飯田有抄と、音楽でつながる仕事人たち。

第12回 オーディオ・アクティヴィスト 生形三郎さん ~音をめぐるアプローチの形

インタビュー
2018.08.09

クラシック音楽の世界で仕事をする飯田有抄さんが、熱意をもって音楽に関わっている仕事人にインタビュー。その根底にある思いやこだわりを探る。

第12回は、オーディオ・アクティヴィストの生形三郎さん。録音し、再生する——現代ではシンプルに思われるこの行為は、実に奥深い。何を、どう録音し、どう再生するのか。生形さんは、その一つひとつに丁寧なアプローチをしている。クリエイター、オーディオ評論家、録音技師、大学講師など、録音・再生にまつわるさまざまな顔をもつ生形さんに、その奥深き世界、美学、楽しさについて伺った。

仕事人
生形三郎 オーディオ・アクティビスト
生形三郎
仕事人
生形三郎 オーディオ・アクティビスト
オーディオ・アクティビスト(音楽家/録音エンジニア/オーディオ評論家)。東京都世田谷区出身。昭和音大作曲科を首席卒業、東京藝術大学大学院修了。東京電機大学理工学部講師...
聞き手・文
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター
飯田有抄
聞き手・文
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター
1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...
目次

はじまりは、ミュジック・コンクレート

——生形さんは「オーディオ・アクティヴィスト」という肩書きで活動されていますが、これは生形さんのオリジナルな言葉ですか?

生形 そうですね。「音を録音して再生する」ということを主軸に、いろんな活動をしているという意味合いで使っています。「アクティヴィスト」というと、なんだか政治活動家みたいなニュアンスを連想されるかもしれないですが、そんな仰々しい意味ではなくて。「オーディオ」という言葉も、オーディオ機器だけでなく、もっと広い概念として使ってます。

——生形さんは若手ホープとして、今や音に関するさまざまなお仕事で引っ張りダコです。オーディオ評論家として、作曲家として、レコーディング・エンジニアとして、録音・再生に関するワークショップの先生もなさるなど……広い!

生形 う〜ん……でもとくに「この職業に就こう」とか「アクティヴィストになろう」とか意識していたわけではなくて、気付いたらこの立ち位置にいたというか……。

——あ、この連載に登場される方には、そうおっしゃる人が多いんですよ。なぜか、ねらってないのに結果なってた、みたいな。でも、そこにこそ「仕事人」の真実があるような気もします……。とはいえ、ご活躍の生形さんの今にいたるプロセス、やはり知りたいです。

生形 最初は、曲を作ること、作曲家を目指していましたが、音に対して興味関心の赴くままに活動していたら、もう少し広いところに出た、という感じですかね。学生時代は音大で作曲を勉強していました。今につながる最初のきっかけは、大学2年で出会った「ミュジック・コンクレート」です。

解説しよう!

「ミュジック・コンクレート」(フランス語)とは、あえて日本語に訳すと「具体音楽」。録音されたさまざまな音、たとえば動物の鳴き声や自動車のエンジン音など、ありとあらゆる音を素材として、それらを電子的に加工し、組み合わせて、音楽作品とするもの。1940年代にフランスの作曲家・理論家、国営ラジオ放送局技師のピエール・シェフェールが創始した。

生形 作曲の先生のコンサートで聴いたミュジック・コンクレートの作品に、とても感銘を受けたんです。本場フランスの作曲家の先生によるミュジック・コンクレート作品にも感動しましたね。それはコンサートだけでなく、コンクールも行なわれている、日仏会館でのCCMC(Contemporary Computer Music Concert)というイベントでした。

それまでは、音楽って、いわゆる楽器や歌声のために曲を作るものとばかり思っていたのですが、「こんなことやっていいんだ!」と。楽器の音だけじゃなく、今聴こえている鳥の声だとか、電車の音だとか、そういうすべての音を音楽の要素として取り込める。こんなに自由にできる音楽があったんだと初めて知って、世界がパッと広がった。それからは音を録音して、再生して、という世界にのめり込んでいきましたね。

——ご自身でもさっそく、ミュジック・コンクレートの作品を作ったんですか?

生形 はい。それで翌年、CCMCのコンクールに出してみたら、なぜか一等賞をもらっちゃって……

——いきなりすごいじゃないですか!

生形 これでいいんだ、と調子に乗りました(笑)。それでさらに海外のコンクールにも出してみたら、入賞しちゃって……どんどん調子に乗りますよね。

——乗りますね、それは! さまざまな音を素材に作品を作るって、具体的にはどんな作業をするんですか?

