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2024.08.18

沖澤のどかに50の質問!〈後編〉自分の意外な一面は? オフの過ごし方は? 刺激を受ける場所は?

2019年のブザンソン国際指揮者コンクールで優勝し、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のアシスタントを務め、現在では京都市交響楽団常任指揮者をはじめ、指揮者として国内外でしなやかに活躍される沖澤のどかさん。いったいどのようなことを考えて、どのような生活をされているのか……彼女の素顔を50の質問から明らかにします!
後編では、音楽全般についての質問から家族との時間やご自身についてまで詳しく教えてもらいました。

三木鞠花
三木鞠花 ONTOMO編集者

フランス文学科卒業後、大学院で19世紀フランスにおける音楽と文学の相関関係に着目して研究を進める。専門はベルリオーズ。幼い頃から楽器演奏(ヴァイオリン、ピアノ、パイプ...

写真:津村晃希

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人と比べずに自分の審美眼をきちんと持って

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19. 音楽家がもつべき信念とは?

沖澤 自分自身に嘘をつかないことです。やっぱり自分がこうって思ったことをちゃんと消化しきったうえで、人前に立って伝えないと。その場で取り繕ったりすることってあっという間にわかってしまいます。

あとは、自分たちが取り組む音楽に誠実でいる。そうなれないような曲がもしあるんだとしたら、そのときに取り組むべき曲ではないかもしれないし、 一緒に演奏する人に敬意が持てないとしたら、その状況をなんとか変えないといけない。逆にこの人から信頼されてないなと思ったら、自分を変えないといけない。誠意と敬意っていうのは常に大事にしていたいです。

2019年、名高いブザンソン国際指揮者コンクールで優勝、併せてオーケストラ賞及び聴衆賞を受賞。2018年には、最も権威ある国際的な指揮コンクールの一つである東京国際音楽コンクール<指揮>でも優勝(及び特別賞、齋藤秀雄賞を受賞)している。第28回(2020年度)渡邉曉雄音楽基金音楽賞、公益財団法人ソニー音楽財団 第21回(2022年度)齋藤秀雄メモリアル基金賞 指揮部門、第1回(2023年度)毎日芸術賞ユニクロ賞受賞。セイジ・オザワ松本フェスティバル首席客演指揮者。
2020年から2022年までベルリン・フィルハーモニー・カラヤン・アカデミー奨学生、及びキリル・ペトレンコ氏のアシスタントを務めた。2023/24シーズンは、バーゼル室内管弦楽団、ウィニペグ交響楽団、ケベック交響楽団等にデビューする。また、NHK交響楽団の定期公演へのデビューのほか、東京交響楽団及び2022/23シーズンにアーティスト・イン・レジデンスを務めたミュンヘン交響楽団へ再登場する。
青森県生まれ。幼少期からピアノ、チェロ、オーボエを学ぶ。東京藝術大学で指揮を高関健、尾高忠明両氏に師事して修士号を取得。2019年には、ハンス・アイスラー音楽大学ベルリンでクリスティアン・エーヴァルトとハンス・ディーター・バウム両氏のもと第二の修士号を取得した。ベルリン在住。
2023年4月から京都市交響楽団第14代常任指揮者に就任。

20. 音楽家人生で最大の驚きは?

沖澤 天才みたいな人がゴロゴロいることと、そういう人たちが必ずしも舞台には立っていないことです。自分が藝大に入った頃は、すごい人が周りにたくさんいると思ったし、 その時点で舞台に立っているような人がいちばん才能があって素晴らしい演奏家なんだろうと思ったんですけど、そうでもない。やめてしまう人や行方不明になる人などいろいろな人がいて、 いろいろな演奏家もいるので、単純に実力だけではないっていうのは驚きであり、ショックでもありました。

21. 音楽家を目指す後輩へアドバイスするとしたら?

