第2章:想いが曲になるまで Vol.3 エスペランサ~希望~
日本全国の学校や合唱団で歌われ続けている合唱曲《COSMOS》や《地球星歌》。旅の体験や星空の影響を受けた作者のミマスさんが自身の想いをこめた歌です。そのメッセージが、十数年の時をかけて歌とともに広まっています。この連載ではプロローグ、《地球星歌の旅》に続き、ミマス作品に込められたご本人の体験をエピソードとともに紹介していきます。
Sachikoの澄みわたるボーカルと、ミマスの詞と曲を基盤とする音楽ユニット「アクアマリン」( http://aqumari.com/ )のメンバー。1998年6月結...
合唱曲《エスペランサ~希望~》は、2016年の夏に「教育音楽」に初めて楽譜が掲載されました。富澤裕さんによる編曲で、2部合唱(小学版8月号)と混声3部合唱(中学・高校版9月号)があります。
この歌は、僕が参加している音楽ユニット「アクアマリン」のオリジナル曲の一つとして作ったもの。リリースは2006年ですから、10年も昔の作品です。最近になって兵庫県のある合唱指導者の方がアクアマリンのCDを聴き「この歌を合唱団で歌いたい」と思ってくださったことから、合唱曲として世に出していただくことになりました。
タイトルの「エスペランサ」とは、スペイン語で「希望」を意味する単語。僕は以前、南米大陸を旅することが夢だった時期があり、スペイン語をがんばって勉強していました。そのなかで出会ったこの言葉の優美な響きに魅かれ、いつかこの言葉をタイトルにした歌を作りたいと思うようになったのです。ですからこの歌は曲が先でも詞が先でもなく、「タイトルが先」で作った歌ですね。一つの言葉がもつパワーというのはけっこう大きくて、このような形で歌ができることは少なくありません。
この歌の成立には、いくつかの旅の体験が関わっています。少し長くなりますが、この歌ができるまでのプロセスを詳しくお話ししてみることにしましょう。旅行記を読むつもりで、しばしお付き合いください。
2002年の夏、兵庫県でのイベントライブ出演の数日後に徳島県でコンサートを行うということがありました。僕たちは神奈川県に住んでいますから、一度帰ってきてまた行くよりも、そのまま四国に滞在したほうがラクだし安上がりだろうということになりました。そこで、数日間かけて四国を旅行したのですね。
そのさいに高知県の室戸岬を訪れました。太平洋に鋭く突き出した岬の風景はほんとうに雄大で、感動的でした。夏の海は独特の開放感や高揚感があります。僕は輝く海原と水平線を風に吹かれて眺めていました。
そして、ふと、大空を飛ぶトンビの姿が目に入りました。ありふれた光景です。でもなぜかその時、鳥が空を飛んでいることがとても不思議な感じがしました。「鳥はなぜ空を飛べるのだろう……」。旅先というのは、人間をいつもとは違う感覚にさせます。この時もきっと何か感じるものがあったのでしょう。
「鳥には風が見えるのかな。自分を大空へと運んでくれる風が見えるのかもしれないな。それとも、見えないけれどそこに風があると信じて身を任せているのかな……」。そんなことを漠然と考えました。
それから2年後のこと。アクアマリンは5作目のCDアルバムの制作を始めるにあたり、壮大な構想をたてました。「日本からは見えない南半球の星空」をテーマに一つのアルバムを作る計画を立てたのです。これからオーストラリア大陸を旅して、有名な南十字星やマゼラン銀河などを自分の目で見て、その体験をもとに十数曲の歌を作詞作曲する……。気の遠くなるようなプランです。でも、若いということは、それができてしまうのですね(笑)。今だったらちょっと躊躇してしまうかもしれません。
西オーストラリア州のパースという町でレンタカーを借り、3週間にわたって8000kmを走る旅をしました。生まれて初めて見る南半球の星空。憧れの南十字星。アルファ・ケンタウリの神秘的な輝き。荒野の一本道にクルマを停め、ひと晩じゅう満天の星空と天の川を眺めたことも。野生のカンガルーやエミューとも友だちになり(笑)、とても楽しい思いをしました。
旅先で出会った現地の人から、「君はエスペランスへ行ったのか?」と聞かれました。「ノー」と答えると、「絶対に行ったほうがいい。行って、あの海の青さを見るべきだ」とのこと。時間に余裕もあることだし、言われたとおりにエスペランスへ向かったのです。その町の名が「希望」という意味なのだろうということはすぐに分かりました。むかし嵐のときにフランスの船がこの入江に避難したことから、その船の名が町の名前になったという話を後に本で読みました。
