「パゴダの女王レドロネット」〜そもそもレドロネットって誰? 原作「緑の蛇」を紹介!
毎回一作のおとぎ話/童話を取り上げて、それに書かれた音楽作品を紹介する連載。第10回も前回に続き、名曲の題材となったあまり知られていないお話。ラヴェル《マ・メール・ロワ》〜「パゴダの女王レドロネット」の原作、「緑の蛇」は邦訳も入手困難で、ほとんど知られていません。一体どんな話? レドロネットって誰? 飯尾洋一さんが解説します。
音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...
ラヴェルが音楽で描いたおとぎ話の中で知名度最下位?
おとぎ話の世界を扱った名曲として、まっさきに挙げられるのがラヴェルの《マ・メール・ロワ》。当連載の第2話でも《マ・メール・ロワ》に登場する「親指小僧」をあつかっている。
この組曲にはほかに「眠れる森の美女のパヴァーヌ」「パゴダの女王レドロネット」「美女と野獣の対話」「妖精の園」といったおとぎ話に由来する曲が含まれている。
おそらく、この組曲のなかで大方の日本人にとって未知の存在が「パゴダの女王レドロネット」ではないだろうか。
レドロネットって、だれ? 曲目解説などを読んでも、この曲については情報が錯綜気味で、どういう物語かよくわからない。
これは無理もない話で、元ネタとなった物語、ドーノワ夫人の「緑の蛇」の日本語訳書が入手困難なのだ。そこで、今回は「緑の蛇」がどんな物語なのかをご紹介したい。
音楽になったのは一場面! ”醜い”王女の冒険物語
物語はある国の王妃が双子の姫を産むところから始まる。王妃は12人の妖精たちを宴に招き、双子に才能や幸福を授けてもらおうとした。ところがそこに邪悪な妖精カラボスの妹マゴティーヌがやってくる。マゴティーヌは自分が招かれなかったことに腹を立て、双子の姫を醜い姿に変えようとする。ひとりに触れ、もうひとりに触れようとしたところで他の妖精たちに遮られた(このあたりの展開は「眠りの森の美女」に似ている)。
こうして、双子の姫は片方が呪われたレドロネット(醜い女)、もう片方がベロット(美しい女)と名付けられた。
レドロネットはやがて成長すると、自分の醜さに悲しむ両親の姿に耐えかね、だれにも会わず孤独に暮らすようになった。ある日、レドロネットは森で恐ろしい緑の大蛇に出会う(大蛇といっても翼をもっており、ドラゴンに近い)。実はこの大蛇は呪いで姿を変えられた王子なのだが、それを知らないレドロネットは怖がって逃げてしまう。そして、海に流され、見知らぬ王国にたどり着く。
美しい王国でレドロネットはもてなしを受ける。そこで登場するのがおびただしい数のパゴダたち。ここでいうパゴダとは東南アジアにあるような仏塔のことではなく、陶磁器の中国風人形のこと。パゴダたちは音楽を奏でて歓待する。ラヴェルが「パゴダの女王レドロネット」で描いたのはこの場面だ。東洋風の少しコミカルな音楽は、エキゾチックなパゴダ人形のデザインに即している。
緑の蛇の正体は......
ラヴェルはおとぎ話の一場面を切り取っているが、ストーリーはまだまだ続く。
レドロネットは王国で快適な暮らしを続け、やがて、この国の王から求婚される。ただし、王は決して姿を見せない。王はマゴティーヌより7年の呪いをかけられて姿が変わっており、あと2年待てばもとの姿に戻れるのだという。レドロネットは求婚を受け入れ、待つことを選ぶ。
だが、レドロネットは家族に婚約を伝えた際、相手の顔も知らずに結婚してはいけないと説得されてしまう。そして、夜中についに灯りをともして、夫となる人物の姿を見た。そこにいたのは緑の大蛇だった。
大蛇はふたたび呪いにかけられ冥府に送られた。王国はマゴティーヌに攻め入られ、レドロネットは捕まって、使用人にされて無理難題を命じられる。このままバッドエンドで終わっても物語として成立するところだが、話はハッピーエンドに向かう。善良な妖精プロテクトリスがあらわれ、窮地のレドロネットを救い出すのだ。不思議な泉の水の力でレドロネットは本来の美しさを取り戻し、冥府から緑の蛇を救う。緑の大蛇も愛の力で立派な王子の姿に戻る。最後は美しい姿のふたりが結ばれて王国へと帰る。めでたし、めでたし……。
なお、「緑の蛇」の日本語訳は「仏蘭西家庭童話集 第2巻」(ドルノア夫人著 長松英一訳 改造社 昭和5年)に収録されている。この本は入手困難だが、国会図書館デジタルコレクションで公開されており、インターネット経由で比較的容易に閲覧できるようになった。ありがたい時代になったものである。
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