インタビュー
2020.07.18
クラシック界の困ったオタクたち。File.2

天守が存在していなくてもVRのように想像できる! 城に魅入られたヴァイオリニスト・水谷晃の白熱教室。

ただのオタクじゃない。「周りにいる人がちょっと迷惑するくらいのオタク、題して「困ったオタクたち」! クラシック音楽を生業としながら、音楽愛と同じくらい、あるいはそれ以上(!?)に何かに情熱を注ぐ人々に突撃インタビュー。
第2回は、「城」マニアの水谷晃さん(東京交響楽団/コンサートマスター)。城の魅力をとくとくと語っていただきました。「攻める気持ちで大手門から足を踏み入れ、帰るときは守る気持ちで別の通用門から去る」水谷さんの心得とは!?

今日のオタク
水谷晃
今日のオタク
水谷晃 東京交響楽団 コンサートマスター

大分市生まれ。桐朋学園大学を首席で卒業。ヴァイオリンを小林健次氏、室内楽を原田幸一郎・毛利伯郎の各氏と東京クヮルテットに師事。 在学中Verus String Qua...

お話を伺った人
オヤマダアツシ
お話を伺った人
オヤマダアツシ 音楽ライター

中学1年生のときにビートルズで音楽に目覚め、ドビュッシーでクラシック音楽に目覚める。 音楽漬けの学生時代を経て、広告コピーライターや各種PR誌の編集業務など...

写真:大坂城千貫櫓付近の石垣(撮影:水谷晃)

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「NHK大河ドラマは、ほぼ<壇ノ浦(源平)><桶狭間(戦国時代)><討ち入り(江戸中期)><池田屋(幕末)>を巡回している」という愉快な名言を残した方がいらっしゃり(ごめんなさい、誰かは忘れました)、そのルールでいえば今年の『麒麟がくる』は<桶狭間>の当番だ。戦いや栄華のシンボルとしてあちこちの「城」が舞台となる時代であり、その面影を求めて現地を訪れる人も少なくないと聞く。

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クラシック音楽界にも歴史ファンやお城の愛好家はいるのだろうと思っていたのだが、やはり「仕事であちこちの街を訪れたら、まずは城!」という方がいらっしゃいました。東京交響楽団のコンサートマスターを務めている水谷晃さんは、天守閣の屋根を見ただけでどこの城かを当ててしまうという天晴れなマニアさんでございます。

水谷晃(東京交響楽団/コンサートマスター)
大分市生まれ。桐朋学園大学を首席で卒業。ヴァイオリンを小林健次氏、室内楽を原田幸一郎・毛利伯郎の各氏と東京クヮルテットに師事。
在学中Verus String Quartetを結成し、第57回ミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門で第三位入賞。
2010年4月より国内最年少のコンサートマスターとして群馬交響楽団コンサートマスターに就任。2013年4月より東京交響楽団コンサートマスター。2018年6月よりオーケストラアンサンブル金沢客員コンサートマスターを兼任。
桐朋学園大学非常勤講師。

「音楽家仲間でお城好きには会いませんね。孤軍奮闘で伝道師のようにお城の魅力をアピールしてきましたが、全国のオーケストラを見渡して楽員の中に好きな方がいらっしゃるんじゃないかと、出会いを楽しみにしているんです。その土地のお城について熱く語り合いたいですし、お客さんとも一緒に楽しみたい。ヴァイオリニストになりたいと思う以前にお城と出会いましたので、自分の中ではライフワーク。音楽家は作品や演奏に興奮していてもステージ上ではそれをコントロールする術を知っていますが、お城に関しては興奮しっぱなしです」

……と、話し出したらターボがかかってしまう水谷さんですが、演奏旅行などで日本全国あちこちを訪問すると当然のようにその街と周辺の城を調べ上げ、万全の体制で(ときには前乗りで)その土地入りするという。

訪れたお城は100か所以上。その訪問方法も、なかなか独特だ(とはいえ、お城好きなら『そうっすよね、やっぱそれっすよね!』と納得できるスタイル)。

新型コロナウイルスの影響で、白熱教室はオンラインで行なわれました。

古地図と現在の地図を手にしながら街を歩く

「お城には『攻める気持ちで大手門から足を踏み入れ、帰るときは守る気持ちで別の通用門から去る』のです。途中には見どころがたくさんありますけれど、石垣に耳を当てて築城当時や最盛期に思いを馳せることもしますね。もし当時の天守などが残っていなくても、『どんな形の天守だったんだろう、あるとすればどんな景色だったろう』と想像しながら1時間でも2時間でもそこで過ごせます。

なぜここにお城を建てたのかという地理的な興味や人の流れ、街の作り方を見ながら『この城は難攻不落と言われるだけあって攻めるのは大変だな』とか、築城の年代を調べて『ここは加藤清正流なのか、藤堂高虎流なのか』と考えたり(註:どちらも築城技術に長けた戦国武将です)、その土地の変遷まで見えてくるんですよ」

桑名城(三重県)本丸跡。写真:水谷晃
赤く囲われた部分が、上の写真の部分。古地図と照らし合わせることで、立派な櫓や石垣はすべて取り除かれ、地形も改変されてしまったことがよくわかる。

「古地図と現在の地図を手にしながら街を歩くと、想像も膨らみますしね。その意味でお城の悲劇的な運命を今に伝えるのは三重県の桑名城(上写真)ですが、ここは徳川四天王の一人である本多忠勝の居城で、幕末になると『ここは幕府側の城だ!』というんで新政府軍によって徹底的に破壊されてしまい、今では辛うじて石垣が残っているんですけれど……(以下、熱いトークが続く)」