そこで見た海の美しさは、衝撃的ともいうべきものです。間違いなく、僕がこれまで生涯で見た最も美しい海です。息をのむような海の青さ。浜辺に咲きほこる鮮やかな黄色の花々。真っ白な遠浅の砂浜が、引き波に濡れて鏡のように空を映しています。その光景を目にしたとき、「ああ……、この風景を描いて”希望”の歌を作ろう」と思ったのです。
そこにも海鳥が飛んでいました。ふと僕は、むかし室戸岬で見たトンビを思い出しました。鳥はなぜ空を飛べるのだろう……。その答えが、急にここで分かったような気がしたのですね。鳥はやはり、見えない何かを信じて翼を広げているのです。
「この歌はいつ作ったのですか?」「作るのに何日くらいかかったのですか?」 多くの方から日々このような質問を受けます。しかし歌というのは、ある限定された期間の体験だけでできるものではありません。確かに、ある時のある体験が歌の核になることは多々あります。でもこの《エスペランサ》のように、何年もの時差のある複数の体験、そのときどきに考えたことが結ばれて一つの歌になることも多いのです。
厳密に言うならば、例えばその人が30歳の時に作った歌は、30年かかってできたということなのです。このことは、歌を作る者としてはぜひ皆さまに知っていただけると嬉しいなあと思います。しかしまあ、いちいちそんな答え方をしていたらミもフタもないですから(笑)、いつもちゃんともっと具体的に答えていますよ。
ミマス
この曲はメロディがすごくシンプルです。和音も単純なものばかりです。覚えて歌うことも、ハーモニーを作ることも比較的簡単な曲といえるでしょう。そのぶん、細かいところも丁寧に意識して、全員が息を合わせて表現を作れると、聴く人の心を揺さぶるような説得力のある合唱になると思います。
歌詞を見ると、希望といっても底抜けに楽観的なものではなく、深い絶望の底に残滓(ざんし)のように残る希望を歌っています。とはいっても暗い気持ちで歌う必要はなく、歌う人も聴く人も最後には明るく楽しく元気な気持ちになれるような歌を歌っていただきたいです。
また、8分の6拍子というリズムをどのようなニュアンスで表現するのかということも大きな要素になるでしょう。刻むようにするのか、揺れるようにするのか、流れるようにするのか。いろいろなアプローチが考えられ、どれも正解ですが、メンバー全員がグルーヴを共有することは重要で、この曲においてはその部分がとくに大切になってくると思います。
もしあなたのクラスや合唱団でこの歌を歌ったら、この『オントモ・ヴィレッジ』のウェブページにある、皆さまの合唱の動画を発表するコーナーに応募してみてください。この曲だけでなく、《COSMOS》や《地球星歌》などミマス作品ならどの曲でもOKだそうです。世界に向けてぜひ皆さんの歌声を発表してください。応募方法は「歌声を発表しよう」をごらんください。
この冬、日没後の南西の空に金星がものすごく明るく見えています。ほかの星とは比べものにならないくらい強くビカッと光っていますので、ひと目で見つけることができるでしょう。そのまぶしい輝きから、西洋では金星のことを「ヴィーナス」と呼びます。ヴィーナスとはローマ神話の愛と美の女神の名です。
金星は、夜明け前の東の空に見える時期は「明けの明星」、日没後の西の空に見える時期は「宵の明星」と呼ばれます。どちらも同じ金星ですが、実際に見たときの印象は、僕には違って感じられます。まだ人々が目を覚ます前に、明け方の張り詰めた冷たい空気の中で見る金星は神秘的で神々しい感じがします。いっぽうで、学校や仕事からの帰り道、夕暮れの街明かりの上に金星が輝いているのを見ると、どこかホッとして親しみを覚えます。まるで金星が僕たちに向かって「今日も一日お疲れさま!がんばったね」と言ってくれているような感じがして嬉しくなります。あなたもぜひ金星と友だちになって、言葉を交わしてみてください。
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<ミマスのライブ映像>
星空音楽館20周年記念!ありがとうコンサート ライブ動画
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