オンラインでピアノレッスンをする先生3名に聞く、使用アプリや機材、指導内容とは
新型コロナウイルス感染予防策で、人と人との接触を避けなければいけないなか、コンサートなどのイベントのみならず、音楽のレッスン現場にも大きな影響が出ています。
歌や楽器を習うとき、生徒と先生とが向かい合い、音を出してアドバイスを受ける……この基本的なレッスンができない状況を切り抜けるため、さまざまな面から工夫されているピアノや音楽の指導者3名にお伺いしました。
音楽教室に通う方も、オンラインレッスンの準備にお読みください!
1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...
音楽レッスンも「オンライン」の時代
いま音楽を教える先生たちにも、「オンライン」や「リモート」の流れが到来しています。 この春から、ネット経由でのリモートレッスンを導入されている先生が増えているようです。
そこで、日頃より子どもから音大受験生、大人の生徒さんまで幅広くレッスンをされている3人のピアノの先生たちに緊急取材! アンケートにお答えいただき、オンライン用にどんな機材を使っているのか、レッスン上の工夫や生徒さんの反応などについて、現状を教えてもらいました。
江本純子さんの場合
3月第2週目から、本格的にリモートレッスンを開始したと江本さん。現在では全員の生徒をリモートに切り替え、週に2回ほどレッスンしているそうです。
iPad Proのインカメラを、手元と鍵盤が映るように設置。スピーカーやイヤフォンを接続して使っています。
生徒さんと繋がるためにのアプリは、さまざまなものを試してきたそうです。Zoom、FaceTime、Messenger、LINE、Google Duo、Google Hangout、Skype、Skype Meetなどなど。それらの中でも、Skypeを主に使用中。理由は、動作が安定しているうえ、生徒側のカメラ映像と、先生側のカメラ映像を、同時に画面に出せる「画面共有」ができるから。一方通行にならないように、その場で生徒に楽譜への書き込みをさせたり、画面上でドリルの丸つけなどもしています。
ただし、生徒さん側のネット環境によっては音が途切れてしまったり、音質の問題は生じています。その場合には、別撮りした動画を送ってもらい、そちらをもとに指導することも。
オンラインにしたことで、生徒が家の猫を抱いて嬉しそうな笑顔を見せてくれたり、海外からの生徒にも対応できたりと、これまでにはなかった新しいコミュニケーションも生まれているようです。「会えない」こんな時期だからこそ、グループでのオンライン弾き合い会で盛り上がるなどして、レッスン継続のモチベーションを維持しています。
末永匡さんの場合
希望する生徒からリモートレッスンをスタート。当初は全体の2割程度でしたが、徐々に問い合わせが増えているそう。
レッスンにはタブレットを使用しています。iPad Pro 12.9インチを、固定することなく譜面台や手元など臨機応変に移動させて映像を映しています。アプリは音質と画質がほかのアプリより比較的よいことから、FaceTimeを使っていますが、持っていない場合は、演奏データを送っていただいたり、
末永さんは、オンライン上でのコミュニケーションとして、次のことを心掛けています。
- 話すときは一文を短めに、早口にならないようにする。
- お互いの声が重なると聞き取りにくくなるので、生徒が話し終えるのをちゃんと待つ。
- 視覚的にもわかりやすいように、大きく相槌を打ったり、表情を豊かにする。
- 演奏で伝えられる情報には限りがあるので、音楽史や曲の分析のことなど、座学的なお話をいつもより多くしたり、リラックスできる話題も盛り込む。
- レッスンの終わりに、「今日学んだこと」を明確にまとめて終える。
こうした工夫もあって、生徒たちからの反応はとてもよく、「充実した学びの時間」「目標ができて生活に力を与えてくれる」といった感想が届いているとのこと。
しかし、「今はリモートに対する好奇心も高まっている状況なので、これが長期化・恒常化した場合についてはしっかり考え、工夫を重ねていきたい」とのことです。