生形 まずは作品の構想を練って、それに沿っていろんな音を録音して集めます。たとえばグラスをカーンと叩く音だとか、自分の足音だとか。室内でその音だけをクリアに録音することもするし、外の環境音を集めることもします。鳥の声や飛行機の音などは、その空間全体を切り取るような感じで。そうした録音の素材を、コンピューターで重ねたり、加工して拡大・縮小させたり、切り貼りしたり、音程を上げ下げしたり、増殖させたりして、作品に仕上げます。それから、音素材自体をコンピュータで生成したりもします。

※下の音源は最初に大きめの音が出ますのでご注意ください

reflection primal

 

CD「reflection primal」。日々を生きている中で必ず聴いている、普遍的だけれど記憶の奥にこびりついているであろう音を選び、多くの人の原体験に触れられるように試みたという。

その人らしさが表現される、録音の世界

——実は生形さんとは、最近出会ったばかりなんですよね。オーディオの祭典「OTOTEN 2018」で、ラックスマンのブースでお互い「講師」役に呼んでいただいたのがきっかけでした。私はクラシック音楽の鑑賞の講座を、生形さんは「生録」の講座をなさいました。

「生録」ってなんだ? という好奇心から拝聴したら、四尺玉花火の打ち上げの音だとか、大型バイクのエンジン音の音だとかを、生形さんが大音量で再生されていました(笑)。

そのときに、「写真を見ても記憶が蘇えるけれど、録音はその場の空気感のようなものも思い出させてくれる」と語っておられて、素敵な世界だなぁ! と感動しました。

生形 で、講座が終わってすぐ、レコーダーの相談をされて、一緒に買いにいきましたね(笑)。

右が生形さんに教えてもらって購入した飯田さんのレコーダー。業務用オーディオ機器メーカー、タスカムのもの。イヤフォンのメーカーも、エティモティック・リサーチでお揃い

——はい、その足で(笑)。

最近はハンディな録音機、それもさほど高くないお値段のものでも、臨場感あふれる録音が撮れるんですね。さっそく私も愛車のエンジン音とか、飼い猫のゴロゴロいう喉の音を録音したりして、思い出アルバムを作って遊んでいます(笑)。

今日は、生形さんが生録をする際のお仕事道具も持ってきてもらいました。これ、マイクですか? 小さいですね。

ベルリン・フィルの収録でも使われているというゼンハイザーの小型マイク

生形 小さいほど高周波の音まで、リアルに録れるんです。大きいマイクも味わいは出るんですが、音の正確さという面からいくと、小さいのは有利ですね。測定用の業務用のマイクはもっと先端が尖った、小さいマイクを使ったりします。これはゼンハイザーというドイツの会社のものですが、とても優れたマイクで、ベルリン・フィルの「デジタル・コンサートホール」の収録でも使われています。

湿気に弱いので、乾燥剤をいれた密閉容器にいれて持ち運んでいます。

——なるべくリアルな音を録音するということが大切なのですね。

生形 いかに自然に聴こえているように録るかを追求しています。僕が好きなのは、マイク2本で録るやり方。2つの耳で聴くかのように。音質的なリッチさを重視しながらも、あくまでも実際に聴いた感じの音に近づけたいですね。

ゼンハイザーの小型マイクを収納した生形さんお手製のマイク・セッティング。風切り音を低減するためのウインドスクリーンはストッキングなどを使っているそう

——私も、鳥の声とか、愛車カブのエンジン音とかを録って遊んでるんですが、これをやっていると、音に敏感になる気がします。鳥の声を録ったつもりが、近くの工事の音も録れていたりして。あ、ここはこんな音もしていたんだ! と。耳が開く感じというか……。

生形 人間の耳って、実は音を選んで聴いているんです。今飯田さんは、僕の話している声だけを聴いておられると思うけど、マイクだと周囲の蝉の声も、空を飛ぶ飛行機の音も、同じく均一に拾っちゃう。録音ではそういう音の存在が、よりクリアに聴ける。それも面白い。そういう体験は、自分の周りの音に対して「感覚を開いていく」ということに繋がるのかなぁ、と思います。これはマリー・シェーファーが提唱した「サウンドスケープ」という概念にも通じることだと思うのですが、コンクレートを作ったことで、より一層耳が開いていく楽しさに夢中になりました。

あるときから、それをたくさんの人にも味わってもらいたいな、と思うようになったんです。それで、一般の方を対象にしたサウンド・ワークショップをやるようになりました。参加者には「なにか音を録ってきてください」とレコーダーを渡します。みんな何かしら録音する中で、いろんなものに気づける。そういう体験をしてもらいたいなぁ、と。

