ジャック・ド・ソゲブを演じる西尾友樹に話をうかがった。

長井進之介
長井進之介 ピアニスト/音楽ライター

国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...

メイン写真:左から順に、西尾友樹(俳優)、加藤昌則(音楽監督・作編曲・ピアノ)

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ラヴェルの印象がガラリと変わる、新たな発見

『ラヴェル最期の日々』

ストーリー:

記憶をなくしている作曲家ラヴェルのもとに、音楽のことをまったく知らない友人のジャック・ド・ゾゲブは毎日訪ねてくる。

ラヴェルにとってゾゲブは気楽に音楽の話ができる相手だった。

ラヴェルの波乱に満ちた生涯を彼自身の音楽とともに、ゾゲブとの会話のなかで振り返っていく。

——題材は加藤さんが選ばれたそうですね。

加藤 ジャン・エシュノーズの『ラヴェル』です。20年ほど前にこの小説に出会い、ラヴェルの作品の印象が大きく変わりました。それまで、彼は生前に大成功を収めた作曲家、というイメージでしたが、実際には不慮の事故以降、徐々に記憶を失っていき、孤独になっていった……。

それを知ってから作品を聴き直すと、まったく違う聴き方ができるようになったのです。その記憶が鮮烈で、今回の題材を探す際にふと思い浮かんで、演出の岩崎正裕さんに打診しました。ラヴェルの人生は、音楽を知っている人でも知らない人でも、劇的で興味深いと思います。

加藤昌則(音楽監督・作編曲・ピアノ)
東京藝術大学作曲科首席卒業、同大学大学院修了。作品はオペラ、管弦楽、声楽、合唱曲など幅広く、多くのソリストに楽曲提供をしている。また、共演ピアニストとしても評価が高い。さらに、NHK2020応援ソング「パプリカ」の合唱版をはじめ創意あふれる編曲にも定評がある。また、王子ホール「銀座ぶらっとコンサート Caféシリーズ」(企画・ピアノ)、横浜市栄区民文化センター リリス「リリス藝術大学クラシック学部」(企画・ピアノ)など、独自の視点・切り口で企画する公演やクラシック講座などのプロデュース力にも注目を集めている。2016年4月よりNHK-FM「鍵盤のつばさ」番組パーソナリティーを担当。2019年より長野市芸術館レジデント・プロデューサー。2022年4月よりひらしん平塚文化芸術ホール 音楽アンバサダー。
Official Website www.masanori-music.com
岩崎正裕(演出・脚本)
1963年三重県鈴鹿市生まれ。82年大阪芸術大学舞台芸術学科在学中に「大阪太陽族」を旗揚げ。現在の「劇団太陽族」に至り、関西を拠点に創造活動を継続する。97年『ここからは遠い国』(作・演出)で第4回OMS 戯曲賞大賞を受賞。他に大阪市咲くやこの花賞、兵庫県芸術奨励賞等を受賞。「Japanese Idiot 」(2005年)、「どくりつこどもの国」(08年)、「大阪マクベス」(11年)等、音楽劇の作・演出を多数手掛ける。08年~22年3月まで伊丹市立演劇ホール・アイホールディレクター。様々な地域と共同して市民参加演劇やワークショップに尽力。現在、大阪現代舞台芸術協会理事長。大阪芸術大学短期大学部特任教授。
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西尾 音楽に詳しいわけではない私でも、ラヴェルの存在、そして《ボレロ》や《亡き王女のためのパヴァーヌ》のことは知っていましたが、人生についてはそれまでよくわかっていませんでした。

今回ジャックを演じるにあたって小説を読み、一人の人間がこの世からいなくなり、そのあとにも音楽が残っていく……という情景が鮮やかに描かれていて、とても惹かれましたね。

西尾友樹(俳優)
劇団チョコレートケーキ所属。2014年、『熱狂』、『治天ノ君』で第21回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。16年、『埒もなく汚れなく』にて第23 回読売演劇大賞男優賞上半期ベスト5 に選出される。映像作品ではドラマ『シェフは名探偵』、映画『グッドバイ、バッドマガジンズ』などに出演。

