町田樹×反田恭平「指揮者やピアニストの身体運動」から見える音楽性や表現とは?
元フィギュアスケーターでオリンピアン、現在は國學院大學人間開発学部で助教を務める町田樹さんが、自ら企画、構成を手がける番組『町田樹のスポーツアカデミア』(J SPORTS4にて放送中)。
その番組収録が、2月22日、音楽之友社内の「音楽の友ホール」(東京・神楽坂)にて行なわれました。今回のゲストは、2021年にポーランドで開催された「ショパン国際コンクール」で日本人として過去最高位の2位入賞、ピアニストとして活動する傍ら、オーケストラのプロデューサー、実業家など、さまざまな顔をもつ音楽家の反田恭平さん。
各分野で活躍するお二人の対談収録の模様を一部ご紹介します。
大学卒業後、(株)ベネッセコーポレーションに入社。その後、女性誌、航空専門誌、クラシック・バレエ専門誌などの編集者を経て、フリーに。現在は、音楽、舞踊、フィギュアスケ...
アーティストとアスリートに共通するもの
『町田樹のスポーツアカデミア』は、「研究×スポーツ」をコンセプトに、元フィギュアスケーターでスポーツ科学者でもある町田樹さんが企画するスポーツ情報番組です。「スポーツをする人だけでなく観る人、支える人にもフォーカスする、今まであるようでなかったまったく新しい番組を目指したい」という考えのもと、フィギュアスケートプログラムの文化的・芸術的価値の分析や、スポーツ科学研究の最前線で活躍するフロントランナーとの対談などを行なっています。
今回は、音楽家の反田恭平さんをゲストに迎え、「アーティストとアスリートの身体性と精神性」をテーマに、それぞれの立場から語り尽くす特別対談が行なわれました。
「これまで、音楽家とアスリートは“別々の種族”に位置づけられる傾向にあり、交流がほとんどなかったように思います」と町田さん。
しかし、2021年10月に開催されたショパン国際コンクールのライブ配信を見て、「名前を呼ばれて舞台に上がり、パフォーマンスを発揮して舞台を下りる、この一連の過程がアーティストとアスリートで共通するところがある」と感じたとのこと。さらに、ピアニストの身体運動や身体的な負担などもアスリートに近い部分があるのではないかと考え、今回の対談を企画するに至ったそうです。
ショパンコンクールで第2位に入賞した反田恭平さんの映像。ステージのみならず、舞台裏までカメラが入り、ピアニストたちの一挙手一投足に注目が集まった。
対談では、反田さんのルーツやピアニストの身体の使い方、アーティストとアスリートの身体性と精神性、緊張しないためのメンタルコントロール法、将来のビジョンなど、ほかでは聞くことのできない貴重な話が次々と繰り広げられました。
ONTOMOでは、収録直後のお二人に、「リズム感を育むコツ」を中心に追加で話を伺いました。番組に倣い、対談形式でお届けします。
大人は“先読み”、子どもは言葉に当てはめてリズム感を養う
——先ほど、反田さんはお母さまのお腹の中にいたときから踊っているようにいつも元気で、幼少期にはサッカーの監督から「リズム感がいい」と言われていたというお話がありました。一方、町田さんもフィギュアスケーターとして、クラシックから映画音楽、タンゴ、ロックなどまで、さまざまな音楽を滑りこなす表現力に定評がありました。
そこでお二人にお聞きしたいのが、ずばり、「リズム感の育みかた」。ONTOMOの読者の中には、学生からシニア世代まで、プロフェッショナル・アマチュア問わず、演奏する人、歌う人、踊る人など、音楽に携わっている人がいまして、そのような方たち向けに、リズム感を向上させるコツやポイントを教えていただけたら嬉しいです。
反田 とある番組で、清塚信也さんが食べ物を何個か挙げて、リズムを当てるといったクイズのようなものをされていたことがあったんです。例えば、ラーメンなら、(手を叩きながら)「ター(ラー)・タ(メ)・タ(ン)」、つけ麺なら、「タ(つ)・タ(け)・タ(め)・タ(ん)」。ハンバーグなら、「タ(ハ)・タ(ン)・ター(バー)・タ(グ)」とか。
特に小さいお子さんの場合は、そういった身近なものに当てはめてリズムを覚えていくと、早く身につくかもしれないですね。僕も子どもの頃に、音楽教室でよくやったんですよ。例えば、「トマト、トマト、トマト…」を3拍子で手を叩きながら言ってみる。そこからさらに、1拍目の「ト」を強くしたり、2拍目の「マ」を強くしたりして、アクセントのつけかたも楽しみながら練習しましたね。
——ちなみに、我々のような大人はどうすればよいのでしょうか。今からだと遅いですか?(笑)
反田 そうですね……(笑)。大人の方の場合は、子どものように感覚で身に付けるというよりも、先に頭で考えてしまう傾向があるので、「1拍先を読む」ということがとても大事だと思います。例えば、「タタタタ・タン・タタ・タン」だったら、最初の「タタタタ」の段階で「タン・タタ…」がくることを想定する。となると、そのリズムを全部覚えなければいけないことにはなってしまうけれども、忙しくて覚えている時間がない場合は、せめて難しい部分だけでも覚えて、前後拍を考え、着地させるところだけは押さえておくといいのではないでしょうか。
——確かに大人になると、感覚ではなく、頭で考えてしまうことのほうが多いような気がします。そこをいかしての「先読み」、大変参考になります!
