インタビュー
2024.03.18
特集「ホールへ出かけよう! 2024」

東京文化会館~新たな音楽との出会い、次世代育成の場として進化を続ける音楽の殿堂

東京文化会館は、日本の「クラシック音楽の殿堂」として古い歴史を持ちながら、新しい音楽も積極的に取り入れ、進化を続けています。2024年の目玉企画である、フランスの音楽祭と連携した現代音楽フェスティヴァルもその表れ。「新しいものに対して開かれたホールでありたい」という願いが込められた企画の数々や、ハイ・クオリティな教育事業について、音楽監督の野平一郎さんに伺いました。

長井進之介
長井進之介 ピアニスト/音楽ライター

国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...

写真:飯田耕司

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東京文化会館は、オペラにバレエ、コンサートなど、世界中の著名なアーティストによる名演の数々が行なわれ、常に文化の発信地として話題を呼んでいる。同館は2021年に作曲家・ピアニストの野平一郎さんが音楽監督に就任したことで、より新しい音楽を積極的に取り入れた公演が増え、多方面から話題を集めるホールとしてさらなる進化を遂げている。その姿勢が形となったのが、2024年シーズンの目玉となる「野平一郎プロデュース  フェスティヴァル・ランタンポレルFestival de l’intemporel~時代を超える音楽~」だ。

お話を伺った、東京文化会館・音楽監督の野平一郎さん

「フェスティヴァル・ランタンポレル」~現代音楽と古典が同居する魅力的なプログラム

――現代音楽を中心とする「フェスティヴァル・ランタンポレル」は11月27日(水)~12月1日(日)にかけて開催される、かなり力を入れた企画となっていますね。

野平 “ランタンポレル(l’intemporel)”は、“時間を超越した”という意味です。それを表すように、現代と古典の音楽がクロスオーバーする公演、無声映画と電子音楽のコラボレーション、マスタークラスやレクチャーなどを行ないます。

私自身が作曲家ということもあって、新しいものに対して開かれたホールであってほしいという願いから企画したものです。現代音楽を主軸とした公演は他ホールでもいろいろな企画がありますが、どうしても現代音楽に精通した人が集まる公演になっている印象があります。私どもは、ふだん現代音楽にはあまりなじみがない方にも多くお越しいただきたいという想いから、古典とのクロスオーバーやトークセッションなども通して、幅広い角度から触れていただけるようにしています。

――レ・ヴォルク音楽祭(フランス・ニーム)やIRCAM(フランス国立音響音楽研究所、フランス・パリ)との連携も気になるところです。

野平 現代と古典とがクロスオーバーする形は、連携しているレ・ヴォルク音楽祭に倣ったもので、ベートーヴェンとフィリップ・マヌリ、シューベルトとヘルムート・ラッヘンマンの作品が同居するプログラムもそこからきています。

「シャイニング・シリーズ」では、ピアニストの阪田知樹さん(11/28)がベートーヴェンの《ディアベリ変奏曲》とマヌリの「変奏曲 ピアノ・ソナタ第2番」を演奏してくださいますし、務川慧悟さん(11/30)によるシューベルトとラッヘンマンの作品によるリサイタルにも注目していただきたいです。どちらも演奏のすばらしさはもちろんですが、楽曲に対する洞察力にも優れた方々なので、今回の意図を見事に体現してくださると思います。

南フランスのニームで2020年から始まった現代音楽祭「レ・ヴォルク音楽祭」で、芸術監督を務めるキャロル・ロト=ドファン。今回レ・ヴォルク弦楽三重奏団の一員として来日し、初心者に向けたワークショップの構想もある。フランスの古楽器オーケストラ「レ・シエクル」を率いるフランソワ=グザヴィエ・ロトの妻であり、レ・シエクルのヴィオラ奏者でもある
ピアニストの阪田知樹は、ベートーヴェンの《ディアベリ変奏曲》と、この曲から影響を受けたフィリップ・マヌリの「変奏曲 ピアノ・ソナタ第2番」を組み合わせたプログラムでリサイタルを開く。マヌリは1952年生まれの現在もっとも重要なフランスの作曲家の一人で、ライヴ・エレクトロニクス分野における研究者であり先駆者として知られる