——今回の舞台はヴァイオリンとピアノ、そしてバンドネオンという楽器編成で、《ボレロ》などオーケストラの楽曲なども演奏されます。選曲や編曲はどのようにされたのでしょうか。

加藤 ラヴェルはピアノの名曲も多いですが、オーケストレーションの天才であり、オーケストラ作品で最大限にその才能が発揮されています。しかし舞台に乗ることの人数には限りがあり、大編成で書くことはできません。

そこで、室内楽の編成でいかに原曲に負けない世界をつくりだせるかが課題でした。編成が小さいからこその魅力もたくさんあるので、それを最大限に活かせる楽曲という観点で選曲し、編曲していきました。

特に《ボレロ》については、物語の鍵になる楽曲であり、また一般的にもよく知られているので、その印象を大きく変えてしまおうと。デフォルメや演劇との相乗効果による変化を活かしたアレンジにしていきました。

例えば、バンドネオンの音色がパリの街角の雰囲気を醸し出して、場面にいい味を出したり。今回打楽器は入らないので、もしリズム要素が足りない時は、西尾さんにボディ・パーカッションをお願いしようかな(笑)。

西尾 必要でしたら、ボディ・パーカッションに挑戦します(笑)。

これまで色々な演奏を聴いてきましたが、今回の加藤さんのアレンジで、《ボレロ》の印象がかなり変わりました。“こんなに不吉な側面があったのか! ”と衝撃を受けましたね。これに負けないように演技をしなければ……と思っています。

加藤 きっとご来場いただくお客さまにも、西尾さんのような発見をしていただけるはずです。そしてこれがこのプロジェクトで一番重要なことで、手ごたえを感じられる言葉をいただけてうれしいです。

それから、ラヴェルには《ボレロ》以外にも素晴らしい曲がたくさんあるので、他の曲も好きになってもらえたらと思っています。例えば、「ピアノ協奏曲 第2楽章」! こんな素敵な音楽を書けるなんて嫉妬を覚えるほど。これをわかるかどうかが大人かどうかかな(笑)。

西尾 私はまだ大人の階段をのぼっている途中かもしれません(笑)。成長と新たな気づきを観客のみなさんとも共有したいですね。

クリエーションの様子。左から順に、岩崎正裕(脚本・演出)、伊奈山明子(演出助手)、小㞍健太(振付・ダンス)、西尾友樹、加藤昌則

音楽×ダンス×演劇の化学反応のきらめきに満ちた、ラヴェルの人生を旅する唯一無二の舞台で、舞台鑑賞デビューを!

——音楽と演劇にダンスも加わることでラヴェルの人生と音楽がどのように表現されていくのか、とても気になります。

西尾 ダンスの小㞍健太さんと、ダンスと演技がそれぞれ一本ずつの柱になるのではなく、お互いが影響し合っていくことが大切だねとお話ししています。

また演技をする上で音楽に感情が引っ張られないようにすることも必要です。あまり音楽と合わせすぎてしまうと、そのシーンの力が乏しくなってしまうので……。気持ちを強く持って全体のバランスをつくっていきたいと思います。

小㞍健太(振付・ダンス)
ネザーランド・ダンス・シアターに日本人男性として初めてNDT1 に入団を果たす。イリ・キリアンをはじめ、ウィリアム・フォーサイス、マッツ・エックなど世界的な現代振付家の作品に出演。2010年、キリアンの退団を機に、振付家・ダンサーとして、日本とオランダを拠点にフリーランス活動を始める。作品制作を軸に、シルヴィ・ギエム「6000 Miles Away 」世界ツアーなどに客演。近年は、オペラやミュージカルの振付、フィギュアスケート日本代表選手の表現指導など、活動は多岐にわたる。
オフィシャルサイト kojiri.jp
©Carl Thorborg

加藤 音楽から見てもその観点は重要ですね。演劇が盛り上がるからといって、その場面にそのまま激しい音楽をつけてしまうとうまくいかないことが多いのです。舞台や映像に音楽をつける際、いかに“音を抜くか”が重要なことがたくさんあります。

視覚においても、今回の舞台には具象的なものはほとんど置きません。小㞍さんの動きで何かが想像できる、視覚的なものを言葉と表現のなかで想像してほしい、と思っています。

