インタビュー
2023.08.19
世界のオーケストラ楽屋通信 Vol.4 大西梓(オルケストラ・ダ・カメラ・ディ・ペルージャ コンサートマスター)

色彩感のある音色を大切に!おしゃべりなイタリア人に負けず練習を仕切るコンサートマスター

世界各国のオーケストラで活躍する日本人奏者へのインタビュー連載。お国柄を感じるエピソードやカルチャーショックを受けた体験などを教えてもらいます。オーケストラの内側から、さまざまな国の文化をのぞいてみましょう!
第4回は、オルケストラ・ダ・カメラ・ディ・ペルージャでコンサートマスターを務める大西梓さん。イタリア人は勉強熱心でリハーサルの時間も厳守!? イタリア人の「らしさ」と意外性の両方を教えてもらいました!

ONTOMO編集部
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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

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レパートリーは室内楽の要素が強い小編成からジャズまで! 師匠の跡を継いでコンサートマスターに就任

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——所属されているオーケストラについて教えてください。

大西 がコンサートマスターを務めるオルケストラ・ダ・カメラ・ディ・ペルージャ(日本語に直訳すると「ペルージャ室内管弦楽団」)は、正式メンバーは20人と小編成ですが、編成はプログラムにより、かなりフレキシブルに対応できる団体です。

イタリア半島のちょうど真ん中に位置する、緑豊かなウンブリア州(「イタリアの緑の心臓」とも呼ばれる)の州都ペルージャを拠点に活動しています。

ペルージャの街は、紀元前エトルリア時代からの歴史があり、その後中世に繁栄した丘の上の古都。街中には、紀元前からの建物や、中世の街並みがそのまま残っているので、歴史の厚みを感じる美しい街です。

ペルージャ旧市街のメイン広場。待ち合わせによく使われる、マッジョーレ噴水。夜景も素敵です。

大西 私たちのオーケストラの特徴は、室内楽の要素が強いところです。

指揮者なしでのコンサートも多いため、室内楽の力がとても重要になり、小編成であるからこそ一人ひとりの室内楽レベルが試されます。

そのため、特に指揮者なしでのコンサートでは、各パートのトップ奏者たちとの連携プレーが大切になってきます。私の動き、弓運びや顔の表情を、瞬時に汲み取ってくれると同時に、彼らから投げかけられる音楽の対話は、まさに室内楽の醍醐味です。

大西梓(おおにし・あずさ)
桐朋学園大学音楽学部卒業後、イタリアに渡り、ペルージャのフランチェスコ・モルラッキ音楽院を最優秀および称賛を受けて卒業。ローマのサンタ・チェチーリア国立アカデミーのヴァイオリンコースを首席卒業。
第17回日本クラシック音楽コンクール、弦楽器部門大学の部第2位(第1位なし)。2010年、リーヴィエーラ・エトゥルスカ・コンクール(イタリア)第1位。ピアノトリオ“Trio Les Amis”では、13年、プレミオ・グイード・パピーノ国際室内楽コンクール第2位。
これまでに、ヴァイオリンを名倉淑子、影山優子、P.フランチェスキーニ、S.チャケリアン、M.フィオリーニの各氏に師事、室内楽を藤原浜雄、北本秀樹、F.ペピチェッリ、トリオ・ディ・パルマの各氏に師事。バロックヴァイオリンをL・ジャルディーニに師事。
2020年より、イタリアのオルケストラ・ダ・カメラ・ディ・ペルージャのコンサートマスターに就任。弦楽合奏団イ・ソリスティ・アクイラーニの副首席および、アンサンブル・きなりの活動も行なっている。

大西 レパートリーとしては幅広く、古典作品を得意としていますが、バロックから現代曲までクラシックはもちろん、ジャズ奏者とのコンサートもこなします。ペルージャでは、毎年7月にヨーロッパ最大級のジャズフェスティバル「ウンブリアジャズ」が行なわれるので、そこでの共演がきっかけとなり、ジャズ奏者とのコラボレーションも増えました。

基本的に、イタリア国内を中心に活動していますが、コロナ前までは日本の草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァルにも毎年出演させていただいていました。また日本へ行けることを、メンバーも楽しみにしています。

——なぜこのオーケストラに入ろうと思ったのですか?