また、末永さんはレッスンのほかにも、3月中旬から6回にわたるオンラインセミナーを初開催。ベートーヴェンのピアノ・ソナタを題材に、分析と表現方法をディスカッションし合う試みで、音大の学生、演奏家、作曲家、音楽関係者が参加しました。アプリはZoomを利用。交通費や移動時間をかけることなく、遠隔地からも参加できるのが大きな利点。参加者からは「インタラクティブだった」「画面越しでも参加者との交流がうれしかった」「深い学びとなった」という声が届いたそうです。
まだまだ工夫の余地や課題を感じている末永さんですが、「学び」の機会を大切にとらえ、提供していきたいと考えています。
松枝由紀子さんの場合
松枝さんは在籍する生徒の半数以上を、それぞれに週1回のペースでリモートレッスンしています。
機材を充実させながら、情報量の多いレッスンを目指しています。
先生側で使用しているのは、Webカメラ2台とタブレットの計3台のカメラと、マイク。Webカメラは鍵盤と先生の顔、タブレットは楽譜を画面に出して書き込みもしながら、生徒にできるだけ多くの情報を伝えます。お互いの顔を映すことも大事なポイントです。
可能な生徒には、スマホ、タブレット、パソコンなどから2台を使用してもらい、1台は手元を写すカメラ用、1台はスクリーン用として使ってもらいます。
また、オンラインによる音声の性質上、グランドピアノではなく、電子ピアノの音がクリアに届けられることも判明。デバイスをセットした電子ピアノを活用しています。
※このあと、「ピアノの残響が電子ピアノだと聴こえない」と生徒に言われたことが気になって、グランドピアノのほうに機材の引越しをしたとのこと。
アプリはCisco Webex Meetingsを使用。カメラ3台を接続することと、ソルフェージュなどのグループレッスンも行なうことを前提に、時間や参加人数の制限を気にしなくていいアプリを選んでいます。生徒はアプリを用意すれば、登録せずに使えるとのこと。
相手がiPhoneなどのアップル製品を使用していれば、FaceTimeも使用しています。電話番号で気楽につながり音質もよく、操作が苦手な方にもおススメしやすいそうです。
また、オンラインで聴音にチャレンジしたところ、残響が「休符にしか聴こえない」と高校生の生徒から言われたそうですが、このときはグランドピアノにマイクを設置して、FaceTimeを使うのがいちばんわかりやすく聴こえたそうです。
リモートレッスンを初めて受ける生徒には、アプリのインストールから丁寧にガイダンスし、不定期でお試し会なども開催しています。
とはいえ、オンラインはあくまでも対面レッスンの「つなぎ」と考える松枝さん。休校中、せっかく家で練習する時間が増えた生徒たちがピアノから離れていかないように、その成果を見届け、ピアノで癒される時間をとってほしいという思いがあります。1週間に一度、画面越しとはいえ、「顔を見て話せる、聴ける、弾ける」。そのことが安心材料に繋がると考えています。
逆境から生まれる新たな発見
オンラインの環境は、それぞれのWi-Fi速度や使用端末などによって、家庭ごとに差が出るのが現状です。どうしても通話にタイムラグが発生したり、音声や映像がストップしたり乱れたり、ということも起こります。
レッスンを受ける生徒側としても、できればスマホよりもタブレットなど大きなディスプレイを用意したり、十分なWi-Fiの速度を確保するなど、ストレス軽減の工夫をできるとよいですね。
短期間の間でスピーディに対応し、さまざまな試行錯誤をしているピアノの先生たちの取り組みをご紹介しました。生演奏や対面レッスンの価値は言うまでもありませんが、レッスンを受けたい、授けたいという、それぞれの強い思いが結びつき、新たな発見や可能性が広がっているように感じます。
ピアノを教える人、学ぶ人のための雑誌「ムジカノーヴァ」6月号(5月20日発売/音楽之友社)の特集は、「オンラインでできる ピアノ指導が知りたい」。
オンライン・レッスンで必要な機材や設置のしかた、ゼロからのアプリ使用法、レッスンのしかた等、具体的なノウハウを詳しく解説しています。
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