インタビュー
2023.06.30
8月25日(金)から3日間。プロデューサー三輪眞弘の創作の源に岡田暁生、林田直樹が迫る!

現代音楽の祭典にガムランのある村が出現!?サントリーホール サマーフェスティバル 

1987年のスタート以来、音楽の現在(いま)を紹介する東京の現代音楽の祭典として、最前線で活躍する世界各国の音楽家たちがサントリーホールに集う「サントリーホール サマーフェスティバル」。
今年は「ザ・プロデューサー・シリーズ」に作曲家の三輪眞弘を迎え、なんとガムランをフィーチャー。大ホールでの新作初演に加え、ブルーローズ(小ホール)はインドネシアの村の一角のように、パフォーマンスや屋台などを出入り自由に楽しめる空間になるとのこと。
いったいここで何が起こるのか。前代未聞のプロジェクトに興奮の色を隠せない三輪ファンのお二人、岡田暁生さんと林田直樹さんが、ご本人にオンラインで直撃。「ひやかしに来てください」とさらりと言ってのける三輪さんの、“ぶっとんだ”創作のプロセスに迫りました。

鼎談・まとめ
岡田暁生
鼎談・まとめ
岡田暁生

1960年、京都府生まれ。音楽学者、京都大学人文科学研究所教授。大阪大学大学院博士課程単位取得満期退学、1991年までミュンヘン大学およびフライブルク大学に留学。20...

鼎談
林田直樹
鼎談
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

En-gawa イメージ図
[ブルーローズ (小ホール)]
イラスト:KITA

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プログレッシヴ・ロックに失望し「現代音楽」を知った

林田 三輪さんはもともと高校のころプログレッシヴ・ロック*をやっておられたと聞いてピンときました。実は私、今は一見ガチガチなクラシックの仕事をしてるんですけれど、元々はプログレ、とくにキング・クリムゾンがものすごく好きだったんです。

*プログレッシヴ・ロック:クラシック音楽や現代音楽、ジャズなどの方法論をとりいれたロックをさす。複雑な曲展開やメロトロン、シンセサイザーなどの使用が特徴。キング・クリムゾン、ピンク・フロイド、イエス、ジェネシスなどイギリスのグループが多いが、イタリアなどヨーロッパの国々にも同様なグループが登場した。

プログレはロックの中でもひじょうに哲学的で知的で、音楽を通して何か世界を変革していこうという可能性を見せてくれた。三輪さんの音楽にもなにか、現代音楽とかそういう枠を超えた「哲学としての音楽」を感じる。要するにどこかプログレっぽいんです(笑)。

やっぱり三輪さんの音楽について、そしてサントリーホールのサマーフェスティバルについて、皆さんに注目してもらうためには、伝統的なクラシック音楽との関係性といった枠を取っ払ってでも、今まで世の中で流行っていた、みんなが好きな音楽との関連性っていうことから入っていくのが、ガイドとしてはいちばんいいだろうと思うんですが?

岡田 三輪さんはプログレの流行があっという間に終わってしまったのを見て、ひじょうに深い絶望を感じ、そのことがいわゆる現代音楽に行く大きなきっかけになったとよくおっしゃってますよね?

三輪 その通りですね。夢を託したプログレが短期間の流行として消費されてしまって、結局、商業音楽っていうものの宿命はこれなんだなって僕は理解した。そうした時に、「現代音楽」っていう領域を知って、そうか、売れる売れないに関わらず、命をかけて音楽をやってる人たちがいるんだって、それに憧れて。

三輪眞弘(みわ・まさひろ)
1958年東京に生まれる。ベルリン芸術大学、ロベルト・シューマン音楽大学で作曲を学ぶ。1989年入野賞、2004年芥川作曲賞、2007年プリ・アルスエレクトロニカでグランプリ(ゴールデン・ニカ)、2010年芸術選奨文部科学大臣賞、モノローグ・オペラ「新しい時代」の再演(2017)および、「三輪眞弘祭 -清められた夜-」(2020)無観客ライブ公演に佐治敬三賞、2020年サントリー音楽賞などを受賞。「三輪眞弘音楽藝術 全思考一九九八ー二〇一〇」をはじめ、CD「村松ギヤ(春の祭典)」や楽譜出版など多数。「フォルマント兄弟」の兄。情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] 教授。

インドネシアの村にあるような空間をサントリーホールに持ってこようというアイディア

林田 そんな三輪さんが、今回の「縁側プロジェクト」では、サントリーホール・ブルーローズにインドネシアの屋台のようなものを組んで、7時間というとんでもない長さで3日連続のコンサートをやる。いや、これをコンサートって呼んでいいのかな。さすがにその内容がわからないとちょっと心配にもなるんですけれど……。

岡田 しかも使うのはガムラン。屋台、7時間、ガムラン、それをサントリーホールで。でも三輪さんの辞書に「予定調和」という言葉だけはない、まさにそこが他の作曲家にはないエキサイティングな体験ではあるんですが、でもはらはらどきどき、一体何をするつもりか想像もつかない(笑)。

*ガムラン:インドネシア、マレーシアにおける合奏音楽の名称。また、楽器のセットをも意味する。一般的には、青銅、鉄、真鍮などを材料とする金属打楽器群を中心とする。

三輪 今回の企画の非常に重要な部分は、インドネシアの村にあるような空間を、疑似的にではありますが、サントリーホールのブルーローズに持ってこようというアイディアなんですインドネシアには、屋根だけがあるステージみたいなものがあって、そこでガムランをやったり、いろんなことをやる。それを中心に据えて、その周りにいろんなことが起きるっていうような方針でやっています。

今回僕が担当する部分っていうのは、2つに大きく分けられていて、ひとつは大ホールにおける、ガムランによる新作初演を集めたもの。これは普通のコンサート形式。もうひとつがブルーローズで3日間にわたって行なわれるさまざまなイベント、つまり縁側プロジェクトです。

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