——自分の創作だけじゃなく、人にもやらせちゃう。いいですね生形さん、おもしろい。

生形 みなさん鋭くて、僕には思いつかないような、意表をつく音を録ってくるんですよ。

たとえば、美術館を会場にしたときは、音のよく響く石造りの広いエントランスホールで、歩きながら吹いた口笛を録音した人がいました。音が移動していく感じや、残響がすごくて、なんとも言えない音でしたよ。小学生のお子さんは、水飲み場で、水を出したり引っ込めたりする音を録ってきて、それが妙に音楽的だったりするんです。大人も子どもも、すごく自由な発想で録音してきてくれました。

——楽しそう! それなら、楽器ができない人や楽譜を読めない人でも、みんながある種の音楽的な体験、クリエイティヴな楽しさを味わえますね!

生形 僕がここで一番面白いと思うのは、人が自由に録音してきたものの中に、ちゃんと、その人が何を聴いていて、何を見ているかが反映されてくるところ。ただレコーダーを回すだけでも、「その人らしさ」がその中に記録されてくるんです。対面して話しているだけではわからない「その人」が出てくる。

「音楽作品を真面目につくりましょう」みたいなのもいいんですけど、「録音してみましょう!」というだけでも、ちゃんとその人の表現になっていて。そういう場がもっとあってもいいかな、と思うんです。

ミュジック・コンクレートのいいところは、べつに楽器ができなくても作品が作れる、というところ。器楽であれば、思い描いた音は音符に抽象化して作品にするわけだけど、ミュジック・コンクレートでは音そのものを素材にするので、直接的に、抽象化しないでも、そのまま形にできる。それが一番の魅力かな。

—— いろんな人のいろんな録音=その人らしさ! 面白いですねぇ。ぜひまたワークショップ開いてください。私もマイ・レコーダー片手に普通に参加しますから(笑)。

音楽家としての、リアルを追求

——生形さんは、プロの演奏者たちのCD制作の録音もなさっていますね。最新の塚谷水無子さんの演奏によるバッハ=ブゾーニ版「ゴルトベルク変奏曲」(レーベル:Pooh’s Hoop、 PCD-1712)はベーゼンドルファーの豊かなピアノの音が、温かく、深く、きめ細かく伝わってくる感動的なCDで、愛聴盤です。

生形 ありがとうございます。作曲をやっている性分なのか、自分が録音をするようになると、自分ならこの演奏やこの楽曲をもっとこういう音で聴きたいな、という欲求が出てくるんですね。僕はいわゆるレコーディング・エンジニアを目指していたわけではないんですが、録音を始めてみたら、そういう目標がふつふつと湧き上がりました。

もともと音楽大学にいたので、友人や知り合いから録音を頼まれたのがきっかけです。自分自身の、音楽家というか、作曲家ならではの視点を大事にしようと思っています。今は独奏からオーケストラまで、いろいろ録音しています。

演奏の録音も、センスというか、その人がどのようにその音楽を捉えているかが大きいと思うんです。細かな技術も必要だし難しいところもあるけれど、むしろそこが一番大事なのではないかと、いちリスナーとしても実感しています。

——センス……そのセンスの基軸として、生形さんが大事にしているポイントはどんなところ?

生形 すべてに繋がってくることだとは思うけれど、「楽曲と演奏が、一番よい形で聴こえる音作り」ですね。

楽曲の構造、つまり和声だとかアレンジだとか、そして演奏家がそれをどう再現しようとしているのかが、きちんと伝わる音作りを目指すこと。ぼやっと遠くから聴こえるのではなく、楽曲と演奏の細部の表現がリアルに聴きとれて、わかりますよ、という音を目指しています。

 

そして、音がなるべく自然であること。音だけに注意したエンジニア目線で録ってしまうと、音響的にはリッチかもしれないけれど、これは本来の楽器の音や響き方とは違うよね、という状態に陥ってしまうことが多くあって。そうならないよう、自分はできる限り自然なリアリティを追求しています。ありがたいことに、こういった僕のやり方に、コアな音楽ファンの方とか演奏家の方ほど、強烈に共感してくださるところがあるみたいで(笑)。

そういう音の喜びをより多くの人と共有できるように、これからも自分なりの目線でたくさん録音していきたいですね。ひと味違うリアルな作品を録りたいと思う方がいらっしゃったら、ぜひとも一緒にどんどん作っていきたいです。 

塚谷水無子/J.S. バッハ(ブゾーニ編曲):ゴルトベルク変奏曲 BWV988

オーディオ好きは熱い!

