仲間内の冗談音楽から始まったピアノとヴァイオリンデュオ、スギテツ~マッシュアップで魅せるエンタメクラシック
「クラシックを遊ぶ音楽実験室」をテーマに、クラシックの名曲とさまざまな音楽をマッシュアップして、エンタメ性たっぷりのパフォーマンスで魅せるデュオ、スギテツ。「楽しんで、笑ってほしい」という想いから生まれる演奏の数々は、お笑いファンや一般の音楽ファンだけでなく、子どもたちにも大人気だ。
結成15周年を記念してリリースされた『SUGITETSU UNO SCHERZO』は、なんと東京フィルハーモニー交響楽団を交えて、オーケストラで冗談音楽!?
ピアノ芸人、まとばゆうが、お笑い芸人の視点からお二人に突撃!
始まりは、身内で楽しむ「冗談音楽」
まとばゆう お二人とも、音楽家として活動していらっしゃいます。お笑いとの関わりは?
杉浦哲郎 もともと2人ともお笑いが好きですが、関わりも色々あります。10年ほど前の話ですが、品川にあった吉本の劇場に、1年ハコで入っていました。他の出演者は芸人さんばかりでしたが、ジャグリングのもりやすバンバンビガロとか、明和電機とか、漫才やコント以外のパフォーマーの枠がありまして。
あと僕は20年ワハハ本舗の仕事をさせていただいていて、全体公演の音楽を作ったりしています。梅垣義明さんのピアノを20年弾いていますよ。ポカスカジャンも同期みたいなもんで、冗談音楽という括りでは、「ポカスカ兄さん」って呼んでいます。
まとば 私のお客さんにも、スギテツをもっと聴いたほうがいいよとか言われます。
一同笑
まとば 吉本の舞台では、今回のアルバムのような演奏をしていらっしゃったんですか?
杉浦 基本的にはそうですね。10~15分の枠で、3曲くらい。で、芸人さんが担当する司会の方と絡んで、ショートコントをやっていました。
岡田鉄平 音楽と擬音をつけたりして。
杉浦 セブンイレブンに入るミニコントをコラボして、入店の音をヴァイオリンで演奏したり、店内BGMをピアノで奏でたり。
まとば すごい、豪華ですね! もともとお笑いの音楽をやりたいというのは、お二人ともあったんですか?
鉄平 お笑い好きが高じて、クラシックのパロディ曲を作って録音して音楽仲間に聴かせたりしてましたが、身内だけで楽しみのためにやっている程度でした。出逢ったときは二人とも個別に音楽の仕事をしていましたが、そういったパロディ作品を人前で披露しようと意気投合したのが結成のきっかけです。
が、お笑いで何か凄いところまでいこうとか、目標を置いて始めたわけではないですね。
まとば 楽しいから始めて、それがどんどん軌道に乗ったということですよね。
杉浦 今年で15周年になりますが、最初にライブをやったときは15年続くなんてまったく思っていなかった。
まとば 音楽、お笑いと、今も両方の舞台に立っているんですか?
杉浦 お笑いだけのライブというのは今はありません。
でもコンサートの内容や客層によって、構成やフリなどはだいぶ変えていますね。
例えばイベント会場のアトラクションとしてステージに立つときは、お客さんの多くは音楽を聴きにきている人たちではないから、よりわかりやすく伝えようとしています。
逆にクラシックのフェスなどに出るときは、クラシックあるあるみたいなネタも通じたりするので、幅を持たせていますね。
まとば 演出はどんな工夫を?
杉浦 品川の劇場に1年出て、その次の年が2012年で、吉本の創立百周年だったんです。で、NGK(よしもと なんばグランド花月)の企画に呼ばれて、10日間くらいやりました。
品川のときは、司会が紹介してくれたあとにばーん、って出るからいきなり本ネタに入っても通じたんですけど、NGKでは、我々の前の漫才が終わって暗転で転換、で、何のインフォメーションもなく始まる。お客さんも我々のことなんかほとんど知らないわけです。だから普通にやったら、初日のステージではあんまり伝わらなかった。演出の人と相談して、「クラシックの人が間違ってNGKにやってきて、そこからだんだん崩れていく」という流れになりました。
まとば 燕尾服で出るんですもんね。
杉浦 最初に純クラシックの曲を短くやってからマッシュアップ(2つ以上の曲をミックスすること)系のエンタメの要素を入れた曲を演奏したら、お客さんもわかってくれた。「つかみ」って凄く大事だなと思います。
まとば 私はせっかちなので、すぐにやりたいことやっちゃって、滑って、あれっ? 他のところでウケたのに、とか言っちゃうことがあります(笑)。大反省してます。
鉄平 ネタで「はいやります、面白いでしょう」じゃなくて、やっぱり何かストーリーを作って、一般に高貴なものと思われているクラシックを落とす、という振り幅を作る。スギテツの作品というのは、それを前提としてます。
杉浦 お笑いの切り口とは違った意味の自然さを出す。コントも、日常から入っていってだんだんずらしていったりしますね。関西の笑いというより、東京のコントみたいなニュアンスかも。
鉄平 お笑いをやるっていう見せ方にすると上手くいかないんですよね。音楽家がやる面白いことっていう流れにしないと。後ろで普通にBGMを弾く人たちだろうなと思わせておいて、急に変なことをやる。だったら、成立するのかな。
子どもたちは、一旦心を開けばしっかりついてきてくれる
まとば Eテレの番組にも出演していらっしゃいますね。
杉浦 小学校3~6年生の音楽の授業という枠なんです。メインは授業の内容を噛み砕いたようなものなのですが、僕たちはテーマに沿った遊びのコーナーを入れるという企画で参加しています。
まとば お笑いのお客さん、音楽のお客さんで演出を変えるとおっしゃっていましたが、子どもたちの場合はいかがでしょう?
