越境する音楽家、挾間美帆インタビュー(後編)

編曲を通して伝えたいこと

インタビュー
2018.03.30

前編では、作曲家・挾間美帆の原点を探った。後編では2018年2月にリリースされた新譜と、今後の活動や展望について伺う。

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撮影:堀田力丸
お話する人
挾間美帆 作曲家
挾間美帆
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挾間美帆 作曲家
国立音楽大学(クラシック作曲専攻)在学中より作編曲活動を行ない、これまでに山下洋輔、モルゴーア・クァルテット、東京フィルハーモニー交響楽団、シエナウインドオーケストラ...
インタビューした人
小室敬幸 作曲/音楽学
小室敬幸
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小室敬幸 作曲/音楽学
東京音楽大学の作曲専攻を卒業後、同大学院の音楽学研究領域を修了(研究テーマは、マイルス・デイヴィス)。これまでに作曲を池辺晋一郎氏などに師事している。現在は、和洋女子...

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――クラシック音楽は好きだけどそもそもジャズは聴かないとか、ジャズも聴くけど新しいコンテンポラリー・ジャズは聴いたことがないという人に、挾間さんなら最初に何を聴くことをお薦めしますか?

挾間 いい質問ですねー、何がいいかな……。

――例えば、それこそガーシュウィンやバーンスタイン作品が好きだっていうクラシック音楽ファンは、たくさんいるはずなんですよね。でもそこから次に、どんなコンテンポラリー・ジャズを聴いていいのかがわからない人が多いと思うんです。

挾間 そうですね、マリア・シュナイダーの《エヴァネッセンス(Evanescence)》が良いかもしれない。あとは、ヴィンス・メンドーサとメトロポール・オーケストラが、ジム・ベアードってピアニストと一緒にやっているアルバム《レヴォリューションズ(Revolutions)》は弦楽器やリズム隊も入っていてすごく聴きやすい音楽ばっかりで、良い録音です。

――クラシック音楽が好きな人でも、例えばブラジルのエグベルト・ジスモンチを好きという人は結構多いですよね。

挾間 そう、ブラジル系から入るのもありかも。カルロス・ジョビンとクラウス・オガーマンのアルバムから入るとか、そういうのもありかな。

――ジョビンはボサノヴァの生みの親として有名ですけれど、オガーマンのことは知らない方も多そうですね。

挾間 でもなんかジャズっぽいのと、クラシックとちょうど合いの子かなと。聴きやすいですし。

――せっかくメトロポール・オーケストラの話が出たので、挾間さんがメトロポールと共演した新しいCD《ザ・モンク:ライヴ・アット・ビムハウス》のお話を聞かせてください。今回は、ジャズ・ピアニストで作曲家のセロニアス・モンク(1917~1982)の生誕100年を記念するプロジェクトとして、挾間さんが編曲したモンク作品を、メトロポール・オーケストラのビッグバンドを指揮してライヴ録音するというものです。

 

挾間 はい。

――聴かせていただいて、やっぱり一番面白いと思ったのは、もう既にさまざまな人が書いていますが、いくつかの楽曲においてモンクがピアノで弾いた音をそのままビッグバンドに移し替えたりしている。かなり特殊な作業ですよね。

挾間 コンサートをするにあたって、(メトロポールのメンバー含めて)誰もがアメリカ人でないし、ルーツもアメリカじゃない。まずリソースが足りないということが大前提だったので、どういうふうにトリビュートする価値をもたせようかと考えたんです。スペシャルな部分が欲しいじゃないですか。

 そう考えたときに、そのセロニアス・モンクがひとりで弾いているものをピックアップすると、ピアニストとしてだけでなく、作曲家としての側面から彼がどういうふうに音楽を捉えて演奏していたのか……みたいなところまでフォーカスできるかなと考えたんですよ。

――具体的には2曲目の《ルビー・マイ・ディア》をモンクの原曲と聴き比べしたときに、モンク自身のピアノソロで聴くと、特異性みたいなところが際立ってしまうんですけど、挾間さんの編曲を聴くと、実はモンクのピアノがオーケストラを志向してたんだなということがすごくよくわかって、原曲もより楽しめるようになりました。

挾間 《ルビー・マイ・ディア》は特に、狙ってオーケストラっぽい演奏をしているんじゃないかと思って、すごく感銘を受けたんですよ。ですから絶対やりたいって思っていました。

――こうして挾間さんが編曲を通してやられてることって、単に素敵なアレンジを施しているというだけじゃなくて、批評性の強いアレンジだと思うんですよね。挾間さんの編曲を聴くことによって、聴き手はモンクの凄さを再認識して、評価を変えていってしまうわけですから。批評的な要素が入ってくるお仕事だと思うんですね。

挾間 楽曲がもっとライトアップされるという意味では、そういうこともあるかもしれない。でも逆にいうと、彼のピアニストとしての部分は、あんまりピックアップされてない気が私はしています。自分がセロニアス・モンクが好きで好きで仕方ない……というわけでもない、その醒めた感じ。演奏してくれているビッグバンドもアメリカ人ではなく、「自分のおじいちゃんがモンクさんと所縁ある人だった」なんてルーツもないので、良い意味で醒めた演奏、すごく客観的な演奏をしているのが、このアルバムの一種の特徴になったのかなと思っています。

