バトル・プレイリスト! モーツァルト、シューマン、ベートーヴェンなど名作曲家が描くバトル
11月の特集テーマは「バトル」! まずは、音楽によって表現されたさまざまなバトルを聴いてみましょう。軍楽隊の音楽から着想を得た曲や、戦争での功績をたたえて作曲された作品、そして「音楽が先か? 詩が先か?」というオペラ論争を扱った歌劇……意外とたくさんあるんです。
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
バトル・プレイリスト
1. モーツァルト:ピアノ・ソナタ第11番より第3楽章「トルコ風ロンド」(トルコ行進曲)
2. ヨハン・シュトラウス1世:ラデツキー行進曲
3. シューマン:二人の擲弾兵
4. チャイコフスキー:序曲《1812年》
5. チャイコフスキー:バレエ音楽《くるみ割り人形》より「戦闘」
6. ベートーヴェン:ウェリントンの勝利、あるいはヴィットリアの戦い《戦争交響曲》
7. ワーグナー:楽劇《ワルキューレ》より「ワルキューレの騎行」
8. ショスタコーヴィチ:交響曲第7番《レニングラード》
9. R.シュトラウス:歌劇《カプリッチョ》より「月光の音楽」
10. ヴィラ=ロボス:交響曲第3番《戦争》
11. バーンスタイン:《キャンディード》より「戦闘の音楽」
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第11番より第3楽章「トルコ風ロンド」(トルコ行進曲)
まずは、おなじみの2つの行進曲を紹介します。モーツァルトのトルコ行進曲は、当時流行していた“トルコ趣味”を取り入れた作品。メフテルというオスマン帝国の軍楽隊の音楽に着想を得て作曲され、左手の伴奏は、軍楽隊の打楽器を模倣しています。メフテルはこんな感じです。
ヨハン・シュトラウス1世:ラデツキー行進曲
ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートではアンコールとして定番の《ラデツキー行進曲》。ヨーゼフ・ラデツキー将軍率いるオーストリア軍が、北イタリアの独立運動を鎮圧した記念祝典のために作曲しました。わずか2時間で完成したそう。
ボヘミアで生まれ、ウィーンで学んだ貴族出身の軍人。対トルコ戦争やナポレオン戦争など、多くの戦争で活躍し、オーストリア史上もっとも素晴らしい軍人の一人と言われている。
シューマン:二人の擲弾兵
ロマン派の詩人ハイネの詩によるシューマンの歌曲「二人の擲弾兵」。ナポレオン戦争後にロシアに囚われていた2人の擲弾兵(近世ヨーロッパの陸軍で組織されていた歩兵部隊)が、フランスに帰る途中でナポレオン1世の失脚を知った際に交わした会話を中心とした内容で、後半にはフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」が引用されています。
チャイコフスキー:序曲《1812年》
1812年、フランス軍はロシアに侵攻しました。これに勝利したロシア軍の功績をたたえて作曲された作品です。詳しくは連載「曲名のナゾ Vol.8チャイコフスキー《1812年》〜作曲者が生まれる前の1812年に何があった?」で解説しています。
チャイコフスキー:バレエ音楽《くるみ割り人形》より「戦闘」
同じチャイコフスキーから、今度はかわいらしいバトルを紹介します。少女クララがドロッセルマイヤーおじさんからクリスマス・プレゼントにもらったくるみ割り人形と夢の世界を旅する、年末バレエの定番。「戦闘」は、クララを襲うネズミの王が率いるネズミの大軍と、くるみ割り人形率いるおもちゃの兵隊の戦争を描いた1曲です。一騎討ちで、窮地に立たされたくるみ割り人形を助けたのは、クララがとっさにネズミの王に投げつけたスリッパ!
ベートーヴェン:ウェリントンの勝利、あるいはヴィットリアの戦い《戦争交響曲》
作曲された当時、大人気だった本作品。1813年6月にビトリアの戦いで、ウェリントン侯爵アーサー・ウェルズリー率いるイギリス軍がフランス軍に勝利したことをたたえて作曲されました。前半はビトリアの戦いを再現したもので、左右からそれぞれの行進ドラムと進軍ラッパに続いてイギリス軍を表す「ルール・ブリタニア」とフランス軍を表すフランス民謡「マールボロ将軍は戦争に行く」が現れ、激しくぶつかり合い、争いの様子がわかりやすく描かれています。
詳しくは「おやすみベートーヴェン 第280夜ウェリントンの勝利、あるいはヴィットリアの戦い《戦争交響曲》——当時の超人気作品! しかし作品をめぐってトラブル発生」で紹介しています。
アイルランド貴族の家系出身。陸軍軍人となり、ナポレオン戦争の半島戦争で指揮をとり、さらにワーテルローの戦いでナポレオンを再度失脚に追いやった。
ワーグナー:楽劇《ワルキューレ》より「ワルキューレの騎行」
ベトナム戦争を題材にした映画『地獄の黙示録』でも使用された作品。ワーグナーの楽劇では、戦死した兵士たちを選別し、生死を決める乙女ワルキューレ(ヴァルキリー)たちが、「ホヨトホ!」の掛け声とともに、勇ましく戦場にあらわれるシーン。
ショスタコーヴィチ:交響曲第7番《レニングラード》
第二次世界大戦中、ナチス・ドイツ軍に包囲されたレニングラードで完成しました。「レニングラード包囲」といわれるこの出来事の渦中で、故郷に残って作曲活動を続けることを選んだショスタコーヴィチ。すでに著名な作曲家であったため、ラジオで作曲経過を伝えて民衆を鼓舞するなどの活動が、注目を集めました。臨時首都クイビシェフでの世界初演を経て、1942年8月9日にレニングラードで初演されました。この日はまさにドイツ軍のレニングラード侵入予定日で、演奏会のために決行された軍事作戦によって、演奏開始の5分後には砲撃音が鳴り響き、会場内のシャンデリアが揺れたそう。
R.シュトラウス:歌劇《カプリッチョ》より「月光の音楽」
「音楽が先か? 詩が先か?」。18世紀から続くオペラ論争を、詩人と音楽家、2人の男性に求婚される伯爵令嬢マドレーヌに重ねて描いた、R.シュトラウス最後のオペラ(原作となったのはサリエリのオペラ《まずは音楽、それから言葉》)。論争の答え(そして、恋の行方)は明確にされないままオペラは終わりますが、「月光の音楽」は最終場面の直前、一時休戦を思わせる美しい間奏曲。
ヴィラ=ロボス:交響曲第3番《戦争》
1919年にヴェルサイユ条約を祝う交響曲として委嘱作曲されました。作曲者本人によって交響曲全体に《戦争》という副題がつけられ、各楽章にはさらに、第1楽章「人生と労働」、第2楽章「陰謀と噂」、第3楽章「受難」、第4楽章「戦い」と付されています。交響曲第4番《勝利》、交響曲第5番《平和》とあわせて3部作となっています。
バーンスタイン:《キャンディード》より「戦闘の音楽」
18世紀の啓蒙思想家ヴォルテールが偽名で発表した小説『カンディード、または楽天主義』をもとに、バーンスタインが作曲したミュージカル。純真・純朴な主人公キャンディードが、故郷を追い出され、数々の不幸な体験を経て、真実にたどりつく物語ですが、その不幸のひとつが「戦争」。バーンスタインが序曲にも使った「戦闘の音楽」は、少しコミカルさも感じさせますが、原作のこのシーンは「両軍に殺された市民の死体の山……血塗れでお乳をあげたまま息たえた母子」など、かなり悲惨なもの。
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