アニメ『ピアノの森』第2シリーズを数倍楽しむための名シーンプレイリスト

プレイリスト
2019.03.24

放送中のアニメ『ピアノの森』(NHK 毎月0:10~)をより一層楽しむために、原作・第1シリーズを見まくった熱狂的ファンの小倉さんが、印象的な音楽を紹介します。

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©一色まこと・講談社/ピアノの森アニメパートナーズ
『ピアノの森』熱烈ファン
小倉多美子 音楽学/編集・評論
小倉多美子
『ピアノの森』熱烈ファン
小倉多美子 音楽学/編集・評論
武蔵野音楽大学音楽学学科卒業、同大大学院修了。現在、武蔵野音楽大学非常勤講師。『音楽芸術』、『ムジカノーヴァ』、NHK交響楽団『フィルハーモニー』の編集に携わる。『最...

 

「ピアノの森 Piano Best Collection Ⅰ」は、アニメに出てくる名曲をちりばめただけのアルバムではない。モーツァルトがどれほど多彩な響きで再創造されるか、そして聴き慣れてきた作品が本当はどのような輝きを秘めているのか、目の前に映し出してくれるアルバムなのである。しかも、次代の楽壇を担う逸材たちの手で(しかし、一之瀬 海の演奏担当が明かされていないので、もしかしたら、思わぬ巨匠クラスが弾いているかもしれないが)。

「ピアノの森」でどのような演奏が聴けるのか、一緒に聴いてみましょう。

主人公・一ノ瀬 海
海の師である元天才ピアニスト・阿字野壮介
ピアニストの父を持つ雨宮修平。海の友人でありライバル。
阿字野を目標にしていた中国人ピアニストのパン・ウェイ

カイが初めて出会ったクラシック

モーツァルト:ピアノ・ソナタ第2番 ヘ長調 K.280 第1楽章

カイ(一之瀬海)が修平(雨宮修平)に初めて弾いてもらった曲、そして初めて出会ったクラシックが、モーツァルトのK.280だった。

カイは、阿字野壮介の模倣から抜け出せず、“自分の”モーツァルトを見つけずにいた。本番でもモーツァルトのオバケたちにさいなまれ、途中で演奏を止めてしまう。靴を脱ぎ捨て、再び弾き始めたカイは、客席を樹木に変え、会場をピアノの森に変え、国際的ピアニストである修平の父・雨宮洋平をして「手に負えるモノではない」と想わせた衝撃的な演奏をしたのだった。

漫画・アニメの中では自由奔放に描かれているカイのモーツァルトだが、CDアルバム「ピアノの森 Piano Best Collection Ⅰ」の中の“一之瀬 海”によるK.280第1楽章は、表情豊かなデュナーミクによる表現、曲想が変わるたびに変幻する音色の多彩さ、フレーズの区切りでの自然な息づきが、フォルテピアノを想わせる軽やかなタッチの響きの中で次々に繰り出されていく。モーツァルトの遺産が稀有なほど魅力的に音に立ちあがっていく演奏を聴くことできる。一之瀬 海の演奏は誰が担っているのか明らかにされていないだけに、その魅力の引力は強く、魔的ですらある。

阿字野とのレッスンで探り当てたショパン

ショパン:ワルツ 変ニ長調 Op.64-1《小犬のワルツ》

「ピアノの森 Piano Best Collection Ⅰ」には、阿字野壮介の演奏を担当する反田恭平による《小犬のワルツ》が収録されている。モスクワ音楽院から、現在ポーランドのショパン音楽大学に学び、さらにダイナミック・レンジを広げ、深みを増した反田の表現の結実を、ここに聴くことができる。

「Kai meets CHOPIN」――カイは何度も阿字野にショパンを弾いてくれるように頼むが、カイの能力を知っている阿字野が「この曲の音符は1500個程度、森で弾いていた曲(阿字野が編曲した《茶色の小瓶》)の音符の数は1万個以上。アレが弾ければコレは弾ける」とカイに弾くよう促す。カイは森に帰ってショパンを弾こうとするのだが、なかなかショパンが弾けない。

