
第9回仙台国際音楽コンクール最高位受賞記念リサイタルで、世界で輝く若き俊英の音楽を堪能しよう

12月5日、17日に浜離宮朝日ホールで行なわれる、第9回仙台国際音楽コンクール最高位受賞記念リサイタル。ヴァイオリン部門最高位のムン・ボハ、ピアノ部門優勝のエリザヴェータ・ウクラインスカヤにリサイタルへの想いを伺いました。
大きな盛り上がりを見せた第9回仙台国際音楽コンクール
3年に一度開催される仙台国際音楽コンクールは、ファイナルだけでなくセミファイナルでもオーケストラ(仙台フィルハーモニー管弦楽団)と協奏曲が共演できるという、世界的にも珍しい特徴を持つコンクールである。
第9回のヴァイオリン部門のファイナルでは、中国出身の3名、韓国出身の3名、計6名がモーツァルトのヴァイオリン協奏曲から1曲及び指定された協奏曲から1曲を演奏して争った。最高位(第2位)に入賞したムン・ボハは韓国出身で、現在、アメリカのカーティス音楽院で学んでいる。

ピアノ部門のファイナルには、ロシア、日本、ドイツ、クロアチア出身の11歳から28歳の幅広い年齢層の6名が進み、モーツァルトのピアノ協奏曲から1曲と、古典から現代のピアノ協奏曲から1曲を演奏し、大きな盛り上がりを見せた。第1位にはサンクトペテルブルク音楽院出身のエリザヴェータ・ウクラインスカヤが輝いた。

ヴァイオリン部門最高位 ムン・ボハ「私のエモーションで皆さんの心を動かせたら」
第9回仙台国際音楽コンクール ヴァイオリン部門で最高位に入賞したムン・ボハは、12月5日に東京の浜離宮朝日ホールで最高位受賞記念リサイタルを開催する。

2006年韓国生まれ。2023年から、カーティス音楽院でアイダ・カヴァフィアンのもとで研鑽を積む。これまでに、ピエール・アモイヤル、ヨゼフ・シュパチェク、キム・ナムユン、アナト・マルキン・アルマニに師事。ミハエラ・マルティン、クライディ・サハトチ、原田幸一郎ら、多くの著名なヴァイオリニストによるマスタークラスも受講している。2020年レオニード・コーガンコンクール、2021年ユーディ・メニューイン国際ヴァイオリン・コンクールジュニア部門、2022年若い音楽家のための珠海モーツァルトコンクールなど、数多くのコンクールで入賞。2021年にソナスアーツの「ヤング・ソリスト」に選ばれ、スイスでソロリサイタルを行う。2023年にはドイツのフェスティヴァル・デア・ナツィオーネンにおいてヤング・アーティスト・オブ・ザ・イヤー賞に選ばれ、バイエルン放送交響楽団メンバーと共演した。2025年10月より、日本音楽財団から貸与された1709年製のストラディヴァリウス「エングルマン」を使用している。
——ヴァイオリンを始めたきっかけを教えて下さい。
ムン・ボハ 母が、私にフィギュアスケート、バレエ、体操などいろいろ習わせてくれたのですが、ヴァイオリンを弾いたとき、その音に夢中になりました。そしてすぐに先生に就いて学びました。6歳の頃です。8歳のときには韓国のジュニア・コンクールに出るようになっていました。13歳のとき、父親の転勤のため、家族でプラハへ引っ越し、チェコを代表するヴァイオリニストの一人であるヨゼフ・シュパチェク先生に師事するようになりました。
現在はカーティス音楽院に入学し、アイダ・カヴァフィアン先生に習っています。優しく、面倒見の良い先生で、毎週のレッスンがとても楽しみなのです。生徒の将来の道まで考えてくださる先生です。HIMARIさんとはクラスメイトで親しくしていて、一緒にクァルテットも組んでいます。
——仙台国際音楽コンクールセミ・ファイナルではドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲を選び、ファイナルでは、ブルッフの《スコットランド幻想曲》を選びましたね。
ムン・ボハ プラハに住んでいたので、ドヴォルザークは大好きな作曲家で、ヴァイオリン協奏曲も大好きな曲でした。それでオーケストラと共演できるならドヴォルザークの協奏曲を演奏したいと思っていました。ドヴォルザークの協奏曲をオーケストラと演奏するのは仙台が初めてでした。シュパチェク先生からもこの曲について習いました。
《スコットランド幻想曲》も大好きな曲ですが、コンクールで演奏されることの少ない作品で、私自身、この曲をオーケストラと弾くのは初めてでした。正直に言うと、ブラームスの協奏曲にしようかと迷いました。でも、自分に近く、自分のベストを出せる作品ということで《スコットランド幻想曲》を選びました。
——仙台の聴衆はいかがでしたか?
ムン・ボハ 演奏していると、私が伝えたいことを感じてくれているような心の交流ができましたし、聴衆から受けるエネルギーも素晴らしかったです。また、聴衆の方々が書いてくださった温かいコメントは励ましとなりました。
——さて、12月5日のリサイタルのプログラムはどのように決めましたか?
ムン・ボハ プログラムを決めるために私の好きな曲をカヴァフィアン先生のところに持っていって、アドバイスを受けました。リサイタルの最初の曲にしっくりくるものがなくて、先生から「この曲はどう?」と提案してくれたのがダラピッコラの《タルティニアーナ第2番》でした。私は知らない曲でしたが、聴いてみて、大好きになりました。
グリーグのソナタでは第3番の方が有名ですが、私は第2番の方が好きで、多くの人々にその美しさを知ってもらいたいと思っています。
シューベルトの「幻想曲」は、ヴァイオリンにとっても、ピアノにとっても難しい曲ですが、ちゃんと解釈して正しい様式で弾くと魔法が起きる曲なのです。
ヴィエニャフスキの「《ファウスト》の主題による幻想曲」は、超絶技巧と抒情性が組み合わさった、美しく、心を打つ作品です。
私が伝えようとしているエモーションで皆さんの心を動かせたらどんなに素敵かと思います。大好きな曲ばかりなので、私の作品への愛を、みなさんに感じていただき、みなさんにも愛を持っていただければ、うれしいですね。リサイタルをとても楽しみにしています。
ピアノ部門優勝 エリザヴェータ・ウクラインスカヤ「『展覧会の絵』で作曲者の真の意図を伝えたい」
第9回仙台国際音楽コンクール ピアノ部門の優勝者エリザヴェータ・ウクラインスカヤは、12月17日に浜離宮朝日ホールで優勝記念リサイタルを行なう。得意とするオール・ロシア・プログラムで、プロコフィエフ「シンデレラ」から10の小品、ラフマニノフ「楽興の時」、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」が組まれている。

