クライバーン・コンクール予選を終えた亀井聖矢、吉見友貴、マルセル田所に直撃取材!
今回のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール、日本からも優れたピアニストたちが3名参加しています。予選の結果発表を前に、そんなお三方をご紹介しておきたいと思います。終演後のインタビューと合わせてどうぞ。
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...
亀井聖矢「自分のやりたい音楽を伝えたいという気持ちで弾くことができた」
初日に登場した亀井聖矢さんは、2001年愛知県生まれ(最近、愛知出身のピアニストの活躍がすごいですね)。現在桐朋学園大学在学中。2019年に日本音楽コンクールピアノ部門で優勝したことで注目を集め、すでに日本に多くのファンがいるピアニストです。
予選で演奏したのはこちらのプログラム。
スティーヴン・ハフ:ファンファーレ・トッカータ
ショパン:エチュードop.10-2
ベルク:ソナタop.1
リスト:《ノルマの回想》
——最初のステージを終えて、いかがですか?
亀井 変な緊張はせず、思うままに弾けたので、今は結果がどうなってもいいなという気持ちです。
——委嘱作品のあとにショパンのエチュードを1曲挟んで、ベルクのソナタとリストの《ノルマの回想》という、おもしろいプログラムでしたね。
亀井 好きな曲を詰め込むと、いつもそうなってしまうという感じです。それぞれのラウンドで自分の良さを出せるようにと思ってプログラムを組みました。
ショパンのエチュードOp.10-2は、入れるかどうかとても迷いましたが……体があたたまっていない状態で弾くのは難しい作品なので。
《ノルマの回想》は好きな曲なので選びました。演奏を聴いて、オペラを観たような気持ちになっていただけたら。
今はアドレナリンが出ているから大丈夫だけど、帰ったらドッと疲れそうです(笑)。
——ピアノはいかがでしたか?
亀井 ハンブルク・スタインウェイの方を選んだのですが、すごく状態が良く、ホールの響きも素晴らしく良かったので、今までの練習よりも断然気持ち良く弾けました。
——いい時間帯だったこともあって、日本からみなさんライブでご覧になっていたと思います。日本で応援しているみなさんに一言お願いします。
亀井 この後の審査結果はどうなっても、ここまでこられただけでも奇跡的なことで、光栄だと本当に思っています。
自分のやりたい音楽を伝えたいという気持ちで弾くことができて、よかったです。
吉見友貴「弾いている人の人生が反映される《ロ短調ソナタ》で自分を伝えることができた」
吉見友貴さんは、予選2日目に登場。2000年東京生まれの22歳。桐朋学園大学で学んだのち、2020年の秋からアメリカ、ボストンのニューイングランド音楽院に留学しています。彼もまた、2017年に日本音楽コンクール・ピアノ部門で優勝して注目を集め、さらに昨年はエリザベート王妃国際音楽コンクールのセミファイナリストとなり、ファンを増やしたピアニストです。
予選で演奏したのはこちらのプログラム。委嘱作品の他はリストの《ロ短調ソナタ》のみという、潔い選択!
ハフ:ファンファーレ・トッカータ
リスト:ソナタ ロ短調
——出てきた瞬間から人気でしたね。
吉見 えー、そうですか? なんでだろう(笑)。
——演奏後も盛り上がっていました。客席のあのリアクションを受けて、いかがでしたか?
吉見 リストの《ロ短調ソナタ》は長いので、終わってほっとしたところ、客席でみなさんが立たれているのを見て、ちょっと泣きそうでした。終わったー!と思って。
——演奏を終えて、どんな気分ですか?
吉見 ステージの上では自分の思うようにいかないことも多いですが、逆に思っている以上のものが出るところもあります。
体の動き的に、うーんと思うところもありましたけれど、とりあえずは集中して弾くことができました。
——それにしても、予選でリストの《ロ短調ソナタ》のみという、この選曲ですよ。
吉見 おかしいですよねー(笑)。予選でリストって、どういうこと?って感じですよね。
これはエリザベート・コンクールでもプログラムに入れていたのですが、セミファイナルで違うほうの課題曲を選ばれてしまって、弾けなかったのです。
今回こそ弾きたいと思ったのですが、時間的に他のラウンドでは入れられるところがなかったので、予選で入れちゃおうと。
この曲は、リストの人生というか、弾いている人の人生が反映される曲だと思っています。結果はどうなるかわかりませんが、自分はこういうものですと伝える演奏ができたと思っています。
マルセル田所「いつも自分の演奏を振り返っていろいろと感じています」
マルセル田所さん(日本/フランス)は、1993年福岡生まれ。名古屋の高校を卒業したのち、18歳でパリに渡ってピアノの勉強を続けました。現在はエコール・ノルマル音楽院で、名教師として知られるレナ・シェレシェフスカヤさんのもとで学んでいます。
個人的には2018年の浜松国際ピアノコンクールでお話を伺った時のこと……ステージでは堂々としているのに、演奏後はぐったりしていて、ご自分の演奏をものすごく謙遜される方という印象が強く残っていました。今回、4年経っても同じ感じだったので、うれしかった!
予選で演奏したのはこちらのプログラム。吉見さんとは対照的に、バロック、古典派、ロマン派、近代と多様な作品を組み合わせてあります。
ハフ:ファンファーレ・トッカータ
ラモー:ロンドー形式のミュゼット
ベートーヴェン:創作主題による6つの変奏曲 Op.34
リスト:超絶技巧練習曲 第5番 鬼火
ストラヴィンスキー:ペトルーシュカからの3つの楽章
——最初のステージを終えて、いかがですか。
マルセル 予選は緊張するので、疲れました。
——それにしても、マルセルさんのいろいろな面を見せてくれるプログラミングでしたね。
マルセル はい、いろいろなスタイルの作品を混ぜようと思ったら、このようなプログラムになりました。
コンクールの予選はストレスが多いですし、自分が思うように弾けたことはありません。今も自分でいろいろと感じています。
——反省とか?
マルセル かなり。
——この後のラウンドすべてに変奏曲が入っていますね。あと、浜松国際ピアノコンクールのときもブラームスの《パガニーニの主題による変奏曲》を弾いていて、全然うまくいかなかったとおっしゃっていたのが印象に残っているのですが、このあとセミファイナルで再びこの曲が入っています。
マルセル 浜松で、弾きましたね。その後もちょこちょこ弾いていますが。浜松の後、ちょっと良くなったかなと
***
昨年のショパン・コンクールのときにも、“かつて日本のピアニストは個性が薄いといわれたけれど、今回はそんなことないね!”という声をよく聞きましたが、このクライバーン・コンクールでの日本のピアニストたちも、まさにそういう感じ。
それぞれに個性と主張があり、強い印象を残しています。
コンクールの場で、こうして世界にファンを増やしていくピアニストのみなさん、頼もしいですね!
ランキング
- Daily
- Monthly
ランキング
- Daily
- Monthly