——生形さん、最近は「オーディオ評論家」としてのお仕事が増えてきているのだとか。

生形 そうですね。もともとは、自分のミュジック・コンクレートの作品を再生する装置としてオーディオ機器を扱っていたのですが、今は評論のお仕事もするようになりました。ここ5年くらいですが。

——オーディオ評論って、どんなお仕事なのですか?

生形 オーディオ装置で音楽を楽しむ人たちの、ガイドになるような文章を書いています。こういう機械あって、こういう音で、こんな楽しみ方ができますよ、という提案です。スピーカーやアンプやケーブルなど、なんでも紹介します。あと、いろいろなアワードやコンテストの選考、オーディオイベントでの講演もありますね。

——けっこうマニアックな内容も展開してるんでしょうね。一番マニアックなところというと?

生形 うーん……たくさんありすぎますが、わかりやすいところでいうと、コンセントかな。ブレーカーとか。それで音変わっちゃいます。壁とか……

——壁?!

生形 壁はでもね、免許いるんですー。

——……。免許……?

生形 電気工事士の免許がないと、壁コンは勝手に変えちゃいけないんです。あ、マニアックといえば、これを置くだけ、貼るだけで音がよくなりますよ、みたいな、おまじない的なグッズもあります。もちろんきちんと理論に基づいたものなんですが、あまりにも変化が繊細で、わかりづらいかもしれない。

——ほほぅ……。でも、少しでも自分のオーディオ機器の環境をより良くして、より良い音で音楽を楽しみたい! っていう、オーディオ・ファンの熱量はすごいのでしょうね。

生形 今はいろいろと刺激の強い世の中だから、「音」だけに関心を絞っていくというのは、言ってしまえば物好きの世界です(笑)。でも、オーディオがホントウに好きな人たちは、みんな真面目で、純粋で、悪い人いないです。だって、家でものすごく真剣に音楽聴いてるんですから!

——真剣すぎる音への姿勢! いいですねぇ。趣味だからこそ真面目になれるというか。そういう真剣で熱い人たちに向けて、この機材はこうです、とお伝えしているんですね。評論家の方たちは、どうやってたくさんの機材を試すのですか?

生形 メーカーや出版社の試聴室に機材が運び込まれます。そこに評論家が出向いていって取材する、という形です。それから、そこまで機種が多くない場合は、自宅の試聴室でも取材をよくやりますね。

——そのときは、何を再生するんですか?

生形 評論家それぞれが、音の違いを自分で判断するための「リファレンス」と呼んでいる音源を持っていきます。僕はクラシックやジャズなど毎回同じ音源のほか、自分で録音を担当したアーティストのCDを持っていきます。生演奏を実際に聴いていますし、どういう編集で、どういうプロセスを経て作ったCDなのか全部自分でわかっているので、再生する機材の特徴がよくわかるんです。

スピーカーも、作ります

——そうだ、生形さんは、スピーカーも作っておられると聞きました!

生形 はい、作っています。オーディオのファンにはいろいろなジャンルがあるんです。ヴィンテージ機材のファン、コスパのよい機材のファン、ハイエンドのファンなどなどいますが、自作ファンというジャンルもあるんです。

——自作ファン! みなさん自分で機材を手作りしてしまうんですか?

 

生形 そうです。僕はこういう音を聴きたい、というのが自分の中にハッキリあるのですが、そういった自分の理想を完全に満たすものを、となると、やはり最終的には自作するしかないっていうところにたどり着くと思うのですね。

自分で作れば、簡単ではないけれど、なんとか手に入る。それで僕もスピーカーを作るようになりました。音を再生するときには、プレイヤーやアンプなどが必要ですが、スピーカーはもっとも音に与える影響が大きいというか、大雑把に言ってしまうと、一番重要。自作スピーカーの世界にも伝説的な評論家の方々がいるんですよ。

——すごい世界ですねぇ……

生形 最初に作ったのは、自分の作品を再生するための装置で、本当にシンプルで簡単なものでした。それがあるとき、「評論家がスピーカーを作って対決する」という「Stereo」誌の企画があったんです。そこにぜひ出てくださいって言われて。話を聞いたら、なんと20年くらい続いている伝統的な名物企画のようで、もうある種の通過儀礼ですよね。これは気合いを入れないと、と思って(笑)。そのときに、すごく大掛かりなものを作ってしまった。初心者は普通やらないようなもの。下手すると、一生かけて泥沼にハマってしまうような規模の……。知らないから、やれたんです。そうしたら、たまたまうまくできちゃった。