沖澤 さきほどと少し重なるのですが、人と比べないことと、自分の審美眼をきちんと持って、それに自信を持つこと。今はSNSでコンサートの感想も見られるし、いろんな感想を共有できると思いますが、そうじゃなくて、自分がいいと思うもの、自分がこれは違うって思うものに自信を持ってほしいです。それが別に人と違っても全然関係ない。そういうものを持っていないと他人からの意見ですぐにブレるから、大事にしたほうがいいなと思います。

あとはとにかくどんどん外に出ること。なんでも動画で見られる時代だけど、やっぱり生の演奏とか旅行に行くとか、人と会うとか、私は自分の経験からそういうことで 人生が変わると思っています。

それから、「これくらいできるようになったら挑戦しよう」みたいのはやめたほうがいいかもしれない。そんな日はいつまで経ってもこないから。準備万端だと思える日は多分一生来ないと思うけど、それでもやってくしかないから。とにかく失敗できる場所を若いうちに持って、たくさん挑戦してほしいですね。

22. 10年後の音楽界がどうなっていてほしい?

沖澤 ほかのいろいろな分野にも開けててほしいと思います。よくお客さんの年齢層を若くしないと……と言われますけど、私はそこまで重視していなくて。その年代年代で心に刺さる曲があって、子どものときから好きな人もいれば、一方である程度の年代になって、すごく心に響くことってあると思うので。

少子化でお客さんが減っていく問題は考えないといけないけど、でも、若者向けにっていうことをわざわざしなくても、お客さんはこの先もついてきてくれると思うので、私はあんまり心配していないです。だけど、そのクラシック音楽を作る人たち、その音楽シーンを作る人たちの感覚のアップデートっていうのは常にしていかないと。どんどんその時代に合わせて感覚を変えていかないと、取り残されるんじゃないかな。自分もこれから年を重ねていって、どれだけオープンでいられるかっていうのは大事にしていきたいと思います。

23. これまでで最大の試練は?

沖澤 音楽関係ではないのですが、つわりですね! もう試練でしかなかったです。人によると思うし、私も1人目のときはそこまでつらくなかったのですが、2人目は本当に2か月半くらい何にもできない、起き上がれない状態が続いて。本当に何の気力もないし、発想もないから、楽譜を見ていても全然頭に入ってこないし、iPhoneを見る気力もない。音楽ができるっていうのは、健康な体があってこそだと思いました。

フリーランスの音楽家の妊娠出産については、詳しく話したいテーマですね。

——仕事を一度手放さなければならないと思うと、なかなか決心がつかないですよね。

沖澤 はい。ベルリンのハンスアイスラー大学では、女性のキャリアを考える講座が頻繁に開催されています。現実的なことも若いうちにもっと話されてほしいです。指揮者の場合、30歳前後からコンクールを受け始めて、延びつつありますが年齢制限が大体35歳くらいなので、妊娠、出産を考えるタイミングと重なってくる。自分のキャリアを取るのか、全部取るのか、何を優先するのか、そういうことがもっと話されるべきだと思います。

——沖澤さんの場合は、妊娠・出産から復帰される道を選ばれたのですよね。

沖澤 私は子どもを産んだことで指揮の仕事がなくなるんだったら、仕方ないかなと思っていました。そこまで指揮者というキャリアに執着があるわけではないので、家庭優先です。もちろん今引き受けている仕事への責任はあるし、そこは全力で取り組みますが、そのスケジュールを組むにあたっては、十分に家族との時間が取れて、十分に準備ができるように気をつけています。

バリバリ活躍したいと思っている人もいて、その場合はもっと悩むんだろうなと思います。パートナーにもよりますし。

——沖澤さんはそういうタイプではないのですか? ご活躍されているので意外です。

沖澤 いやいや、全然。本当はもうちょっと移動も減らして、劇場に入ることを考えていた時期もありました。音大生だとコンクールで優勝しなきゃ、活躍しなきゃみたいな、圧力のようなものを常に感じると思うんですけど、ベルリンに行ってからは別にそうでなくても、いろんな段階でいろんな仕事があるし、いろんな幸せがあると思いました。

とくにアシスタントとして超一流の指揮者の方たちを見ていると、 この人は幸せなんだろうかって思うこともあります。だから、第一線で活躍することが必ずしもその人の人生にとって素晴らしいことなのかはわからない。やっぱり人からどう見られるかを気にしないで、人と比べなくなると、いろんな選択肢が見えてくるのかなと思います。

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