インタビュー
2023.02.09
3月18日東京交響楽団の定期で弾き振り、滅多に聴けないレアなプログラム

佐藤俊介「古楽も指揮もすべて表現手段」と語る新ヴァイオリニスト像~東響定期に登場!

モダン楽器/ピリオド楽器、器楽奏者/指揮者と言った境界線を軽やかに越え、ヨーロッパの古楽団体のコンサートマスターや音楽監督も務めるという、まさに21世紀のヴァイオリニスト像を体現する佐藤俊介さん。3月には東京交響楽団の定期演奏会に登場し、滅多に聴けないレアなプログラムで弾き振りをされます。選曲について詳しく伺うとともに、指揮を始めたきっかけや音楽家としての生き方についてもおききすることができました。

片桐卓也
片桐卓也 音楽ライター

1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...

左©青柳聡
右©Marco Borggreve

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クラシック音楽でのヴァイオリン演奏は、実際のところ、ひと言では言えない複雑で繊細な世界である。

例えばJ・S・バッハの有名な「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ」を演奏する時、どんな<スタイル>で演奏するのか? 

現代に造られたヴァイオリンを使って、ネットでも購入可能な弦を張り、現代の弓で弾くことも可能だ。そこでも、もっと細かく、弦の種類、弓の種類にこだわることもできる。

もう一方で、バッハの作品が書かれた時代の楽器、当時使われていた弦に近い製法で造られた弦、バロック時代の弓、そしてバッハの時代の演奏スタイルで演奏することも追究されている。ピアニスト以上に(という言い方はピアニストには失礼かもしれないが)、ヴァイオリニストには考えなければならない選択肢が多く、ある意味で、すべてが開拓され尽くしていない世界とも言えるのである。

そんな21世紀のヴァイオリン界のなかで、作品の書かれた時代を常に意識しながら、楽器を選び、演奏スタイルを考え、活動しているヴァイオリニストがいる。東京生まれの佐藤俊介である。モダン楽器を使い、世界的なオーケストラと共演する一方で、コンチェルト・ケルン(ドイツの古楽団体)のコンサートマスター、歴史あるオランダ・バッハ協会の音楽監督を務めている佐藤が、この3月には東京交響楽団の定期演奏会に出演して、とても興味深いプログラムを弾き振りする。佐藤にその聴きどころ、また指揮をしながらヴァイオリンを演奏するという<弾き振り>の魅力についても聞いた。

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「オーケストラ音楽は、作品の書かれた時代を意識した演奏だとテンポが全然違うことがあったり、いろんなことを教えてくれる。ヴァイオリンのレパートリーにとどまらず、自分のできる範囲をどんどん大きくしていきたい。好奇心は人生1回分では足りない。知らないことを知りたい」©Marco Borggreve

ヨーロッパでも聴けないメンデルスゾーンのレアな作品に挑戦

——東京交響楽団の定期演奏会(3月18日、第708回定期演奏会、サントリーホール)ではシュポア、ベートーヴェン、メンデルスゾーンを演奏されますが、これらの作品を選んだ意図は?

佐藤 2021年に「名曲全集」というシリーズの中で東京交響楽団と共演をさせていただきました。その時はヴィヴァルディの《四季》をはじめ、ルベルの《四大元素》から〈カオス〉、そしてハイドンの交響曲第7番《昼》というプログラムでしたが、その時にとても共演が楽しくて、また次に何かを一緒にというところからスタートしました。

そこでお互いに意見を出して、特に東京交響楽団からメンデルスゾーンの「弦楽のための交響曲第8番」の<管弦楽版>を提案されました。実はこの管弦楽版というものの存在を知らなくて、それは面白そう、というところから色々とアイディアが生まれていったような気がします。

——メンデルスゾーンの「弦楽のための交響曲」はそもそも弦楽器のみで演奏されるものと僕も思っていました。「第8番」の管弦楽版も録音を探してみたのですが、かなりレアな部類に入る作品ですね。

佐藤 録音も少ないし、ヨーロッパでも実演に接する機会はほとんどないと思います。そうした作品に挑戦するのはとても意義のあることですし、そこに加えるにあたって、やはり同じような時代の個性的な作品をラインナップするように考えていきました。

「メンデルスゾーンの8番は作曲家が14歳の時に書いたというのがすごい。ベートーヴェンの1番よりも構成が複雑で、最終楽章も非常に複雑なポリフォニーになっている」©Marco Borggreve

シュポアの協奏曲は「歌詞のないオペラ」

——シュポアの「ヴァイオリン協奏曲第8番《劇唱の形式で》」も実演で聴くチャンスの少ない作品です。

佐藤 かなり変わったスタイルを持った協奏曲ですね。サブタイトルにもあるように、最初はまるでオペラのレチタチーヴォ(※)のような雰囲気でヴァイオリンが歌いますし、歌詞のないオペラといってもよいような協奏曲です。

※レチタチーヴォ:話し言葉の自然なリズムやアクセントを模した、または強調した歌唱様式。叙唱ともいう。

ベートーヴェンの「交響曲第1番」はもちろんよく演奏される作品ですが、メンデルスゾーンは初めて取り組むことになりますので、楽しみです。この曲は、ともかく10代で書かれたとは思えないほどたくさんの聴かせどころがあり、本当に驚きに満ちた作品です。メンデルスゾーンは本当に多才な人で、作曲だけでなく、絵も描いたり、また毎日手紙を書くなど、現代人でも想像できないほどの多忙な日々を送っていたようですが、そんな作曲家の人柄がよく分かる作品なのではないでしょうか?

佐藤 俊介 Shunske Sato

モダン、バロック双方の楽器を弾きこなすヴァイオリニストとして、活発にコンサート活動を行なっている。バロック・ヴァイオリン奏者としては、コンチェルト・ケルンおよびオランダ・バッハ協会のコンサートマスターを務める。モダンの分野では、日本の主要オーケストラはもちろん、ベルリン・ドイツ・オペラ管、バイエルン放送響、フィラデルフィア管、ボルティモア響、ナショナル響、シアトル響などと共演。2010年、第17回ヨハン・セバスティアン・バッハ国際コンクールで第2位および聴衆賞受賞。出光音楽賞、S&Rワシントン賞受賞。2019年度 第61回毎日芸術賞、第70回芸術選奨 文部科学大臣新人賞を受賞。2013年よりアムステルダム音楽院古楽科教授を務める。
2018年6月1日より、オランダ・バッハ協会第6代音楽監督に就任。2019年9月から10月に行なわれた、オランダ・バッハ協会管弦楽団の日本ツアーを成功させた。録音も最新盤の「J.S.バッハ:無伴奏ソナタ&パルティータ(全曲)」(Acoustic Revive)が、2019年度第57回レコード・アカデミー賞大賞銀賞(器楽曲部門)を受賞。©Marco Borggreve

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