杉浦 子どもの場合は雰囲気づくりがつかみとして大事ですね。我々は教育学部などで勉強してきたわけではありませんので、そこはずっと手探りでやっています。
例えば『犬のおまわりさん』だったら、わんちゃんの指人形をつけて、ステージから降りて子どもの前で演奏してみたりとか。演出を大事に考えれば、子どもはみんなついてきてくれます。
鉄平 そういうのは音楽のアイディアではなく、見せ方のアイディアですね。
杉浦 一回心を開いてくれると、そこからどんどん入ってきてくれて、最後にマジメな曲をやってもちゃんと聴いてくれる。
まとば もう信頼関係ができていますもんね。素晴らしいですね。子ども向けのコンサートをやるようになった経緯は?
杉浦 もともと子ども向けのことをやろうと思ってスタートしたわけじゃないんですよ。「おんがくブラボー」の影響で学校公演やファミリーコンサートなどの依頼をたくさんいただくようになり、子ども向けの演出を考え始めました。
杉浦 大人向けにやっていたネタも、ちょっとマイナーチェンジするだけで伝わります。
例えば、『ゴジラ対ウルトラマン』という、プロジェクターでジオラマを映して、ゴジラの鳴き声やウルトラマンの曲を合わせるというネタがあります。通常のコンサートでは笑いのある音ネタとして成立していたんだけれども、小学校のコンサートではそこに必然性を作ったんですね。どういう必然性かというと、サン=サーンスの『白鳥』という曲を題材にして、白鳥をいろいろな生き物に七変化させていくという。白鳥は綺麗な曲で優雅に泳いでいる様子だけれども、ピアノの左手の16分音符は水の下で足をかいているイメージですよねーみたいなところからスタートして、でも曲っていうのは、アレンジを変えるといろいろな表情を見せますというふりをする。白鳥をいろんなメロディに変えてみましょうと。普通に弾きます、でそこから日本の音階にして「春の海」のフレーズを弾いて、うぐいすの鳴き声を入れてみたり。最終的にゴジラに勝ったウルトラマンが白鳥に乗って宇宙に旅立つというストーリーにしちゃっているんですが、ちゃんと教育的な要素が入っている。
まとば アレンジはどのようにしてらっしゃるんですか?
杉浦 いろんなパターンがありますが、真逆のものとかけ合わせたりします。例えば今回のアルバムでは、家電量販店とアイネクライネナハトムジークがそうですね。日常にも結構面白いメロディがありますから。「忘れられないメロディを作る」という点の凄いところですよね。それをくっつけることによって、緊張と緩和を生み出すというか。
鉄平 高級じゃないものをかけ合わせると面白いですね。
まとば ギャップということですね。
杉浦 そうですね、ギャップを大事にしています。セオリーでアレンジするというよりは、緩急の差を上手くつけるということ、それからストーリーをイメージできるようにしています。その2つですね。
まとば 曲が似ていないと上手くマッシュアップできないですよね?
鉄平 なにかしら引っかかっている要素があればできますよ。リズムが似ていたりとか。全然似ていなくても、力技で編曲の力で綺麗に見せることもできる。
まとば 例えばベートーヴェンの『運命』と何かをかけ合わせたり?
