「だから、つい聴いてみたくなる。」vol.4

外国の地名が、聴覚と味覚をむすびつける ~食欲の秋 酒・デザート編~

プレイリスト
2018.10.18

食欲の秋。美味しい食卓に、極上の音楽があればこれほど幸せなことはありません。

前回、さまざまな料理をご紹介した白沢さんの「美味しいプレイリスト」、今回はお酒とデザートに焦点を当てて、皆さまの食欲と聴欲? に火を点けます。

どうぞ食べすぎには気をつけて.......。

白沢達生 翻訳家・音楽ライター
白沢達生
白沢達生 翻訳家・音楽ライター
英文学専攻をへて青山学院大学大学院で西洋美術史を専攻(研究領域は「19世紀フランスにおける17世紀オランダ絵画の評価変遷」)。音楽雑誌編集をへて輸入販売に携わり、仏・...

地名から食べ物、そして音楽へ

地名をハブにして、クラシック音楽に食指が動く体験を。以前そんな記事を書いたところ「ワインやデザートでも同じことができるのでは」と、編集部からヒントをいただきました。お酒を飲むにも、温かい飲み物と一緒にデザートを愉しむにもよい「食欲の秋」。こんな音楽を重ねてみては……と、提案を続けてみたいと思います。

ボルドーワイン×ピエール・ロード

たとえば、ワイン。
フランスワインの聖地ボルドーからして、歴史ある文化都市だけに数々の芸術家を輩出しています。今年初めに東京で回顧展もあったオディロン・ルドン(1840-1916)がとくに有名ですが、作曲家も何人か思いうかびます。

たとえば、ヴァイオリン教本で有名なピエール・ロード(ローデ)はボルドー出身ですし、ドビュッシー以後の近代フランス音楽を盛り上げた、ロジェ=デュカスやトゥルヌミルといった作曲家たちも……そういえば彼らは、画家ルドンと同じ時代を生きた人でもありました。
ちょっといいボルドーのワインを開けたときなど、彼らの音楽で場を彩ってみてもいいかもしれません。

オディロン・ルドンが暮らした土地は現在ロスチャイルド家が所有し、「シャトー・ぺイル=ルバード」を生産している。
19世紀のヴァイオリン技術の発展に寄与したピエール・ロードが没したブルボン城があるロット=エ=ガロンヌ県も、ワインの生産地コート・ド・デュラスを有している。

ロード《無伴奏ヴァイオリンのための奇想曲第12・16番》/アクセル・シュトラウス

ロジェ=デュカス《信徒たちの十字架》/ウィンチェスター大聖堂合唱団

カオールワイン×ゴーベール

フランス近代作品とワイン……といえば、フルートの名匠フィリップ・ゴベールが“黒ワイン”の産地カオール出身であったことも思い起こされます。

ゴベール《三つの水彩画》より〈秋の夕暮れ〉/トリオ・ヴィーク

カオール地方のワインは法律でマルベックという種類のブドウを70%以上使用することが義務付けられている。造られるワインはタンニン豊富なフルボディ。
フィリップ・ゴーベールはフランス・ロット県カオール出身のフルート奏者、指揮者、作曲家。パリ音楽院のフルート教授としても名高い。

グルジアワイン×ブニアティシヴィリ×ピロスマニ

つい珍しくて手を伸ばしてしまうジョージア(グルジア)のワインに出会えたなら、かの国の首都トリビシにいたハチャトゥリアンやツィンツァーゼらの音楽を聴いてみてもよいでしょうし、昨今活躍めざましい同国のピアニストたちのCDをかけてみても。たとえば先日も来日したアレクサンドル・トラーゼや、あるいはエリーザベト・レオンスカヤ、もしくはジョージア出身の画家カティア・ブニアティシヴィリ……。2018年が没後100年にあたる画家ピロスマニ(1862-1918)の絵など眺めながら。

ストラヴィンスキー《ペトルーシュカ》より〈謝肉祭の日〉/カティア・ブニアティシヴィリ

ニコ・ピロスマニ作「オルガン奏者のいる祝宴」(1906)

