インタビュー
2022.05.29
オーケストラを支える鶴間芳文を熱演する石丸幹二にインタビュー!

石丸幹二にとって音楽とは? 「音楽を愛する」を軸に繰り広げられる映画『太陽とボレロ』

映画『太陽とボレロ』に出演の石丸幹二さんにインタビュー! 水谷豊が脚本・監督を手掛けた本作では、アマチュア交響楽団を舞台に、音楽と真剣に向き合う人々が描かれています。見どころや魅力、水谷監督とのエピソード、さらに、石丸さんにとって音楽がどのような存在なのか、たっぷり語ってもらいました。

取材・文
室田尚子
取材・文
室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

写真:各務あゆみ

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6月3日から公開となる映画『太陽とボレロ』は、水谷豊の監督第3作目。自ら脚本を手がけたこの映画の題材となっているのは、地方都市にあるアマチュア・オーケストラ。経済的理由から解散の危機に瀕してしまう弥生交響楽団の存続に奔走する主宰者の花村理子(檀れい)と、個性豊かなオーケストラのメンバーが繰り広げるエンターテインメントです。

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今回は、理子の高校時代の先輩であり、影になり日向になり理子とオーケストラを支える鶴間芳文を演じた石丸幹二さんにお話をうかがいました。

映画『太陽とボレロ』予告編

「音楽を愛する仲間」としての鶴間芳文

——試写会で拝見して、何よりも「音楽を愛する人たち」を描いた作品だと感じました。

石丸 まさに「音楽を愛する」というのが全員のキーワードになっています。楽団を解散せざるを得ないというピンチの状況になって、メンバーそれぞれがどんなことを思い、どんなふうに振る舞うのか……皆さまざまですが、根底には音楽への愛があるんですね。

石丸幹二(いしまる・かんじ)
1965年 愛媛県出身。 幼少の頃から高校卒業までに、ピアノ、スネアドラム、トロンボーン、サクソフォーン、チェロ等に触れる。
東京音楽大学音楽学部器楽科にてサックスを専攻(3年時に中退)。
87年、東京藝術大学音楽学部声楽科に入学(91年卒業)。
90年、劇団四季にて、ミュージカル『オペラ座の怪人』ラウル・シャニュイ子爵役でデビュー、看板俳優として活動を続け、07年退団。
現在は、舞台のみならず映像、音楽分野にも活動の幅を広げ、ソニー・ミュージックジャパン インターナショナルより数々のアルバムを発表。17年よりテレビ朝日系「題名のない音楽会」で司会を務めている。

——そんななかで石丸さんが演じられている鶴間さんは、「ホッとする担当」のようにみえました。

石丸 実は鶴間は音楽と共に学生時代を過ごしているんですね。だから、理子のオーケストラへの思いに共感し、彼女を一生懸命サポートしています。初めに脚本を読んだときには、目的に向かってまっしぐらに走る理子さんを支える二枚目の男として後ろから光を当てればいいんだ、と思ったんです。が、実際に現場に入ると、水谷監督がいろいろと面白いことを僕にさせようとしてくれまして……(笑)。僕も楽しみながら演じました。

——劇中、理子さんに求められてサクソフォンで「花の歌」(オペラ『カルメン』の中でドン・ホセが歌うアリア)を演奏されるシーンがとても印象に残りました。

石丸 ドン・ホセのカルメンに対する思いと、鶴間の理子さんへの想いがリンクすると思い、僕から水谷監督に提案しました。演奏したのは、サクソフォン奏者の上野耕平さんが編曲した「カルメン・ファンタジー」という作品の譜面から。素敵な音楽になっていて、僕自身も好きなシーンになりました。

上野耕平さんによる「カルメン・ファンタジーforサクソフォン」

——そのほかに、印象に残っているシーンはありますか?

石丸 僕が初めて現場で撮影したのが、オーボエ奏者の牧田久里郎(田口浩正)さんの衝撃のシーンなんです。“シリアスな話の2枚目な鶴間”と思っていた僕は、一体ここはどんなふうに演じればいいのか、と考えながら臨みました。すると水谷監督が、自ら演じながらひとつひとつ細かく演技指導をしてくださるんですね。それで僕は、この映画は「シリアス風味のコメディだ!」と納得して演じることができました。

——監督がその場で演じられるんですか?