音楽家の身体運動を見てリズムとメロディをつかむ
——続いて、町田さんの「リズム感の育みかた」はいかがでしょうか。
町田 私は、今は「音楽家の身体運動を見る」というのが大きいですね。動画ツールがほとんど普及していなかった2000年代前半までは、音楽は“耳で聴くもの”でしたが、YouTubeなどのメディアが発展し、反田さんをはじめ素晴らしい音楽家の演奏を耳だけではなく、ビジュアルで見ることができるようになりました。
音楽家の方々が演奏されているときの身体の動きは、まさにリズムとメロディが可視化されている状態。そのリズムやメロディが身体運動として表れている。ですから、そこから「今この方は、こういうリズムを感じていらっしゃるんだ」という視点で見ていくと、徐々にリズムがつかめるようになってきます。
例えば、身体全体で巧みに音を表現する原田慶太楼さんの指揮も、こういう拍を入れてくるんだとか、演奏をビジュアルで観るのは、私にはとても勉強になりました。
——現在、舞踊家としても活動されていらして、バレエ公演もよく観に行かれると伺いました。座席にもよると思いますが、オーケストラ・ピットが見られるときは、演奏の様子もご覧になられるんですか?
町田 そうですね。ときどき見ます。やはり、音楽を踊る、音楽を紡いでいる音楽家の身体運動がどうなっているのかというところからインスピレーションを得られますし、私自身が踊るときにも、それがとても参考になります。
今は振付も行なっているのですが、その際にも、反田さんがピアノを弾かれているときの動きや原田さんの指揮などを見て、そこからアクセントのつけかたなどを踊りに変換していくということを最近よくやっています。この音楽は今までこういうふうに聴いていたけれど、こういうリズムの取り方もできるんだっていうことに気づけたり、新たな発見もあったりするので、音楽家の方の演奏を目で見るということは非常に大事だと考えています。
反田 指揮者からすると、オペラとバレエを比較したときに、オペラはそんなに難しくないんです。というと語弊がありますけど、文字がある——つまり言葉・歌詞があるから想像しやすいんですね。でも、バレエにはそれがない。もちろん、ストーリーがある作品もありますが、言葉がないときにどのようにして音楽を表現するかというと、「音形」と「和声」なんですよ。
僕も先生から教えていただいたことなんですけれども、例えばメロディがあって、メロディは表面的な感情なんです。外面。一方、ヴィオラやチェロ、オーボエなどが内声(多声音楽で最上声部と最下声部の間の声部のこと。4声ならアルトとテノール)を演奏するときは、本当の心情を表しているのだと。そして、それらが相まって、ひとつのオーケストラがひとりの人間を創り出す。
なので、指揮者というのは、そのようなことを考えながら指揮をしていますし、特に僕が上手だと考える指揮者はそれらを表現しているわけですから、そこから町田さんがインスピレーションを得られているってことは、正しいことだと思います。
音楽家としての目標にはオペラやバレエの指揮、そして合唱の作曲も
——少し話が逸れますが、先ほどの対談の中で、反田さんは今後は指揮者になるのが目標のひとつで、現在オペラを勉強されているとおっしゃっていました。今後オペラやバレエといった総合舞台芸術で指揮をやってみたいという思いはありますか?
反田 僕はそこが最終目的です。自分の音楽家としての活動の。先ほど少しお話させていただきましたが、今オペラを勉強中なのもそのためです。
——なんと! それはぜひ観てみたいですね。バレエなら……ショパンの曲を使用したノイマイヤー版『椿姫』(ハンブルク・バレエ団の芸術監督ジョン・ノイマイヤーが振り付けた作品)とか。ちなみにバレエはお好きですか?
反田 大好きです! ロシア(モスクワ)に留学していたので。200円とか300円で(スヴェトラーナ・)ザハロワ(ボリショイ・バレエ団のプリンシパル)などを観られたので、毎日のように通っていました。それぐらいバレエは好きでしたね。ザハロワは本当に素晴らしいダンサーで、どれだけ周りの人たちと違うのか、例えば回転の仕方がどれだけ違うのかとか、音の取り方はどう違うのかとか、そういうところまで見ていました(笑)。
スヴェトラーナ・ザハロワ(ボリショイ・バレエ団 公式チャンネルより)
反田 オペラも、(プラシド・)ドミンゴとか(ルチアーノ・)パヴァロッティとか、ああいう方々がひとりいるだけで、劇場内の空気が変わりますよね。
そういうのにすごく憧れます。ピアノは自己完結してしまうところが多いので、やはりオペラとかバレエというのが最終目標ですね。
——つい最近『バレエ音楽がわかる本 ~音楽は踊りの原動力!』というムックを発売いたしまして、今後バレエ関連の本でも、ぜひお二人にたっぷりと音楽と舞踊について語っていただきたいです。
町田 ぜひぜひ! 反田さん、ジャパン・ナショナル・オーケストラに舞踊も入れて、ぜひ総合舞台芸術カンパニーにしてください(笑)。
反田 いつかできたらいいですよね。それと、実は合唱もやりたいんですよ。
——合唱も!? オペラ、バレエ、合唱……エネルギーがすごいです。
反田 合唱曲を書く気があるんです。1曲だけ書いたんですけど、時間があれば、いつかまた書きたいと思います。
町田 それは楽しみですね。
——ほんと、楽しみですね! そして、お二人のコラボもいつか見てみたいです。今日はお忙しいなか、ありがとうございました。
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