インタビュー
2020.04.22
新型コロナウイルス状況下をどう生きるか

大阪フィルと日本センチュリーに聞く、クラシックにおける無料配信の役割とは

無料での舞台や公演の動画配信が増えるなか、その舞台裏で企画制作する人たちはどう考えているのだろうか。関西で活動する音楽ライター、桒田萌さんが大阪フィルハーモニー交響楽団と日本センチュリー交響楽団にオンライン取材!

桒田萌
桒田萌 音楽ライター

1997年大阪生まれの編集者/ライター。夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オウ...

写真提供:大阪フィルハーモニー交響楽団、日本センチュリー交響楽団

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苦境のなか無料で動画配信するクラシック界とその舞台裏

新型コロナウイルスの影響で、観客入りの上演を中止にし、ライブ映像の配信を行なうプロオーケストラが増え、さらに演奏者が集まることもできない現在は、配信内容も過去の公演映像にシフトしている。

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2月にイベント開催への自粛要請が出されてから、続々とコンサートは中止・延期となった。各団体・ホールなどで苦渋の決断が強いられながらも、無観客上演・ライブ映像配信に切り替えられたものも多く、中ではびわ湖ホールのオペラ公演『神々の黄昏』では、歴史的な上演に「#びわ湖リング」のハッシュタグも相まって、多くの視聴者が賑わいをみせた。

それまで主流だった「生演奏」でなく、ライブ映像で演奏を視聴することによって、新たな楽しみを見出す者も多いだろう。

日本センチュリー交響楽団がライブ配信を行なった「ニコニコ動画」では、演奏中は映像内に視聴者によるコメントが流しこまれ、他の人々と気持ちを共有することができた。SNSを見ながら感想をシェアすることも興味深い。また「喋ってはいけない」「物音を立ててはいけない」という、人によっては窮屈ともとれる状況が強いられることもない。

目の前で演奏が繰り広げられる「生」の魅力、演奏者と聴衆の対話と空気感は、音楽の醍醐味であるし、あくまでも、今行なわれている多くの映像配信は「無料」だ。公演が開催されないことで、多額の損失も生じ、文化芸術に携わる多くの人・団体が、苦境に立たされている。

しかし、もしかすると長きにわたって公演すら実施されない状況下から、「音楽を発信する」「音楽を聴く」という概念が移り変わる瞬間を、をわたしたちは目にしているのかもしれない。

今回、ライブ映像配信を行なった楽団のうち、大阪フィルハーモニー交響楽団と日本センチュリー交響楽団に注目し、無観客上演を行なうに至った舞台裏、厳しい状況に置かれた楽団の「今」を取り上げる。

工夫を凝らした映像配信好評を博した大阪フィルハーモニー交響楽団

動画でしか味わえない演奏会の楽しみを

大阪フィルハーモニー交響楽団は、3月19日・20日にフェスティバルホールで開催するはずだった第536回定期演奏会を、1日目のみ無観客上演行なった。その模様はクラシック専門ストリーミングサービス「CURTAIN CALL」から映像が配信され、後にアーカイブとして視聴可能となった。

アーカイブの映像には、フェスティバルホール近辺の街の様子から動画が始まり、そこから会場内に入り、とカメラが視聴者をホールに誘導している。上質なしつらえと趣のある空間が特徴的なフェスティバルホールに入り、ロビーにいるのは事務局次長の福山修さんと指揮者の井上道義さん。二人によるプレトークが始まり、演奏会は開始。

曲間や休憩時間には、マエストロによる作品の説明や、普段は見られないホール裏や楽屋の様子まで、演奏以外の楽しみを視聴者に提供していた。

一種の「番組」のような演出は、「CURTAIN CALL」と井上さんと福山さん、三者のアイデアによるもの。「実際に演奏会に来るだけでは見えない要素を打ち出したい」という思いから生まれた施しだ。

演奏はもちろん視聴者を飽きさせない工夫が盛り込まれた映像は、やはり好評。ライブ配信中、19万4千ものアクセスがあったという。

大阪フィルのライブ配信の概要(3月19日開催)

最寄り駅の渡辺橋駅から、中之島フェスティバルタワーまでの道中も映像に。
会場のフェスティバルホールへ入っていき……
大阪フィルの事務局次長、福山修さん(右)のプレトーク。そこに……
指揮者の井上道義さんが乱入! プログラムの作曲家について、クラシックにも馴染みのないお客さんに向けて紹介。
演奏会前半はハイドンの交響曲第2番、モーツァルトの交響曲第5番、ストラヴィンスキーのヴァイオリン協奏曲。
ロシア出身のヴァイオリニスト、アイレン・プリッチンさんのインタビューも。
休憩中は舞台裏を案内。歴史的な公演写真について、コメントするマエストロ。
後半はストラヴィンスキーのバレエ音楽《春の祭典》。
終演し、ホッとした表情の楽団員のみなさん。
《春の祭典》演奏中に舞台裏でライブペイントしていたカズ・オオモリさんと、その作品。始終、観客を飽きさせない希少な映像でした。

生演奏は一期一会の出会い

無観客上演が好評だった功を成してか、楽団への支援を呼びかけた結果、「毎日たくさんの方からの支援が増えている」と福山さん。この機会を生かし、ストリーミングを用いたさらなる収益獲得を目指すのか伺ったが、福山さんは「生の演奏会にこだわりたい」と話す。

「実際にコンサートホールに聴衆と演奏家がいると、その場で相互作用が生まれるんです。演奏に対して、聴衆が何かしらの反応を示して、それに応えるように演奏も発展する。そんな『一期一会』が音楽の醍醐味ですから。映像で音楽の魅力をある程度は伝えることはできますが、生演奏には及びません」

しかし、「外出しない」「3密は避ける」などの生活での制約がかかっている今、演奏会を開くことは現実的ではない。「あえてストリーミング配信を戦略的に行なう、ということは考えてはいません」と語るだけに、

「演奏を本業としている限り、今はとにかく待つしかない。とても厳しい状況ですし、不安定な状況を脱する方法を模索しているところです」

今しか伝えられないメッセージを届けたい

とはいえ、公演が中止・延期となり演奏披露の場を失った演奏家にとって、この状況はとてもつらいものだ。

「楽団員のメンタルへの影響もみられます。それでもみんな、もちろん音楽へのやる気を失っているわけではありません。今まで録画していた映像など、『アップロードしてほしい』といった声も上がっています」

映像配信は、あくまでも「演奏会へ足を運ぶきっかけ」を作るツールだ、と福山さん。

「この状況が永遠に続くわけではありません。来たる演奏会開催の日まで、模索しながら待つつもりです。そして、伝えたいメッセージを発信し続けること。それが私たちにできることだと考えています」

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