杉浦 『運命』は、犬のおまわりさんのネタがあります。それもやっぱりストーリーがあるから面白いんです。背景を想像しちゃうから。もともと子猫ちゃん見つけられなくて……という悲哀があるのに、曲調はメジャーでポップで、そっちのほうが悲劇的になるんじゃない? みたいな。
今回のアルバムでは、『荒城の月の光』などはタイトルからスタートしています。これは緊張と緩和のセオリーのパターンではないですが、「月」を掛け合わせて新たな世界観を作ってみました。
ピアノとヴァイオリンの化学変化――身軽だからこそできること
まとば 即興的な演奏もしていらっしゃいます。
杉浦 例えば地方に行ったとき、
ローカルCMやスーパーの曲にクラシックを掛け合わせ、どこどこのスーパーに行ったみたいなストーリーを作る。地域ネタってお笑いの世界でもウケますよね。音楽でもそうなんですよ。ローカルの音楽の地域性が強ければ強いほど、お客様に響く。でもそれを現地でやるには、曲をすぐ採って、ぱぱって書いて、ぱっと渡して、その場でリハーサルなしでもできるっていう即興性というか、瞬発力がないといけない。
まとば 2人で身軽だからこそできる技ですね。
杉浦 そうですね。時々、紙芝居や朗読と即興演奏のコラボなどの機会もあります。
鉄平 リアルタイムで音楽をつける。
杉浦 その場のインスピレーションで、ヴァイオリンがこう弾いたらピアノはこういくとか、そういうのって大所帯のオーケストラじゃ絶対できないですから。
ヴァイオリンとピアノは、そういう化学反応が一番起きやすい楽器の組み合わせだと思います。
デーモン閣下のソロ公演のバックをやっているんですけれども、閣下が途中でアドリブのコーナーを展開させるんです。閣下が、自分で作ってきた短歌を読む。で、後ろのバンドのメンバーに「そのインスピレーションで音を出せ」っていう。
まとば ピアノとヴァイオリンで?
杉浦 ちょっと変わった編成のバンドで、ピアノとヴァイオリンとベース、パーカッションがタブラで、あと笙、篳篥です。みんな百戦錬磨で、どちらかというとジャズ寄りの人たち。そこに我々も放り込まれました。アドリブ演奏に閣下が勝手にメロディつけて歌い出したりとか。
ジャズのフリーセッションともまた違う、エンターテイメント性溢れる楽しい即興演奏のコーナーになりました。
まとば だからこそ閣下の後ろでもできるんですね!
杉浦 そのコンサートはめちゃくちゃ楽しいですよ。
まとば 楽しそうです! それはすべてライブなんですか?
杉浦 ライブで、何の打ち合わせもしないんですよ。
鉄平 自然の流れでそうなって、それをやろうとか誰も言ってない。
杉浦 たぶんね、閣下がわざと言わなかったんだと思うんだよね。
鉄平 作り込んじゃうと面白くないんですよね。その場で「どうしよどうしよ」って、ざわついて、なんとなくやるほうが面白い。
まとば 和楽器の人がいるというのも面白いですね。
杉浦 その方も閣下とお付き合いが長いので、間合いがわかっているというか。
自分たちのコンサートをきっかけに音楽を志す人が増えていってほしい
まとば 今後の野望を教えて下さい。
杉浦 最初はなかなか、クラシックの人にもスルーされてみたいな(笑)期間があって、子ども向けのコンサートというのも需要があったから始めた感じだったんですけれども、今はすごく活動の幅が広くなっています。
結成した4、5年目の頃に、お父さんに連れられてヴァイオリンをやっている小学生が見にきました。僕たちのコンサートにすごく影響を受けて、プロの音楽家になりたいと。それまでそうでもなかったのに一生懸命練習をするようになって、一生懸命やるようになって、去年、東京藝大に合格したんです。仙台の子だったんだけど、東京に出てきたんだったら一緒にやろうよとお誘いするようになって、明日も現場が一緒です。
鉄平 仕事を一緒にするプロになっちゃった。
まとば すごい! 素晴らしいですね!
杉浦 学生でも技術は十分あるので、じゃあ一緒にやろうよと。もともと僕たちのことが好きだったから、凄く面白くやってくれる……ということが生まれ始めています。パイが小さかった頃にもそんなことがあったので、また10年後に、僕たちのコンサートではじめてクラシックを面白いなと思ってくれた人がその道を目指すというような、そんな人が増えたらいいなと思っています。
今回スギテツさんにインタビューをさせていただき、私自身ピアノ芸人として、大変勉強になりました。
ダンディで頼もしいスギさんと、王子様のようなテツさんのお2人は、直接お会いすると更にカッコよく、エンターテイナーは男女共にカッコよさも大事だなあと改めて思いました……。
そして、高度な技術と音楽性だけでなく、お笑いの分野にも精通しているお2人で、ワハハ本舗さんのお話をさせていただいたり、お笑いのフリの大切さなども教えていただきました(笑)。
私のネタが画期的に面白くなりましたら、それはスギテツさんのお教えのおかげです!
日時 9月1日(日)
会場 渋谷区文化総合センター伝承ホール(東京)
共演
坂口 正明(Vln)・須田 祥子(Vla)・渡辺 辰紀(Vc)(東京フィルハーモニー交響楽団)
日時 9月22日(日)
会場 芦屋ルナ・ホール(兵庫)
共演 西川 茉利奈(Vln)・増永 雄記(Vla)・北口 大輔(Vc)(日本センチュリー交響楽団)
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