リャホヴィツカヤ音楽学校、サンクトペテルブルク音楽院付属特別音楽学校で学んだ後、サンクトペテルブルク音楽院を卒業し、同音楽院で毎年1人の音楽家のみに授与される「最優秀卒業生賞」を受賞。現在は同音楽院でピアノと室内楽の教鞭を執るかたわら、博士論文を執筆している。パルマ・ドール国際ピアノ・コンクール(2021年)、デルフィックゲーム大会(2019年)、ジェイムズ・モットラム国際コンクール(2018年)、ブレーメンのヨーロッパ・ピアノコンクール(2016年)で第1位に輝くほか、2022年イタリア・エッパンのピアノアカデミーでアルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリの名前を冠した賞を受賞。2021年と23年にはヴェルビエ音楽祭に参加し、特別賞を受賞した。2024年にはUNISA国際ピアノコンクールで第2位および特別賞を受賞。ロシアをはじめ、アフリカ、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、セルビア、スペイン、日本、アラブ首長国連邦などでコンサートを行なっている。
——仙台国際音楽コンクール ピアノ部門優勝おめでとうございます。モーツァルトのカデンツァがとてもすばらしかったですね。
エリザヴェータ・ウクラインスカヤ 第3楽章に向けては、実は日本にきてから短い時間で仕上げました。私はこれまでもモーツァルトの曲が大好きで、モーツァルトという作曲家と人生を共にしてきたからたどりつけたのだと思います。明るいユーモラスなイメージに、自分なりの各主題の捉え方を加えて表現しました。
——モーツァルトと人生を共にしてきた! 他にはどのようなものからインスピレーションを得ていますか? 文学者のご両親のもとでロシア文学からの影響も受けたピアニズムのように感じましたが。
エリザヴェータ・ウクラインスカヤ 幼いころから同時代の音楽家や文学者などを関連づけて遊んでいて、文化の輪のなかで育ってきました。まるで森のきのこ狩りのように、音楽のかごのなかにいろいろな文化を集め入れて。
おかげで趣味は数えきれないほどあって、演劇が好きで演技のレッスンを受けたり、絵を描いたり、編み物や陶芸やモザイク作品、ろうそくやデコパージュせっけんをつくったり……マッサージもできます!
——今回の優勝記念リサイタルにもウクラインスカヤさんの好奇心や好きなものが詰まっていそうですね。選曲の理由は?
エリザヴェータ・ウクラインスカヤ 子どものころから《シンデレラ》のバレエが大好きでいろんな演出を見ています。オーケストラの演奏もよく聴いています。ピアノ編では《春の妖精》が明るく元気な感じで好きでしたが、現在は《冬の妖精》に魅了され、白く輝く雪景色を思わせる演奏を目指しています。
そして、ラフマニノフは私の理想の人なんです(笑)。第4曲がもっとも感情を込められるので好きですね。
《展覧会の絵》は、10年以上前から弾き、音楽院の修士論文で取り上げたほどで、音符のひとつひとつまで知り尽くしています。人生の道しるべともいうべき深い内容を備え、生と死を描いています。プロムナードの弾き方もすべて変え、クライマックスである《死せる言葉による死者への呼びかけ》を大切に全体を俯瞰した演奏を行い、ムソルグスキーの真の意図を伝えたいと考えています。
ムン・ボハ ヴァイオリンリサイタル
日時:2025年12月5日(金)19:00開演
会場:浜離宮朝日ホール
出演:ムン・ボハ(ヴァイオリン)、チェルシー・ワン(ピアノ)
曲目:
ダラピッコラ:タルティニアーナ第2番
グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ第2番ト長調op.13
シューベルト:幻想曲ハ長調D934
ヴィエニャフスキ:「ファウスト」の主題による幻想曲op.20
チケット:一般4,000円、U25(公演当日25歳以下)1,500円、両公演セット券7,000円、全席指定・税込
お問合せ:仙台市市民文化事業団音楽振興課 022-727-1872
エリザヴェータ・ウクラインスカヤ ピアノリサイタル
日時:2025年12月17日(水)19:00開演
会場:浜離宮朝日ホール
出演:エリザヴェータ・ウクラインスカヤ(ピアノ)
曲目:
プロコフィエフ:「シンデレラ」からの10の小品op.97
ラフマニノフ:楽興の時op.16
ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」
チケット:一般4,000円、U25(公演当日25歳以下)1,500円、両公演セット券7,000円、全席指定・税込
お問合せ:仙台市市民文化事業団音楽振興課 022-727-1872
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