生形さんのご自宅の試聴室。筆者競作で作った大きなスピーカーを、今でもリファレンスにしている。

——なんと! 「自作ファン」の間で、話題になったのでは。

生形 そこから結構作るようになりましたね。お仕事として、年に数モデルを設計させてもらってます。実はONTOMO Shop限定のスピーカーのモデルを設計させてもらい、間もなく発売されます。

——そうなんですか!? (飯田は7月10日のインタビュー時、本当に知りませんでした・笑。ONTOMO的には出来すぎの話の流れですが、あしからず……) 私は個人的に今、デスクトップ周りの音響環境を改善したいと思っているんですが、それ、大きさは?

生形 コンパクトなのでちょうどよいと思いますよ。よかったら、試してみてください。

——アーティストの演奏を録音する際に、よりリアルで、自然な音作りを目指しておられるとのことでしたが、再生するスピーカーにも、その美学は反映されているのでしょうね。

生形 そうですね、スピーカーにも個性をもたせず、透明なものを目指しています。

UBUKATA MODEL DBR-3

UBUKATA MODEL DBR-3

※かくして突如、「仕事人たち」番外編(!?)として「飯田の仕事場にて、生形さんの作ったスピーカーを鳴らしてみよう! 企画」が開かれることになりました。記事は近日公開!

よりよい音と、よりよい暮らしを

——生形さんにとって、オーディオ・アクティヴィストとして活動する中での喜びとは?

生形 まずは、録音したばかりの採れたての音を聴いているときは一番幸せかなぁ。僕にとって音とか音楽って、食べ物みたいなもの。美味しいもの。心地よくて気持ちよくて、幸せな気分になれるもの。それを味わったり、広めるためにやっているところがありますね。だから、作曲したり、録音したり、スピーカーを作ったり、ワークショップをしていろいろな人の感覚に触れたりして、さまざまな形で美味しい音を探していく。

そして、オーディオ機器の評論で言えば、製品を通して伝わってくる作り手のセンスとか信念に唸らされるときは、ほんとに嬉しいです。そこは、世界中のいろんなお料理とかお酒を味わう感覚にも似ているのかなぁと思います。芸術表現と同じで、そういったお国柄とか個人のセンスって、ほんとに価値観を一変させるくらい大きな存在じゃないですか。

音や音楽が心身に与える効用はきわめて強いと思うんです。その人の心や感情を増幅させたりリラックスさせたりする作用がある。でも、生演奏って、必ずしもいつも最適なシチュエーションや最高のコンディションを聴けるわけではありません。一方で、録音したものの再生なら、好きなときに好きなものを好きなように聴けるというよさがあります。演奏する側にも、聴き手側にも、自由になるところが圧倒的に大きいですから。

さらに言うと、単に生演奏の替わりという意味ではなくて、さっき言ったようにマイクを通すからこそ炙り出されてくる面白味もあるんですね。例えば、写真や映像でも、人間の眼ではなくてカメラやレンズが捉えるからこそ見えてくる視点や面白味、そして映像ならモンタージュすることで生まれる創作の可能性ってあるじゃないですか。音も同じで、録音や編集によって音を音の原因自体から切り離して扱えてしまうので、そこに新たな視点や意味を生み出せ得る。そこにこそ「オーディオ=録音⇔再生」の一番の醍醐味があると思っています。

——これからの夢はありますか?

生形 漠然としたことですが、多くの方が音やオーディオに興味をもってくださるようなきっかけ作りをしていきたいですね。音に関心をもってほしい。普段から関心をもたないと、意識的には音を聴かなくなってしまう。

でも、音が体に与える影響って、実は意外と大きい。普段の暮らしの中で、普段意識はしていなくても、雑音をどこかで聞いていることでストレスになっていたりすると思う。そういう実質的な意味でも、音に関心をもっていると、よりよく暮らせると思うんです。それに、単に音楽を再生するにしても、ちょっと工夫をしてやれば、音楽再生から得られる効用って何十倍にも何百倍にも大きくなるはずです。

そして、純粋に音は面白い。それを広く知っていただけるなら、手段は問いません。オーディオ機器でも、生録でも、作曲でも。目的は共通しています。できることをいろいろやっていきたいですね。

イラスト:飯田有抄

※以下、編集部撮影の動画、音の話をしているのに、蝉の声などノイズが多くなっております。あしからず……。

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