インタビュー
2024.05.18
世界のオーケストラ楽屋通信 Vol.8 森武大和(ORFウィーン放送交響楽団コントラバス奏者)

ウィンナーワルツはお手のもの!オーストリアの文化や言語が演奏にも表れるウィーン放送響

世界各国のオーケストラで活躍する日本人奏者へのインタビュー連載。オーケストラの内側から、さまざまな国の文化をのぞいてみましょう!
第8回は、ORFウィーン放送交響楽団コントラバス奏者の森武大和さん。オーストリアのドイツ語の響きや「オーストリア的解決法」が音楽にも表れる!? ウィーンならではのとっておきの週末の過ごし方やウィーングルメについても教えてくれました。

ONTOMO編集部
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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

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近現代のレパートリーももつオーストリア唯一の放送交響楽団

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——所属されているオーケストラについて教えてください。

森武 オーストリア国営放送ORFを母体とする、オーストリアで唯一の放送交響楽団です。日本で言うとN響のような立ち位置ですね。保守的なウィーンにありながら、とてもリベラルで和気藹々とした雰囲気のオーケストラです。

団員同士や放送局の職員さん同士もとても仲が良く、オーケストラ内を見渡しても苦手な人が一人もいません。これって結構すごくないですか? なので街角で団員さんに会うと立ち話になるか、最低でも手を振ります。なんだかんだでドイツ語圏では5つ目のオーケストラですが、今まで経験したオーケストラの中で一番楽しく過ごせており、職場に向かう足取りは軽やかです。

森武 ウィーン放送響はもともと、近現代のレパートリーも演奏できるように設立されたオーケストラなので、オーストリア内でも特に機能が現代的にブラッシュアップされています。例えばホルンはフランス式ですが、これはオーストリアではとても珍しいことなんです。ウィーンのオーケストラは伝統的にホルン、オーボエ、ティンパニなどは“ウィーン式”の楽器を使用していますが、ウィーン式だけでは近現代のレパートリーを演奏することがだんだん難しくなってきたので、アップデート版オーケストラが作られたわけです。

演奏の質はとても高く、リハーサル中「みんな上手だな」と感心することが多々あります。録音も多いオーケストラなので、アンサンブルの縦線を揃えるのが得意なのですが、その反面、オペラなど意識的に縦線を少しずらしたり滲ませたりしなければいけない曲目はあまり得意ではありません。具体的な例を挙げると、残響時間の短いオペラハウスなどでオペラを演奏する際、縦線が揃いすぎていると音がコンパクトになってしまって、舞台上の歌手は「響きが少ない」と感じてしまうからです。ミクロのズレ感が音色をリッチにしてくれることもあるんです。 

森武大和(もりたけ・やまと)
福岡県出身。15歳からコントラバスを始める。東京藝術大学を卒業後ミュンヘン音楽大学マイスタークラス及びブルックナー音楽大学マスタークラスに学び、満場一致の最高点で卒業。コントラバス奏者としての活動とともにエレクトリックベースを独学で学び、ソリストとしてデニス・ラッセル・デイヴィス、リンツ・ブルックナー管弦楽団と共演し、ウィーン楽友協会大ホールにデビューする。山本修、永島義男、西田直文、ハインリッヒ・ブラウン、アントン・シャッヘンホーファー、ヘルベルト・マイヤーの各氏に師事。ヤマハ留学支援制度、ユー国際文化交流支援基金奨学生。バイエルン放送交響楽団アカデミー生、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団契約団員、2012〜2018年リンツ・ブルックナー管弦楽団正団員ならび同団契約首席奏者を経て、2018年よりウィーン放送交響楽団へ入団し、試用期間を満票で合格。ウィーンを始めヨーロッパ各地でリサイタルを開催し好評を博している他、オーストリア各地で災害被災者や小児がん、難民支援などの慈善コンサートを定期的に主催している。音楽学にも積極的に取り組んでおり、発表したコントラバスの調弦の歴史に関する論文でオーストリア国営放送にインタビューを受ける。チェコ・シマンドル国際コントラバスコンクール第1位並びフッカ特別賞受賞。上オーストリア州立音楽学校教師。

——なぜこのオーケストラに入ろうと思ったのですか?

森武 コントラバスにはチェロのように弓を上から持つ「フランス式」と弓を下から持つ「ドイツ式」があります。僕は弓を下から持つ「ドイツ式」です。鉄棒の順手、逆手みたいなイメージでしょうか。オーケストラもフランス語圏ではフランス式、ドイツ語圏ではドイツ式と決まっていて、僕はドイツ式なのであまり迷いもなくドイツ語圏のオーケストラに入るつもりでいました。今まで40回以上オーデションを受け、受かったのがたまたまオーストリアでした。実はウィーン放送響も、どんなオーケストラなのかすら知らずにオーデションを受けました。気楽に受けたのが良かったのかもしれませんが、今でも相性が良いと感じています。

——楽団員とのコミュニケーションは何語でされていますか?

森武 基本的にはすべてドイツ語ですが、まだオーストリアに来て間もないアカデミー生のレッスンをするときには英語で話します。

オーストリアのドイツ語はドイツのドイツ語よりも格段にイントネーションが柔らかく、モーツァルトやシュトラウスみたいな柔らかい音楽にはオーストリア訛りの発音がしっくりくるし、柔らかい発音に耳が慣れているので、弦楽器演奏の発音も自然と柔らかくなります。

特にブルックナーはオーストリア・リンツ訛りがとても強いほうだったので、弦楽器が柔らかく演奏しているほうが個人的にはしっくりきます。リンツ訛りは日本で言うと秋田弁のような感じで、美しくメロディックですが、慣れないとドイツ人でも聞き取れません

逆に、ニュースキャスターのように綺麗な標準語を話す北ドイツのオーケストラがブルックナーを演奏すると、石造りの教会みたいにしっかりとした演奏になります。北ドイツのドイツ語は「こうであるので即ちこうでなければならない」みたいな表現が多いので、演奏も自然と論理的になるのかもしれません。言葉って音楽にけっこう影響するんですね。  

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