はい皆さん、ついてきていますか。

〜 今日の名言 〜

お城には『攻める気持ちで大手門から足を踏み入れ、帰るときは守る気持ちで別の通用門から去る』のです。

——水谷晃

「音楽は音楽(作品)にありのままを語らせる」という考え方とリンクしている

「水谷流・白熱教室」のお話をうかがっていると、お城が観光名所や建築物というだけではなく、その土地に伝わる歴史の悲哀なども教えてくれる語り部のように思えてくる。そういえば音楽も「なぜその作品はその時代にその街で生まれたのか」「この技法はどこからどうやって伝わったのか」「この楽器のルーツはどこなのか」などなど、歴史や流通、地理などがヒントになることも多いのだ。「モーツァルトはザルツブルクという交通の要所に生まれたから、周辺国の最新音楽トレンドを吸収できたのだ」というようなことが、お城を巡るあれこれにもあるのだろう。

ところでそんな水谷さんは、いつ、どうしてお城に開眼したのだろう。

「出身地である大分県の大分市にかつて府内城というお城があり、現在は天守も残っておらず石垣や小さなやぐらがあるくらいですが、小学生のときに『この石垣の上にはどういうお城が建っていたんだろう』と想像したら、いきなり面白くなってしまったのです」

府内城(大分県)の天守台。写真:水谷晃

「同じ頃、織田信長の安土城を想像で再現したイラストを本で見て『400年前にこんな絢爛豪華な建物があったのか』と驚いたことも、はまり込んだきっかけですね。お城にも天守が残っているもの、後世に再現したもの、再現されずに城跡だけが残っているものなどいろいろありますが、僕はVRみたいに想像して楽しみますから、なくても大丈夫。観光の目的などで再現したり整備したお城もありますけれど、僕は残されたままの姿が好きですね。『音楽は音楽(作品)にありのままを語らせる』という考え方と、僕の中ではリンクしているんです」

水谷さんが選ぶ! いま注目したいお城

さて、たくさんのお城を見てきた水谷さんに、いま注目したいお城をご紹介いただこう。

「まず大阪城ですね。現在の大阪城は江戸時代に徳川家康が築城したもので、あの下に家康が滅ぼした豊臣時代の大阪城(註:当時の表記は大坂城)が埋まっていることはよく知られていますが、現在の大阪城も本丸の石垣をぐるっと一周するだけですごさを感じます。測量の技術も高度だったろうし、大勢の人間を動かす権力や組織の体制もすごかったろうなと想像してしまいます」

大阪城(大阪府)千貫櫓付近の石垣。写真:水谷晃

メジャーどころの大阪城からマニアックな領域に思われる前記の桑名城まで、水谷さんが広範囲のお城に目を配っていることは明白だ。最近はオーケストラ・アンサンブル金沢の客演コンサートマスターとしても活動しているため、加賀百万石を誇る街のシンボル、金沢城の魅力も発信していきたいという。

「石垣がもう素晴らしい。前田利家が城主だった当時(安土桃山時代)は『野面積み』といって自然な形で石を積み上げた形。その後、時代が変遷する中で何度か増築していくのですが、江戸時代になると平和になりますから、石垣も防御のためではなく美観を重んじるようになって、ジグソーパズルのように美しくなり、何種類もの積み方をした石垣を時代順に見ることができるため『石垣の博物館』と呼ばれるほどです。

僕はそこに加賀百万石のプライドを垣間見ますし、権力者の徳川家に対して軍事力ではなく文化や技術力で対抗しようという意気込みを感じるんです。もし金沢城にいらっしゃることがありましたら、ぜひ石垣に注目してみてください」

金沢城(石川県)の丸石垣。写真:水谷晃

「水谷晃と行く熊本城ツアー」実現が待たれる……!

マニアが登場するテレビ番組を観ていると、知識の豊富さもさることながらガイドぶりも魅力的であり、「この人と同行したらどんなに楽しいか」と思わせてくれるが、お城マスターの水谷さんも、まさにそういう方だ。

「今後は『日本城郭検定』(というものがあるそうです)を受けたいと思っていますが、同じ音楽家仲間で受ける方がいらっしゃったら横のつながりも作り『オーケストラのコンサートを聴いてその街のお城も巡る』という新しいGO TOキャンペーンができないものかなと考えているんです。僕、演奏会で呼んでいただければ、どこでも行きますから。音楽家はそうしてみんなを巻き込む情熱も時には必要だと思います!」

なるほど! というプランも披露してくれた水谷さんが、今いちばん行きたいお城は熊本城だそう。

地元の方、ぜひコンサートと抱き合わせで「水谷晃と行く熊本城ツアー」を!

今日のオタク
水谷晃
今日のオタク
水谷晃 東京交響楽団 コンサートマスター

大分市生まれ。桐朋学園大学を首席で卒業。ヴァイオリンを小林健次氏、室内楽を原田幸一郎・毛利伯郎の各氏と東京クヮルテットに師事。 在学中Verus String Qua...

お話を伺った人
オヤマダアツシ
お話を伺った人
オヤマダアツシ 音楽ライター

中学1年生のときにビートルズで音楽に目覚め、ドビュッシーでクラシック音楽に目覚める。 音楽漬けの学生時代を経て、広告コピーライターや各種PR誌の編集業務など...

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