――その他にはどのような公演があるのでしょうか。

野平 「プラチナ・シリーズ」ではレ・ヴォルク弦楽三重奏団とフルート奏者の上野由恵さん(11/27)がベートーヴェンの「弦楽三重奏曲 ハ短調Op.9-3」とマヌリの《Silo アルトフルートとヴィオラのための》、《パルティータI ヴィオラとエレクトロニクスのための》などを演奏してくださいます。クラシック音楽の殿堂である東京文化会館でエレクトロニクス電子音楽を使用した楽曲がどのように響くのかという点には私自身もとても注目しています。

また、パリの総合文化施設、ポンピドゥー・センターの関連組織であるIRCAMとの連携で行なわれる、川端康成の原作による無声映画『狂った一頁』と平野真由さんの電子音楽によるコラボレーション(11/29)は、これまでにない音楽空間を提供してくれると思います」

無声映画『狂った一頁』と電子音楽でコラボする作曲家の平野真由
無声映画『狂った一頁』A Page of Madness, by Teinosuke Kinugasa (1926)

「シアター・デビュー・プログラム」~ジャンルを超えた一流の舞台を青少年向けに発信

――東京文化会館は、子どもが楽しめる、あるいはコンサート・デビューに最適な公演が豊富なのも魅力ですね。

野平「0歳から大人まで」をテーマに、音楽や芸術に対する関心を高め、自己表現能力やコミュニケーション能力を養うことができる「ミュージック・ワークショップ」をはじめ、“次世代育成”に力を入れています。

なかでもご注目いただきたいのが、2021年から開始した「シアター・デビュー・プログラム」です。クラシック音楽と他ジャンルがコラボレーションしたオリジナルの舞台作品を、一流アーティストを起用して小学生と中学・高校生に向けて発信しています。

2022年のシアター・デビュー・プログラムでは、舞踏とクラシック音楽で綴る斬新な平安絵巻「虫めづる姫君」が上演された©堀田力丸
シアター・デビュー・プログラムの会場となる東京文化会館小ホール。数々の名演を生んできた歴史ある空間で、早くから舞台に親しみ、感性を育みたい

――ジャンルを超えた芸術のコラボレーションによる舞台は、大人も楽しめるものになっていますね。

野平 今はさまざまな形で音楽を楽しむことができる時代ですが、やはり生の舞台の感動には計り知れないものがあります。とくに音楽と演劇などが一堂に会する「シアター・デビュー・プログラム」は、多くの感動を一度に味わっていただけるものだと思います。

2024年シーズンは2公演が予定されており、小学生向けの『木のこと The TREE』(7/12、13)では俳優の南果歩さんに舞踏家の我妻恵美子さん、ジャズの領域でとくに活躍の目覚ましいピアニスト・林正樹さんなど、多様なアーティストが登場し、演劇と舞台、音楽のコラボレーションが行なわれます。

もう1つ、中学・高校生向けの「平常×萩原麻未『ロミオとジュリエット』」(2025年1/31、2/1)では人形劇俳優の平常さんとピアニストの萩原麻未さんの共演で、人形劇と音楽による新たな舞台が創り出されます。楽曲はチェリストの宮田大さんが選曲してくださるので、この点にもご注目ください。

2021年のシアター・デビュー・プログラム「Hamlet」では人形劇俳優の平常とチェリストの宮田大が共演。今年の「平常×萩原麻未『ロミオとジュリエット』」では、その宮田大が選曲を担当する©飯田耕治

クラシック音楽の殿堂としてはもちろん、新たな音楽との出会い、次世代育成の場としても強い存在感を放つ東京文化会館。2024年シーズンの公演からも目が離せない。

東京文化会館でオペラ、バレエ、オーケストラなどの公演が行なわれる大ホールの内観
東京文化会館

[運営](公財)東京都歴史文化財団

[座席数]大ホール2303席、小ホール649席

[オープン]1961年

[住所]〒110-8716 東京都台東区上野公園5-45

[問い合わせ]Tel.03-5685-0650(チケットサービス)

長井進之介
長井進之介 ピアニスト/音楽ライター

国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...

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