ベルギービール×ジョンゲン×クレキヨン

ビールはどうでしょう? オクトーバーフェストで盛り上がるドイツのビール界隈も気になりますが、ゆっくり時間をかけて飲むベルギーの修道院ビールもおいしい季節。ベルギー出身のヴァイオリニストであるイザイや、ヴュータンも気になりますが、ここはリエージュ出身の名匠ジョゼフ・ジョンゲンの室内歌曲などいかがでしょう。ラフマニノフやドイツの作曲家でオルガンの名手、マックス・レーガーと同い年の作曲家です。

ジョンゲン〈天上には〉/クレール・ルフィリアトル&アンサンブル・オクサリス

ちなみに、ベルギーの歴史を数世紀遡れば、そこはスペインやブルゴーニュの殿様に仕えた「ネーデルラント諸州」……ネーデルラント楽派の古い音楽もベルギービールに合いそうです。

クレキヨン〈いかなる恋も長くは続かぬ〉(バッサーノによる変奏版)/ブルース・ディッキ―他

左:中世以降、ベルギーでは修道院を中心にビール造りが盛んに行なわれてきた。現在も100以上の醸造所でビールを生産している。
上:ルネサンス期ネーデルラント楽派の画家ヒエロニムス・ボス「卵の中のコンサート」には、トーマス・クレキヨンの楽譜が描かれている。

スイーツと音楽の甘い関係

シュトレン×ピセンデル

お茶の時間にも、音楽と食の蜜月は続きます。

ザッハートルテとウィンナワルツ、ブルターニュのガレットとロパルツの室内楽、クロテッド・クリームをたっぷり塗ったスコーンとエドワード・エルガー……。

ドイツ菓子シュトレンも、意外にクラシック音楽と相性がよさそうです。意外に古い歴史をもつこのお菓子、ドレスデンでは15世紀に遡る伝統的なレシピがあるのだとか。バッハも憧れたザクセン宮廷楽団の主たるアウグスト強王の時代には、巨大なシュトレンを作った祝典行事の記録も残っているそうです。当時の楽団首席奏者だったピゼンデルの音楽など、ぴったりではないでしょうか。

ピゼンデル《ヴァイオリン協奏曲 ト長調》より 第1楽章/ヨハンネス・プラムゾーラー

ティラミス×カステッロ×ブゾーニ

イタリアのドルチェはどうでしょう? たとえば、ティラミス――起源は諸説あるそうですが、とくにヴェネツィア界隈のものだと言われることは多いようです。このお菓子もルネサンス期には既に存在していたそうで、少し下ってバロック初期のヴェネツィア楽派の音楽など聴きながら改めて向き合ってみれば、食べ慣れていたはずのティラミスにも妙な深みが感じられてくるかも。

カステッロ《最新様式によるソナタ集 第2巻》より〈第3ソナタ〉/ムジカ・フィオリータ

もっとも、一説によれば同国北東部の、イタリアでありながらドイツ語が話されている地域にティラミスの起源があるとも……ロマン派の気配が欲しければ、むしろあのあたりで生まれたピアノの大家ブゾーニの音楽がしっくりくるかもしれません。

ブゾーニ《クラリネットとピアノのための組曲》より〈変奏曲〉/ダヴィデ・バンディエーリ&アレッサンドラ・ジェンティーレ

左:今も昔も人気のデザート「ティラミス」はイタリア語の Tirami Su(私を引っ張り上げて、転じて私を元気づけて)を語源に持つ。

上:ニューヨークチーズケーキの定義は、底にクラッカーを敷いて、チーズフィリングを湯煎焼きにしたもの。元々はニューヨークに移民してきたユダヤ人たちのデザートだった。

ニューヨークチーズケーキ×ライヒ

濃密なニューヨークチーズケーキだって、あの町の喧騒に想いを馳せながら音楽を聴いていたら、じっくり味わう楽しみを噛みしめたくなるかも……。

ライヒ《ピアノ・フェーズ》/スティーヴ・ライヒ

いかがでしたでしょうか?

土地の名前を軸にして探してゆくと、それまで聴くことのなかったタイプの音楽にも遭遇しやすいように思います。「食」にも文化あり、そして音楽にも……耳にも舌にもおいしい出逢いが、みなさんにもありますように。

まとめて聴くにはこちらから

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