カイは阿字野へレッスンを頼んだ。森にいるイメージの中でさぐりあてた音で弾いた瞬間、阿字野はようやく「合格」を出した。「もう弾けるはずだ。《子犬》を弾いてみろ」。

全日本学生ピアノコンクール本選の課題曲は《小犬のワルツ》。カイは本当に弾きたかった音で挑んだ。

第一線で活躍する若手たちの演奏に注目!

ショパン:エチュード ハ長調 Op.10-1、スケルツォ第3番 嬰ハ短調 Op.39

成長したカイや修平は、世界最高峰のピアノコンクール、ショパン国際ピアノコンクールに参加する。現実世界でも、いよいよ来年2020年第18回の開催も迫り、各国俊英たちの動向も話題となっている今日この頃である。

登場人物を担う演奏家に世界第一線の若手が名を連ねたこのアニメでも、最大の見せ場にもなっており、演奏を担った若手ピアニストたちの行方も、リアルに気になるところである。

パン・ウェイが登場するゆえに、次代を担う逸材・牛牛の卓越した《革命》を聴けることになった。アルバム自体が、まさに今第一線で活躍する話題の若手が一堂に会する様相を呈している。

 

登場人物それぞれの思いや人生が重ねられた演奏

ショパン:バラード第1番 ト短調 Op.23、バラード第4番 へ短調 Op.52、プレリュード 変ニ長調 Op.28-15《雨だれ》

予備予選を突破し、本選へと進んだ修平とカイ。予選で繰り広げられた彼らの演奏には、対照的、と言うには強烈な、それまでの人生が重ねられて映し出される。

第1次予選「カイくん聴こえる? 僕の心の歌、君に勝たなければ未来はないと思いこんでしまった僕の苦悩なんだ」と、生涯最大の好敵手カイを自ら開花させてしまった修平の思いの丈の詰まった「バラード第1番」。CDに収められた髙木竜馬も(どこまで反映されているかは諸説あるとしても)、ショパンがインスピレーションを得たとされるポーランドの詩人アダム・ミツキエヴィチの描いた悲劇の英雄の物語も、そして修平の苦悩も刻んだ、深い音に彩られ劇的な表現豊かな演奏を繰り広げている。

カイの弾く《雨だれ》が響く背景には、森の中でのカイの境遇が映し出されるが、「中間部の不気味な部分」を「怜ちゃん(母親)に届くように」と力強い想いが託された響きに、新鮮さすら感じる聴衆。「ピアノの森 Piano Best Collection I」で、美しく、そして力強い《雨だれ》を是非堪能していただきたい。

感銘と疑問が交差するカイ独特のショパン

ショパン:プレリュード ニ短調 Op.28-24

そしてアニメ前編最終第12話「fff フォルティッシッシモ」を飾ったカイによる《プレリュード》ニ短調 Op.28-24。「この曲の根底にある生と死」や背負ってきた逆境のすべてを掛け、怒涛のように最後のDの音へと弾き込まれていく。原作では画面を切り裂くようなDだが、アニメでは、周辺のCとEを押さえ、作品全体のバランスを考えての強打となっている。

その前の「バラード」や《雨だれ》から、「我々のショパンとはちがう。しかし……」と感銘と疑問が交差する審査員たち。果たしてカイの評価は。後編への期待を乗せて、プレリュードは終演された。「ピアノの森 Piano Best Collection I」アルバム最後を飾るこの作品の演奏は、深淵な響きで聴くほどに弾き込まれる好演で、この作品ならこの演奏から聴き始めてほしい。もし初めてクラシックを聴きたいという方がいたら、この演奏を勧めてみてはと思わずにいられない。

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