インタビュー
2022.06.07
第16回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール現地からインタビューをお届け!

クライバーン・コンクール注目のコンテスタントに直撃!~ケイト・リウ、オソキンス

今回のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールのコンテスタントには、ピアノ好きにとってはなじみのある顔が何人も見られました。なかでもショパン国際ピアノコンクールで人気を集めたピアニスト—2015年第3位のケイト・リウさんや、同ファイナリストのゲオルギス・オソキンスさんの参加には、ショパン以外のレパートリーをあらためて聴ける機会ということで、期待をしていた方も多いのではないでしょうか。
予選の演奏後、そんなお二人にお話を伺いました。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

撮影=筆者

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ケイト・リウ 「ショパンコンクール入賞からこれまで、ピアニストとしてより良くなりたいと思い続けて過ごしてきました」

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ケイト・リウさんが予選で演奏したのは、こちらの曲目。

シューベルト:アレグレット ハ短調 D.915

ハフ:ファンファーレ・トッカータ

プロコフィエフ:ソナタ第8番 変ロ長調 op.84

最後に弾いたプロコフィエフは、あの細身の体から繰り出されるよく通る重い音といい、バネのあるタッチで刻まれるリズムといい、聴き手を引き込む要素が満載の演奏でした。

——今回のプログラムはどのようにして決めたのですか?

リウ プロコフィエフの「ピアノ・ソナタ第8番」は大好きな作品で、自分の心にとても近いものを感じるので、まず予選で演奏したいと思いました。プロコフィエフによる天才的な作品だと思います。

——ファイナルでもプロコフィエフの2番のコンチェルトを選んでいますよね。楽しみです。

リウ そう。どうなるかわかりませんけれど(笑)。

——ホールとピアノはいかがでしたか。最初の音をどう鳴らすかに、すごく気を遣っているように見えました。

リウ ピアノに慣れないといけないので、最初はいろいろと考えながら弾いていました。私はハンブルク・スタインウェイを選びましたが、少しドライな音に感じたので。

——ショパンコンクールに入賞してから6年、いろいろなことがあったと思いますが、6年前と今とで大きく変わったことはありますか?

リウ まず、演奏方法を変える必要があったので、手の使い方は大きく変わりました。

そして音楽的にも、より作曲家について理解を深め、成長できているといいなと思っています。ピアニストとしてより良くなりたいと思い続けて過ごしてきました。

——ところでみなさんが聞くと思いますが、すでに人気のピアニストのケイトさんが、なぜクライバーン・コンクールを受けることにしたのですか?

リウ いえいえ(笑)。やはりコンクールというのは、ピアニストが注目してもらうための大切なプラットフォームですから。結果はどうなるかわかりませんでしたが……私自身、コンクール向きのピアニストなのかわかりませんし。でも、何か得るものがあると思って挑戦しました。少なくとも、多くの方に演奏を聴いていただける機会になると思います。

日本のファンは来日を待っていますよといったら、もちろん行きたい!と答えてくれました。本当に、またすぐに来日してほしい。そのときはぜひプロコフィエフを生で日本のみなさんにも聴かせてほしい!

ゲオルギス・オソキンス 「私たちアーティストは、社会の状況にリアクションすべきだと私は思っています。今回のプログラムについては、これが私のリアクションだということです」

ゲオルギス・オソキンスさんが予選で演奏したのは、こちらの曲目です。

スクリャービン:ソナタ第9番《黒ミサ》op.68

ハフ:ファンファーレ・トッカータ

ショパン:ソナタ第3番 

——予選では、スクリャービン、ショパンを演奏して、間にハフをはさむプログラムでした。

オソキンス ハフの作品はとてもすばらしいものでした。もともとデジタル版の楽譜をもらったのですが、紙の楽譜に掲載してある彼の絵画が僕にとってはインスピレーションの源になりました。

——どのようにプログラムを選んだのですか?

オソキンス スクリャービンとショパンは、今、とても演奏したい作品でした。どちらも戦争と関係のある作品です。今の世界の状況ともリンクすると思います。

スクリャービンは《黒ミサ》を、戦争が始まる何年か前に書いています。予言のようなものだっただろうと思っています。彼は世の中で起きることに対して研ぎ澄まされた感覚を持っていましたから。今の時代にとても合う作品だと思います。

ショパンの「ピアノ・ソナタ第3番」も同様です。ショパンは祖国の友人や家族のことを常に憂う、戦争の時代を生きていたので、ほとんどすべての作品が戦争に何かしら関連していると思います。特にこのソナタには、彼の感情がよく現れていると思います。

私たちアーティストは、社会の状況にリアクションすべきだと私は思っています。知らないふりはできません。ある人は言葉で、ある人は思考で、ある人は音楽でリアクションする。今回のプログラムについては、これが私のリアクションだということです。

——そんなコンセプトがあったとは。

オソキンス もちろんですよ。今回もすべてのステージにそれぞれのコンセプトがありました。バラバラの作品をただ並べるのではなく、必ず何かのストーリーを作ろうと思っています。特にこんなふうに選曲に自由があるコンクールだといいですね。弾きたいものを選んで、伝えたいことを伝えられるから。

——スクリャービンはオソキンスさんに似合いますね。

オソキンス 自分でもそう思います(笑)。ステージに出る前、ヘッドフォンで音楽を聴いていることが多いのですが、スクリャービンの《法悦の詩》はよく聴きます。本当に輝かしい作品で、いつもインスピレーションを与えてくれます。

お話を聞いたら、ますます次のステージも聴いてみたかったと思わずにいられません。セミファイナルでは武満徹を弾く予定だったようですし……。演奏はユニークで、いつも自信たっぷり、でもとても好青年。今回のクライバーン・コンクールの結果は残念でしたが、また日本で演奏を聴かせてくれる日を待ちましょう。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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