大西 私がイタリアに来たきっかけは、先代コンサートマスターのパオロ・フランチェスキーニ先生との出会いに遡ります。草津夏期国際音楽アカデミーにて、彼のマスタークラスを受けたことがきっかけで、2008年にペルージャ音楽院へ留学しました。

その後、音楽院での勉強と両立させながら、弦楽合奏団イ・ソリスティ・ディ・ペルージャ(ペルージャのオーケストラの先駆けとなった団体)のメンバーとしても、フランチェスキーニ先生の元で修行することができました。

オルケストラ・ダ・カメラ・ディ・ペルージャとなってから、今年で10年目となりますが、私がコンサートマスターに就任したのは、2年前になります。先生は長年、コンサートマスターとしてのノウハウも教えてくださり、多くのことを学ぶことができました。先生の引退後、オーケストラからノミネートしていただき、彼らの持ち味である色彩感のある音色を守るとともに、さらなるオーケストラの向上を目指して、跡を継ぐことを決意しました。

弦楽合奏団だった時代は、1st、2ndヴァイオリンパートだけでなく、ヴィオラのメンバーが欠けたときに、急遽臨時でヴィオラを演奏していた時期もあります。その経験のおかげで、各パートの苦労や重要性などを身を持って勉強することができたことは、私の強みだと思います。

——楽団員とのコミュニケーションは何語でされていますか?

大西 イタリア語です。コンサートマスターとなり、自分から話さないといけない場面が、以前に増して多くなりました。

イタリア人は、基本的におしゃべりなので、こちらが少し油断してしまったり、言葉に詰まってしまうと、容赦せずにすぐに横から割り込まれてしまいます。そのため、彼らをまとめるのは、かなり大変……というのが正直なところです。

イタリアに来て15年になりますが、リハーサル時に、自分がイタリア語で仕切っていくことは、やはり今でも難しいと感じることがよくあります。それでも、とにかく経験していかないと身に付かないので、体当たり精神で挑んでいます。

ウンブリア州の地元密着型プロジェクトの様子

根拠がなくてもAndrà tutto bene!(なんとかうまくいくよ!)

——お国柄を感じたエピソードや日本とは違うなぁと感じる点を教えてください。

大西 いろいろありますが、イベントやコンサートのオーガナイズに振り回されることでしょうか。オーガナイズの時点でしっかりしていないことがあるので、本番直前まで、どうなるかわからない……なんていうことも、よくあります。

それでも、この国は最終的にはなんとかなるので、そこが不思議です。「Andrà tutto bene!(なんとかうまくいくよ!)」という言葉を、イタリアではよく耳にしますが、まったく根拠がなくてもこの言葉。ちょっとしたことでは、動揺しなくなりました(笑)。みんな臨機応変で、その場その場の解決能力に優れています。

ペルージャで行なわれるお祭り「1416」の様子。中世からルネサンスがテーマのお祭りです。

大西 細かなエピソードは日常茶飯事なので、書ききれませんが、例えば、ここのオーケストラに限らず、コンサート会場にあるはずの譜面台がなかったり、遠征コンサートのときに、メンバーを乗せたバスが途中で故障し、立ち往生したりということも何回かありました。

また、サルデーニャ島で行なわれたコンサートでは、コンサート前に予定として組まれていたレストランでの食事が、レストラン側の手違いで遅れ、そのため開演時間が30分以上遅れたことも。客席からのブーイングのなか、ソリストや周りのスタッフたちはまったく焦る様子もなく、何事もなかったかのようにコンサートが始まり、最終的にスタンディングオベーションで大盛況で終わりました。

ただし、イタリアでもオーケストラの普段の練習が時間厳守なのは、日本と同じです!

ペルージャは丘の上にあるので、景色を見下ろすと雲海が広がることも。

——「この国に来てよかった!」と感じるのはどんなときですか?

大西 私が音楽理論や音楽史で学んだことなどを、実際に演奏表現に結びつけることができるようになったのは、イタリアに来たお陰だと思います。

特に、第一線で活躍しているイタリア人演奏家は、和声の色彩感に対してとても繊細な人が多く、彼らから吸収できた部分は、自分の財産だと思います。

また、イタリア人は何事もディスカッションをするのが好きで、学者気質の演奏家も多く、音楽作品に対しても、とにかく意見交換ができるのは面白いです。意外と思われるかもしれませんが、イタリア人は勉強熱心な人が多いです。そして、個人の感性を大切にする文化。

知識と個人の感性が交わった結果、素晴らしい創造力が生まれることを、感覚で覚えることができました。

オルケストラ・ダ・カメラ・ディ・ペルージャによるハイドン:交響曲第49番

——おすすめのローカルフードを教えてください。

大西 私の住むウンブリア州は、海に面していないので、肉料理が伝統的です。料理はもちろん、濃厚なオリーブオイルや、地元ジビエ料理に合うウンブリアワインもすべて美味しいです!選ぶのが難しいのですが、ウンブリア州のストリートフードであるポルケッタ(豚の丸焼き)のパニーニ(イタリア風サンドイッチ)は、お手軽でとても美味しいです。

ポルケッタ
ポルケッタのパニーニ

大西 トルチリオーネという焼き菓子も、おすすめです。クリスマスの時期のお菓子で、アーモンド生地で作られ、蛇の形をしています。ウナギが捕れるトラジメーノ湖周辺ではウナギの形という説もあります。

義母作のトルチリオーネ
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