高橋彩子の「耳から“観る”舞台」第10回

ダンスが紡ぎだす秘めやかな音に五感を研ぎ澄ませる――関かおりPUNCTUMUN『みどぅつなみた』『ひうぉむぐ』

記事
2019.02.19

その振り付けに対して数々の受賞歴をもち、国内外で活躍するダンサー/振付家の関かおり氏。彼女率いるPUNCTUMUN(プンクトゥムン)が2018年に北米とメキシコシティで発表、高い評価を得た2作品が日本で初演されます。

堤田祐史氏をサウンドデザインに迎えたその舞台は極めて静謐。音楽が流れない舞台から、高橋彩子さんは何を聴き、何を感じたのでしょうか?

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『ひうぉむぐ』
photo: David Flores Rubio
高橋彩子 舞踊・演劇ライター
高橋彩子
高橋彩子 舞踊・演劇ライター
早稲田大学大学院文学研究科(演劇学 舞踊)修士課程修了。現代劇、伝統芸能、バレエ、ダンス、ミュージカル、オペラなどを中心に執筆。『The Japan Times』『E...

スピーカーもイヤフォンもワイヤレスの時代、私たちは好きな音・音楽を、どこでも高音質で手軽に楽しめるようになった。その一方で、日常では聴こえない音や、人々が聴くのを忘れた音も、この世界には存在する。土の中で微生物がうごめく音、夜明けに開く花の音、あるいは、今いる空間でかつて鳴っていた音……。そんなさまざまな音を聴かせてくれるのが、ダンサー・振付家の関かおりの作品だ。

感覚を研ぎ澄ませた先に生まれる奇跡

幼少の頃からバレエを習い、その後、モダン・ダンス、コンテンポラリー・ダンスを学んで創作活動を開始した関かおり。

関かおり
photo: Yasuo Kuboi

彼女のカンパニー“PUNCTUMUN”の舞台では、薄衣に肌をぴったりと包んだダンサーが、密やかな雰囲気のなか、繊細な動きを展開していく。半覚醒のような状態のダンサーたちは、そのときどきで、微生物にも虫にも爬虫類にも哺乳類にも見えるが、いずれにせよ、人間社会の規則や感情とは別の感覚で生きる生命体を想起させる。

たとえば、「はかないもの、息」「(生き物の)内部」を意味するヘブライ語や「積み重なった塊」の意味のラテン語からの造語をタイトルにした『ケレヴェルム』(14年)は、組み合わさっては解け/溶ける幾つもの身体を通して命の儚さと強さを感じさせる作品だった。

古語「いろみえで」と英語のfadeに相当するヘブライ語「ミットゥポゲェイグ」より生まれた『ミロエデトゥト』(14年)では、白い空間で効果的に描かれる闇の中で、微細に動く身体が、生と死、現実と夢、永遠と一瞬の間を移ろった。

かと思えば、「おろかな、ばかげている、こっけいな、おこがましい」を意味する古語をタイトルにした『を こ』(16年)では、敷き詰められた砂の上で、どこか人間味も帯びた生き物の生態を表現。

古語「うつる」および「うつらうつら」の「うつ」の語源説のある「現(うつつ)、空ろ、虚ろ」から名付けて「目に見えない、物の気の中に、自分の気配をおく」ことを目指したという『うとぅ り』(17年)では、さまざまな光の下でダンサーたちが、あるときは微生物のように、またある時は遥か彼方の音に耳を傾けるサバンナの動物のように……と豊かなイメージを創出した。

こう書いてみてもわかるとおり、明確なストーリーをもたず、一見とりとめもないのが、関かおりの舞台の特徴だ。同じ作品を描写しても、観る人の感性や状況によって、かなり異なるに違いない。

その動きにはいわゆるポーズ(決め)がなく、従って、“決まったポーズ”も“決まらないポーズ”も存在しない。無音ないし微かな音が響く静寂のもと、高い緊張感とともに、間断なく続いていく。観客も、知覚を研ぎ澄ませながら見守ることになる。関がいくつかの作品で香りを演出に取り入れているのは、象徴的だろう。

ダンサーと観客双方が五感を先鋭化したときに立ちのぼる、秘めやかな奇跡の瞬間。それが、関の舞台ならではの魅力なのだ。

海外で初演した最新作を2作上演

そんな関が、PUNCTUMUNの国際共同制作として海外で上演した最新作、『みどぅつなみた』『ひうぉむぐ』を、日本初演する。

『みどぅつなみた』のタイトルは、「水」と「涙」を意味する古語を「つ」で繋いだもの。北米および神戸での滞在制作を経て創作され、18年に北米4都市で上演された、PUNCTUMUNでは初めてのデュオ作品となる。

『みどぅつなみた』
photo: Christoper Shea

薪の燃えるような音に鳥のさえずりや風音、水音などが混じるなか、男女のダンサーが静かに身体を横たえ、重ね、あるいは起き上がる。

従来の関作品同様、両者に言葉や表情でのコミュニケーションはない。関によれば「溶解、液体、乾燥などが身体のキーワード」だそうで、見つめ合うことなく触れ合い、ときには一体のように繋がる二人の姿を見ているうち、自己―他者、意識―無意識の境目に入っていくような感覚を覚える作品だ。

『みどぅつなみた』
photo: Christoper Shea

『ひうぉむぐ』は、「むす(産す、生す)」と、“継ぎ、魂を継続させるもの”としてのひつぎの“つぎ”、そして永遠を表す「無窮(むぐう)」のイメージからなる造語。こちらは、メキシコのダンサーとクリエーションし、やはり18年に、メキシコシティで初演されたものを、日本人ダンサー6名でリクリエーションする。

『ひうぉむぐ』
photo: David Flores Rubio

ダンサーが立てる打音や摩擦音、軋む音などが響くなか、ダンサーたちが、生まれたての子鹿のように不安定に立ち上がったかと思えばまた床に崩折れ、転がり、這いつくばり、ゆっくりと起き上がり……。関は「時が止まっているか進んでいるのか、戻っているのか、曖昧になるように作品を紡いだ」そう。ダンサーたちは、胎内を行きつ戻りつする胎児にも、生死の境をさまよう生命体にも見えるかもしれない。

『ひうぉむぐ』
photo: David Flores Rubio

『みどぅつなみた』のサウンドデザインは、PUNCTUMUNの全作品を手がけている堤田祐史。『ひうぉむぐ』のサウンドデザインはメキシコのアーティストCarlos Iturraldeが手がけたが、こちらもリクリエーションにあたって堤田の手が加わる。

過剰なほど親切に情報を与え、あの手この手で楽しませてくれる娯楽が多いなか、観客が五感を整えて受け取るのが、関の作品。その深密な舞台を体感したとき、あなたに見えている・聴こえている世界は、きっと少し変わることだろう。

公演情報
関かおりPUNCTUMUN新作公演 2018年国際共同制作作品『みどぅつなみた』『ひうぉむぐ』

日時:
2019年2月20日 (水)15:00/19:30

2月21日 (木) 13:00/17:00

開場は開演の各20分前

会場: ムーブ町屋 〒116-0002 荒川区荒川7-50-9 センターまちや3F
千代田線・京成線・都電荒川線 町屋駅より徒歩1分

料金: 全席自由席(税込)
一般:前売 3,500円/当日 4,000円
ユース:前売 2,500円/当日 2,800円(小学生以上24歳以下・当日確認証提示)

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