インタビュー
2022.06.04
現地取材

ヴァン・クライバーン・コンクール 注目のコンテスタントに直撃!~ティアンス・アン

開催中のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールを現地で取材する高坂はる香さん。今回注目していたのが、チャイコフスキー国際コンクールでのハプニングの記憶が鮮烈なティアンス・アンさんです。予選の演奏を終えた後に、お話を伺いました。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

撮影=筆者

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ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール。入賞すればアメリカを中心にキャリアが開けるとあって、高い実力を持つコンテスタントたちが参加しています。

そのなかで、私が今回注目していたのが、こちらのコンテスタント!

ティアンス・アン:2019年の第16回チャイコフスキー国際コンクールで第4位入賞。2015年からフィラデルフィアのカーティス音楽院でマンチェ・リウ、ロバート・マクドナルドのもとで研鑽を積み、プライベートではダン・タイ・ソンにも師事している

中国のティアンス・アン TIANXU ANさんです。

先の記事でもご紹介しましたが、彼は2019年、藤田真央さんが入賞して話題となったチャイコフスキー国際ピアノコンクールのファイナルで、“チャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番」を弾くつもりでいたら、オーケストラがいきなりラフマニノフの《パガニーニの主題による狂詩曲》を演奏し始めた”、という、かわいそうとしか言いようのないハプニングを経験した人です(事務方の確認ミスが原因だったらしい)。

カーティス音楽院で、小林愛実さんと同じマンチェ・リウ先生の元で学ぶアンさん。とってもいい人で、どうかいいことがあってほしいと願わずにいられない彼が、その後どうしていたのか、そして今回のクライバーンのステージでの演奏について、お話を伺いました。

今回の選曲は、オリジナリティがあってとても興味深かったので、そのあたりの音楽に寄せる想いもお聞きしています。

ティアンス・アンの予選での演奏。曲目は、グバイドゥーリナ:シャコンヌ、メンデルスゾーン:厳格な変奏曲op.54、ハフ:ファンファーレ・トッカータ、リスト:メフィスト・ワルツ第1番

ハフの新曲課題曲を暗譜で弾くつもりだった

——予選の演奏を終えて、どんなご気分ですか?

アン 私が選んだ4つの作品は、どれも技術的に求められるものが多かったので、大変でした。

もちろん家で通して弾く練習をしていますけれど、やっぱりステージで弾いてみると違って、思ったよりエネルギーを使いました。

でも、ハフさんの作品を大きな間違いもなく弾くことができたので、よかったです。暗譜で弾こうと思って準備していたのですが、一昨日になって急にこれはチャレンジングなことかもしれないという気がしてきたので。

とても速い曲で、コードも急に変わりますから。ところどころ楽譜に完全に忠実に弾けなかったところがあるかもしれませんが、とりあえずはよかったと思います。

——楽譜を見て弾いてもいいのに、暗譜で弾こうと思ったのはなぜですか?

アン 演奏するうえで、作品の空気感をよりよく創出するには、暗譜ができるならそうしたほうがいいと思ったからです。

——グバイドゥーリナも、とてもパワフルな音が印象に残りました。チャイコフスキー国際コンクールのときは、あのパワーのある音は、長江(中国のピアノメーカー)の特徴なのかなと思っていましたが、今回もやっぱりパワーがありました。あのような音を出す技術は、どのようにして身につけたのですか?

アン まずは、子どもの頃から、先生たちが私の指をしっかりトレーニングしてくれたからだろうと思います。あとはやはりイマジネーションですね。

この作品は、ソヴィエトの時代の鉄のイメージが反映された作品だと思うので、それをクリアに頭に思い浮かべて弾き、追求していきました。

カーティス音楽院では小林愛実さんと同門

——カーティス音楽院で勉強されていますが、ダン・タイ・ソン先生にも師事しているのですね。

アン はい、2019年のチャイコフスキー国際コンクールの少し前くらいから、プライベートで教えていただくようになりました。

カーティスではマンチェ・リウ先生、ロバート・マクドナルド先生のもとで勉強しています。

——小林愛実さんがリウ先生の同門だと思いますが、彼女はちょうどこの春、カーティスで卒業演奏会をされたみたいですね。

アン そうそう! そのコンサートは生で聴きましたよ。とてもすばらしかった。彼女の音楽は詩的で夢のようで、柔らかく、同時にエレガントです。

自分の音楽を聴く人が人類の良いところを感じてくれるようなピアニストでありたい

——ところで2019年のチャイコフスキー国際コンクールのことを思い出すと、アンさんはラフマニノフの《パガニーニの主題による狂詩曲》や、チャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番」を弾くのがトラウマになっているんじゃないかと心配になってしまうのですが。

アン いえ、まったく問題ないですよ! その後、パガニーニもチャイコフスキーも弾いています。

あの経験は、結果的にはとても幸運だったし、恵まれた出来事だったと思います。

コンクール後、多くの主催者や劇場が演奏の機会を与えてくれました。ただ、パンデミックのため長らく中国に留まらないといけなくて、その分、中国でたくさん演奏をして、いい経験ができました。

——それじゃあ全然悪い記憶になっていないのですね。

アン ええ、まったく問題ないです!

——それでは、これからどんなピアニストになることを目指していきたいですか?

アン そうですね……強い個性とカリスマ性のあるピアニストになりたいですね。

スピリチュアルな世界を創造し、それを聴衆と分かち合う。

自分の音楽を通じて、聴いているみなさんが、愛とか、人類の良いところを感じてくれることができるようでありたい。そう願っています。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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