クラシック界の困ったオタクたち。File.1

あなたは何の「鉄」ですか? サクソフォニスト・上野耕平、鉄道愛を語る。

インタビュー
2018.09.05

ただのオタクじゃない。「周りにいる人がちょっと迷惑するくらいのオタク、題して「困ったオタクたち」! クラシック音楽を生業としながら、音楽愛と同じくらい、あるいはそれ以上(⁉)何かに情熱を注ぐ人々に突撃インタビュー。

第1回は、サクソフォーン・プレイヤーの上野耕平さん。自他ともに認める「鉄」の上野さん、特技は「サックスでミュージックホーンの再現」。なぜ鉄の世界へ? こだわりは? などなど、たっぷりお伺いしました。音楽にまったく関係ないインタビュー、お楽しみ下さい。

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写真:安宅真樹
今日のオタク
上野耕平 サクソフォン
上野耕平
今日のオタク
上野耕平 サクソフォン
1992年生まれ。 茨城県東海村出身。 8歳から吹奏楽部でサクソフォンを始め、東京藝術大学器楽科に入学。これまでに須川展也、鶴飼奈民、原博巳の各氏に師事。 第12回ジ...
お話を伺った人
オヤマダアツシ 音楽ライター
オヤマダアツシ
お話を伺った人
オヤマダアツシ 音楽ライター
中学1年生のときにビートルズで音楽に目覚め、ドビュッシーでクラシック音楽に目覚める。 音楽漬けの学生時代を経て、広告コピーライターや各種PR誌の編集業務など...

クラシックの音楽家には「鉄分過多」の人、多し。健康やサプリの話ではない。「鉄分」は「鉄道萌え」のことである。「オーケストラを見たら3人は<鉄>がいると思え」というのは音楽業界の(たぶん)常識だが、もちろんオケの楽員に限ったことではないのだ。

若きサクソフォーンのリーダーである上野耕平さんも、自他ともに認める「鉄分過多」の音楽家である。その実態とこだわりを探るべく、都内某所で到着を待っていると、楽器はもちろん楽器のアタッチメント類を収納したと思われるケースを持参して登場。ではさっそく取材を、と声をかけるとケースの中からとりだしたのは……。

ぜったいにかっこよく写してくださいね

はい、出ました、Nゲージの鉄道模型、いきなり。

「数え切れないほどある中の、厳選中の厳選です。特にこれ、キハ85『ワイドビューひだ』(註1・註2)の展望席になっている先頭車両ですが、僕はこうして(と、2両をつなげる)連結するのが好きなんですよ。「先頭車閉じ込め」(註3)っていうんですけれど、せっかくの運転台も付いた立派な先頭車なのにその役割を黙殺するような行為ですよね。でもお盆などの繁忙期にこうして走ることがあるんです。だからやりたかった。もうたまりませんね」

<鉄>ではないあなたに、ちょっとした解説

[註1:ワイドビューひだ]
JR高山本線を中心に走る観光用特急。先頭車両からの眺めを良くするために大きな窓になっているのが特徴。

[註2:キハ85系]
鉄道ファンなら知っていて当然の車両記号。キ=気動車(ディーゼル車)、ハ=普通客車、85系=車両の形式番号。多くは車両外側の両脇腹あたりに掲示されている。

[註3:先頭車閉じ込め]
先頭車が向かい合うように連結するのはよくあるが、このパターンはなかなか珍しい。

右側の、2列同じ車両が繋がっているのが「先頭車閉じ込め」。先頭車両を無駄にしているのだ!

と、いきなりの高速ギア・トークに、振り落とされないようしがみつく取材陣であります。これ、模型店などで買ってきて並べるんですか。

「模型そのものを買ってくるだけじゃなく、自分でキットを買ってきて作ることもあります。エアブラシを使って塗装もして、きれいなままではなくクーラーや床下はリアルにちょっと汚すんです。特にここ、自慢です。よーーーく見てくださいね。展望車の座席の枕カバーも自作しました。カッターで短く切って、ひとつひとつ座席につけたんです。材料がなんと楽譜を製本するときに使う専用のテープ。本物と素材がそっくりだし、微妙な色の具合がもう!」

普段は見えない「天井」は、重要な要素。
上野さん自作の枕カバー!