西尾 美術がすごく印象的な舞台なので、私たちも観客のみなさんも想像の翼を思う存分広げられるのではないかと思います。フランスやアメリカ、波瀾万丈なラヴェルの人生を旅するにあたって、ダンスと音楽と言葉にさらに美術の力も掛け合わさることで、想像が豊かにふくらむ場面づくりも見どころの一つです。今まで経験したことがない唯一無二のクリエーションで、舞台をつくりながら他ジャンルの刺激を受けて新たな表現が生まれていく、その瞬間を体感しています。

加藤 さまざまなアート・ジャンルで活躍する表現者たちが、それぞれいろいろなものを経験して、自己を大切に育ててここに集まり、他ジャンルと想いを重ね対話しながら、時間をかけてじっくりつくりあげてきた作品です。この舞台を観にきた中高生のみなさんに、“私は踊ってみたい”、“私は演じてみたい”と表現することに興味や希望を持ってもらえたら。表現、そして人生には選択肢がたくさんあることを知る場になると思います。

もちろん中高生だけでなく大人の方々にも、表現者たちの粋の結晶を通して、新たな視点や発見を得てもらえるはずです。

——『ラヴェル最期の日々』ではラヴェルのピアノ連弾曲《マ・メール・ロワ》についてジャックが紹介するシーンがあり、楽曲のことが非常によくわかります。さらに、使われている言葉回しが音楽と見事に融合していくのが魅力的です。

西尾 実はそのシーンは私にとって第一関門なのです。それこそ音楽に引っ張られないようにしながら言葉を介在させていく必要があります。

加藤 ここは「シアター・デビュー・プログラム」の根幹を成すシーンといっても過言ではありません。私が岩崎さんに“ラヴェルのすごさ”をレクチャーしたことから生まれました。楽曲の中身がわかると、“こんなこだわりがあるのか”、“ここに彼自身が表現されている”といったことが見えてきますが、それがおもしろさを呼ぶと思うのです。

今回の作品は音楽の知識がある人はもちろんですが、ないからこそ楽しめる素材をたくさん散りばめています。“語り部”の役目も持っているジャックは、音楽に詳しくないからこそラヴェルが心を開いた人物です。ご覧いただくみなさまにはぜひ、ジャックとご自分を重ね合わせながらラヴェルの音楽を楽しんでいただきたいです。

西尾 本当にぜいたくな試みに参加でき、とても幸せです。一つの公演で音楽とダンス、演劇を同時に楽しんで、ラヴェルの作品の魅力を知っていただけたらうれしいですね。

私自身、知っている曲には新しい発見があり、知らない曲も大好きになりました。青少年が主な対象となっていますが、幅広い年齢層の方にぜひご覧いただきたいです。

加藤 これまでさまざまな作品や「シアター・デビュー・プログラム」で何度も新たなデビューを成功させ、新たな世界観を創造してきて、満を持して今作に挑みます。西尾さんをはじめ、各ジャンルの意欲的な表現者たちの魅力が結集するこの新制作の創造も、期待を裏切りませんよ。

公演情報
東京文化会館シアター・デビュー・プログラム『ラヴェル最期の日々』《新制作》

日時:2024年2月17日(土)・18日(日)14:00開演

会場:東京文化会館 小ホール

音楽監督・作編曲:加藤昌則

演出・脚本:岩崎正裕

出演:

振付・ダンス:小㞍健太

俳優:西尾友樹

ピアノ:加藤昌則

ヴァイオリン:橘和美優 *第19回東京音楽コンクール弦楽部門第2位及び聴衆賞

チェロ:清水詩織

バンドネオン:仁詩 Hitoshi

曲目:

ラヴェル:

ボレロ

亡き王女のためのパヴァーヌ

ツィガーヌ

『マ・メール・ロワ』

他、ラヴェル作品等様々な作品から選曲、引用、新作を予定

料金:

S席5,500円、A席4,400円、B席2,200円(売切)

25歳以下(全席共通):2,200円

18歳以下(全席共通):1,100円

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長井進之介
長井進之介 ピアニスト/音楽ライター

国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...

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