ほぼ日サイエンスフェロー/スズキ・メソード会長 早野龍五インタビュー(前編)

「どの子も育つ」鈴木鎮一の音楽教育を体験して

インタビュー
2018.03.30

物理学者・早野龍五さんは、才能教育研究会(スズキ・メソード)の会長を務めている。ほぼ日本社にて、ほぼ日カルテットのメンバーの皆さんも交えてインタビューを行なった。

お話した人
早野龍五 物理学者
早野龍五
お話した人
早野龍五 物理学者
1952年、岐阜県生まれ。物理学者。 東京大学大学院理学系研究科教授。専門はエキゾチック原子。 スイスのCERN(欧州合同原子核研究機関)を拠点に、反陽子ヘリウム原子...
インタビューした人
山田治生 音楽評論家
山田治生
インタビューした人
山田治生 音楽評論家
1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

 世界的な物理学者であり、2016年からは才能教育研究会(スズキ・メソード)の会長を務める早野龍五さんを東京・北青山にある「株式会社ほぼ日」の本社に訪ねた。東京大学名誉教授である早野さんは、現在、ほぼ日サイエンスフェローを務めている。ユニークなコンテンツを発信している「ほぼ日刊イトイ新聞」(通称「ほぼ日」)を主宰する糸井重里氏とは「知ろうとすること。」という共著書がある。東大やジュネーヴのCERN(欧州合同原子核研究機関)での研究のほかに、福島第一原子力発電所事故に際してはTwitterから積極的に情報を発信した。

 そんな早野さんは、少年時代、スズキ・メソードの創始者である鈴木鎮一から直接ヴァイオリンの指導を受けていた。そして、スズキ・メソードが世界に広がるきっかけとなった第1回海外演奏旅行に「テン・チルドレン」の一人として参加した。

チェーン・スモーカーのおじいさん。でも精神的な気高さをもっている人だった

早野: 僕は岐阜県大垣市生まれですが、父が信州大学の医学部に赴任することになり、家族で松本に引っ越しました。そして父の知人のすすめで当時の松本音楽院(鈴木鎮一が1946年に創設)でヴァイオリンを習うようになったのです。

早野: 最初は鈴木先生ではない先生に習っていましたが、しばらくして鈴木先生の自宅で週1回のレッスンを受けるようになりました。奥様がドイツ人で、レッスンは当時の松本では珍しい洋間で行なわれ、生徒や親は他の子どものレッスンも聴きました。僕は幼稚園に行かなかったので、鈴木先生の家で、ヴァイオリンを弾いたり、先生の話を聴いたり、遊んだり、長い時間を過ごさせていただきました。先生の家は外国からのお客さんも多くて、よくお客さんの前でデモンストレーション演奏をさせられましたね。

少年時代の早野さん
少年時代の早野さん

早野: 鈴木先生はたいへんなチェーン・スモーカーで、煙たく(笑)、指は真っ黄色なおじいさん。でも、子どもながら、普通の人とは違う精神的な気高さをもっている人だとは感じました。あらゆる能力と時間を子どもと向き合うことに当ててられました。

早野: 基本的には同じことを繰り返しおっしゃっていましたが、レッスンに発売直後のオープン・リールのテープレコーダーを採り入れるなど、新しいものにも関心をもっておられました。

 

アメリカを驚かせたテン・チルドレン

テン・チルドレン
テン・チルドレンの子どもたち

 1955年3月に東京体育館で第1回全国大会(注:今のグランドコンサート。このときは約1200名の生徒が合奏に参加した)があり、そのときの映像フィルムがアメリカに持ち出され、アメリカの音楽教育者たちが大勢の子どもたちがバッハのドッペル・コンチェルトを弾いていることに驚愕。そして、スズキ・メソードの子どもたちをアメリカに招聘しようという企画がなされ、1964年3月、スズキ・メソードで学んでいた10名の子どもたちがアメリカに派遣された。この「テン・チルドレン」には、早野少年のほか、今、ヴァイオリニストとして大活躍する大谷康子もいた。

「テン・チルドレン」はアメリカで驚きをもって受け入れられた。また、このとき彼らの演奏を聴いて衝撃を受けた人々によって、後にベネズエラでエル・システマ(注:国家基金によって、貧しい環境の子どもたちに楽器を与え、教育を受けさせ、ユース・オーケストラを編成し、子どもたちを音楽に親しませるとともに非行や犯罪から守るというシステム。世界的な若手指揮者グスターボ・ドゥダメルもこのシステムから輩出された)が生み出されることになる。

 早野さんは高校時代に音楽の道には進まないことを決め、鈴木鎮一のレッスンを辞めた。そして東京大学に進学し、物理学者となった。その後、スズキ・メソードとは疎遠になっていたが、2013年に松本で開催されたスズキ・メソードの世界大会で基調講演をすることになり、関係が戻ったのであった。

 

子どもたちが両国国技館に集結。スズキ・メソード・グランドコンサート

グランドコンサートで一緒に演奏するほぼ日カルテットのお二人と
グランドコンサートで一緒に演奏するほぼ日カルテットのお二人と

 この4月4日に両国国技館で第54回グランドコンサートが開催される。2011年3月に予定されていた第53回が東日本大震災と福島第一原子力発電所事故の影響で中止になったため、実際には2009年の第52回大会以来、9年ぶりのグランドコンサートとなる。

 

早野: 僕が会長になって、グランドコンサートをいつ再開するか、タイミングを考えていました。基本的には公益社団法人の内部の行事なのですが、スズキ・メソードを社会に広報するよい機会でもあり、さまざまな形で外部とのつながりも考えました。今回は、ユニセフを退職された菊川穣さんが震災の被災地で始めたエル・システマジャパン(注:地方自治体の協力のもと、被災地の子どもたちを支援するため、音楽を通して生きる力を育む事業として2012年3月にスタート)も参加します。僕も相馬市の放射線に関するアドバイザーとして福島には関わりがあるので、グランドコンサートで是非一緒にやりましょうと声を掛けたのでした。こちらの2000人と、福島県相馬市と岩手県大槌町の子どもオーケストラの数十人との合同でベートーヴェンの交響曲第7番第4楽章を演奏します。

早野: 天皇皇后両陛下のご臨席も予定されています。また、ほぼ日からも、読者モデルみたいに初心者を募集し、ほぼ日の2人とともに、「ほぼ日カルテット」を結成して、4月4日のコンサートに参加します。ただいま、鋭意練習中です!

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