ああ、取材者(=オヤマダ)も軍艦や戦闘機などのプラモデルを作っていたクチなので、このこだわりは理解できます。そのうち、世の中のあらゆるものが「あれは、あの部分に使えるな」と素材に見えてくるんですよね。

完成した車両は自宅で飾っておくのだが、走らせたいときはレンタルレイアウトと呼ばれるジオラマのようなセットがあるところに、車両持参で行くとのこと(註4)。すでに音楽家仲間もいるそうだ。いきなりの車両フェチ、モノフェチな「鉄」の具合に、取材の先が思いやられる……じゃなくてワクワクしてきた取材陣です。

<鉄>ではないあなたに、ちょっとした解説

[註4:レンタルレイアウト]

某有名「鉄」のマエストロのように、ご自宅の一室を丸ごと鉄道模型部屋にして走らせているという方もいらっしゃいます。

上野鉄道少年、語る。本気モード(メガネ)だ。

そもそも、いつ、どういったことから「鉄」の道を歩み始めたのだろうか。

「物心ついたときから鉄道好きです。幼い頃に住んでいたアパートのすぐそばをJR常磐線が走っていたので、朝から夜まで電車を観ていますから、当然好きになるわけです。僕は記憶にないんですが、踏切の真似が好きだったらしいですね。プラレールでも遊んでいましたが、カーブのところを平面で走ることが許せなくて、レールを傾けながら本物の電車のように見えるよう工夫しました。音楽に出会う以前からの鉄道好きです」

電車はカーブするとき傾く。上野少年の観察眼、恐るべし。

音楽家だから「音」が気になってしまう!

ところで上野さんはテレビなどにも登場。人気の「鉄道BIG4」たちと列車旅をして、ご満悦の様子が映し出されたのを観た方も多いだろう。そこで披露され、並みいる「鉄」の猛者たちを歓喜させたのが「サクソフォンでミュージックホーン」という超絶技であります(テレビ観ながら笑った)。

「あれは名鉄のパノラマカー(註5)が鳴らす警笛音です。名鉄は幼い頃から憧れの車両で、パノラマカーの運転手になりたかったくらいです。警笛音としてメロディになっているもののパイオニアですよね。でも絶対に作曲者を明かしてくれないんです。公式の楽譜だってあるのに。今度僕に『名鉄ミュージックホーンの作曲者を探せ』っていう企画、やらせてもらえませんか」

と、ますますグイグイくる上野さんだが、さっそく“本業”のサクソフォンでミュージックホーンを聴かせていただく。

<鉄>ではないあなたに、ちょっとした解説

[註5:名鉄のパノラマカー]

名鉄(名古屋鉄道)を走る展望席付きの特急列車。1961年に導入されたという長い歴史をもち、さまざまなタイプの車両が導入されてきた。幼い上野耕平少年が、岐阜に住む親戚を訪れる際に出会った思い出の列車。

「それぞれ音程や音色が違い、微分音を使って演奏しているものもあります」

恐れ入りました。音楽家としての本領発揮です。これもしかすると、全国各地のメロディを使って「ミュージックホーンによる交響的変容」みたいな曲ができるんじゃないか、と妄想したくなるほどのクオリティだ。

さらに「音」がらみでは、乗っている車両のモーター音を録音するという、これぞマニアの領域!とでもいうべき世界へ。

「これは! と思ったモーター音は、すぐスマホで録音します。関東では有名なものだと京浜急行の発車時に、音階で歌う電車ですね(註6)。この前、よく聴くとどうもモーターの調子が悪いのか、最初にトリルが入るメロディになっていたんですよ(笑)。そういうのに偶然出会えると大喜びです。そろそろビョーキの域でしょうか」

<鉄>ではないあなたに、ちょっとした解説

[註6:音階で歌う電車]

京浜急行の一部車両(特急など)が発車する際に、先頭のモーター車に乗っていると床下から聞こえてくる音階メロディ。加速する際にVVVFインバーター制御(通称「ドレミファインバーター」)と呼ばれるシステムを導入しており、モーター音が音階として聞こえる。

録音した音のファイル名は、乗った車両形式と録音した区間で

音楽家にも同業者(=「鉄」な人)は多いはずだが、交流もありそうですよね。

「オケへ客演に行くと、事務局の方に『あの楽員さんも好きだから話しかけてみてくださいね』と言われますね。同業者(=重ねていいますが「鉄」な人のことです)だけでオケが作れそうないきおいです」

いやはや、恐るべし「鉄分過多」の世界。しかし、まだまだこれから。次回はさらに深みへとはまり込み、一般人(=非「鉄」人)であればあっけにとられるような、上野耕平流「乗り鉄の世界」をお楽しみいただきましょう。

はみだしコラム「困った人たちの証言」

今回のインタビュー、実はマネジメント・スタッフからのこんなひと言から始まった。「どこであれ公演の目的地へ行くのに、乗ったことがない鉄道で行きたいって言うんですよね、もう(←あきらめ顔)」。飛行機や新幹線を使い、最短時間で行くという発想などないのが「鉄」たる証。「以前はレヴ(彼が所属するザ・レヴ・サクソフォン・クヮルテット)のメンバーも巻き込んでいましたが、みんな全然興味なさそうなのでやめました。僕もオトナになったんです」という上野さんだが、その乗り鉄ぶりは、次回(後編)でスパークしますからお楽しみに。

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