石丸 演技だけでなく、ちょっとした台詞回しでも、その場で臨機応変に実演されます。これは監督自らが脚本を書いているからこそ、だと思います。

フルコースディナーのように全編にわたって繰り広げられる名曲の数々

——ラヴェルの《ボレロ》をはじめ、ベートーヴェンの交響曲第7番、バレエ《白鳥の湖》など、クラシックの名曲が次から次へと登場しますね。

石丸 台本には流れる曲、演奏曲が場面ごとに指定されているんです。「クラシックの名曲揃いだ」と思いました。実際にはそれら名曲が流れるなかで、いろいろなドラマが起こっていて、しかも、音楽にピタッと合っているんです。そこがこの映画の大きな特徴であり、面白さであると思います。

ラヴェル《ボレロ》、ベートーヴェン:交響曲第7番、バレエ《白鳥の湖》より

——役者さんは皆さん、実際に楽器を演奏されているとうかがいました。

石丸 そうです! 水谷監督のこだわりで、吹き替えではなく実際に役者が演奏をしています。ですから、単なるBGMではなく、音楽の中にみんなが入り込んで、そこで生きているんですね。これだけいろいろなジャンルの音楽が流れる作品はそうそうありません。音楽のフルコースディナーのような映画だと思います。

——石丸さんが演奏される「花の歌」もそのディナーの一皿というわけですね。

石丸 やはり理子さんへの想いを表現しているので、甘いスイーツの一皿、じゃないでしょうか(笑)。

現実の社会ともリンクするテーマ

——コロナ禍が始まり、プロ、アマチュアを問わずオーケストラの財政危機というのは実際によく耳にすることなので、この映画のテーマ自体はとても現実的なものだと思いました。

石丸 そうですね。その「危機」をどのようにとらえ、どう向き合うかというのが作品のテーマになってくるのですが、水谷監督が提示したのは「輝かしい解散」です。そこに至る過程で、さまざまなサプライズが起こり、最終的には《ボレロ》の演奏につながっていく。夢のようなフィナーレで、「北風と太陽」でいえば「太陽」のような映画なんです。たしかにファンタジーではありますが、今、同じような危機に直面している方達の心が、この映画を観て少しでも穏やかに、そして明るくなってくれたらいいと思っています。

——観終わって、「音楽があって本当によかった」と思える映画でしたが、石丸さんご自身は音楽というものをどのようにとらえていらっしゃるのでしょうか。

石丸 子どもの頃から音楽が好きで、レコードばかり聴いているような少年時代を過ごし、いつしかパフォーマーになりたいという思いを抱くようになりました。大学ではクラシックを勉強してきましたが、今はいろいろなジャンルの音楽を聴いたり、演奏するようになっています。

例えば、最近、ジャズ・ピアニストのクリヤマコトさんと共演したのですが、彼の毎回違う即興のピアノに合わせて自分自身の歌い方も変化するんですね。そうしたクラシックとは真逆のフリーなスタイルも面白い。つまり僕は、無限の音楽を旅しているんです。

——音楽は、石丸さんにとってなくてはならない存在なんですね。

石丸 空気のような存在ですね。一生音楽と共に生きていきたいと思っています。

——それでは最後に、読者にメッセージをお願いします。

石丸 全編にわたってクラシックの美しい音楽に包まれた映画です。出演者が自ら演奏することによって湧き上がってくる熱のこもった音楽が味わえると思います。また、世の中にはこれほどたくさんの市民の音楽愛好家が、草の根運動をしながら音楽を続けているということも知っていただけたら嬉しいです。

スタイリスト:土田 拓郎(フリー)
ヘアメイク:中島 康(UNVICIOUS)
上映情報
映画『太陽とボレロ』

公開日: 6月3日(金)

出演: 檀れい、石丸幹二、町田啓太、森マリア

田口浩正、永岡佑、梅舟惟永、木越明、高瀬哲朗、藤吉久美子、田中要次

六平直政、山中崇史、河相我聞、原田龍二、檀ふみ

水谷豊

監督・脚本: 水谷豊

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取材・文
室田尚子
取材・文
室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

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