――ピアノソロの部分があっても、べつにそれをモンクの演奏に寄せるわけでもないですしね。

挾間 そう、誰も寄せてない辺りが、すごいマイペース(笑)。

――でもだからこそ、見えてくるものがたくさんあるわけです。批評性のあるアレンジというのは今回に限った話ではなく、日本では2016年10月に初演した《The Maiden Voyage Suite》を聴いたときにもすごく感じたんですよ。あのときにもっとも衝撃を受けたのは、1曲目の《処女航海》と最後の《ドルフィン・ダンス》のテーマが実は、同じ音の動きをもつ旋律だったということ。アレンジによって、それを気付かせられるというのが本当に衝撃的な体験だったんです。

挾間 逆行するってやつね。

――わざわざ編曲してやる意味もあるし、《処女航海》という既に何度も聴いてきたはずのアルバムであっても、もう一回聴いてみたくなるっていうところも含めてすごい面白かったんです。そこにこそ挾間さんにしかできない領域があるのかなって、そのときにすごく感じたんですね。

挾間 こういうマニアックな性格なので、編曲の最中に「すごい! この曲ってこうなってる! きゃー!」とテンション上がってしまうときがあるわけです(笑)。それを聴いてる人に「こうだったんですよ〜」って見せびらかすまではしないんです。でも、伝わる人がいればすごく嬉しいし、伝わらなくてもただ単に楽しんでもらえたらいいしっていうのはあります。

――その両面があるからこそ、挾間さんの作品って、他の人との作品と一線を画しているところがあるんじゃないかなと思います。

挾間: マニアックな部分は絶対残すの、絶対(笑)。そういう部分はいつもあるわけですよ。そのセオリーの蓋をあければキリがないじゃないですか、作曲家のマニアックな話みたいなのは。だから別にそれをお客様に知ってもらう必要はないわけですよ。純粋に音楽を楽しんで聴いていただけたらそれが一番嬉しいんです。でも時々、こうやってマニアックな人が現れて(笑)、ここはこうなっているんですが、とか指摘される。それはそれで「……ニヤ」みたいな(笑)。

――マニアックですみません(笑)。でもそれって、すごくクラシック音楽的な楽しみ方だと思うんですよね。全員が全員じゃないですけど、やっぱりそれこそ「音楽の友」みたいな専門誌を買う人は、それこそアナリーゼとか専門的な解説をすごく楽しみにしている方もいるわけですよね。

挾間 そうか、みんなマニアックなんだな(笑)

今後の活動と展望「視覚的なものにも挑戦していきたい」

――そして6月2日(土)には、コンポーザー・イン・レジデンスを務めていらっしゃるシエナ・ウインド・オーケストラの定期演奏会にご出演されますね。

 特に注目なのが、挾間さんがサックスとピアノのために作曲した《サクソフォン・ソナタ第1番 –秘色(ひそく)の王国–》の吹奏楽版を初演されることですね。しかも、サクソフォン・ソロが日本を代表する名手の須川展也さんと聞いては、期待に胸が高まります。

挾間 今、急に思ったんですけど、このサクソフォン・ソナタの1番を書いているときはモンクのときと真逆だったかも。最初はピアノとサックスのために書いたのですが、その時点から吹奏楽やオーケストラで演奏しているかのようなサウンドが頭のなかに響いてしまっていたんです。なので、ピアノ伴奏がオリジナルなはずなのに、オーケストラの譜面をリダクションしたみたいな楽譜に最初からなっているんです。

――じゃあ、今回の大編成のほうが作品本来の姿ということになんですね。そろそろお時間ということで、最後に今後の展望についてお聞かせください。

挾間 自分のグループである“m_unit”の活動と、また編曲家として広く何でも挑戦するということ。あとジャズ作曲家としては、ジャズ・ミュージシャンだけではなくていろいろなミュージシャンに演奏していただけるようなジャズの要素を使った作品を作っていく……シンフォニック・ジャズについても、ここに入りますね。長い目で見たら、シンフォニック・ジャズはとても興味があるので是非広めて行きたいし、そういう作品を書きたいと思っています。その活動を通じて自分の作風がどう変わっていくかは、今はなんとも……全然わかりません。

 広く知ってもらいたい曲が、自分の曲以外にももちろんたくさんあります。布教活動じゃないですけど、自分の活動を通して色んな人に出会えたら良いなと思います。

 

Miho Hazama & m_unit / Live at Jazz Standard (sneak peek)

 

――新しく挑戦したいことはありますか?

挾間 あとは視覚的なものも、もっとやっていきたい。それこそダンスとかバレエもそうですし、映画とか映像ともコラボレーションできたらいいなと。

――今後益々のご活躍を期待しております。本日はありがとうございました!

コンサート情報
シエナ・ウインド・オーケストラ 第46回定期演奏会

CROSSOVER シエナ・ウインド・オーケストラ 須川展也×原田慶太楼×挾間美帆

日時: 2018年6月2日(土) 14:20開場/15:00開演

会場: 文京シビックホール大ホール

料金: SS席6,000円/S席5,000円/A席4,000円/B席3,000円

 

《プログラム》

長生淳: 紺碧の波濤

挾間美帆(吹奏楽版初演): サクソフォン・ソナタ第1番―秘色(ひそく)の王国― *サクソフォン・ソロ:須川展也

挾間美帆: 組曲「The Dance」より3・4・5楽章

タルカス(挾間美帆編曲): エマーソン&レイク~吉松隆の管弦楽版に基づく吹奏楽アレンジ版~

 

公式サイト: https://sienawind.com/

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