ドビュッシーやフォーレらが描いた夢の世界〜 夢を題材にしたフランス音楽10選
皆さんは夢をよく見るほうですか? 見たけど覚えてないなんてこともよくありますよね。クラシック音楽にも、夢に関係の深い作品はたくさんあります。今回は、フランスの作曲家による夢にまつわる作品の中から10曲をお届けします。
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
夢を題材にした作品……思い浮かんだほとんどが、フランス人作曲家によるものでした。フランス人は夢見がち? ちなみにフランス語で夢を表す言葉は、主に「rêve」「réverie」「songe」。夢見るはrêveの動詞、rêverです。クラウン仏和辞典によると、
rêve:夢、夢想、あこがれ、理想
réverie:夢想、妄想
songe:夢、夢想、空想(rèveよりも文語的)
という違いがあるそう。さて、それぞれの作曲家の夢は、どんな感じでしょうか。
夢というより夢想しがち? なプレイリスト
1. ベルリオーズ:《幻想交響曲》
2. ベルリオーズ:《夢とカプリス》
3. サン=サーンス:《アルジェリア組曲》より第3曲「夕べの夢想」
4. フォーレ:夢のあとに
5. ドビュッシー:夢
6. ドビュッシー:《ビリティスの3つの歌》より第2曲「髪」
7. サティ:夢見る魚
8. シュミット:《小さな眠りの精》
9. シュミット:交響詩《夢》
10. デュティユー:ヴァイオリン協奏曲《夢の樹》
まずは、ベルリオーズ(1803〜1869)の2作品。《幻想交響曲》の第1楽章のタイトルは、「夢–情熱」と付けられていますが、こちらはrêverieなので、夢想ですね。現在広く知られている版では、「ある芸術家が叶わぬ恋を理由に自殺するが未遂に終わり、さまざまな幻想を見る」という設定で、作品全体が現実世界ではないわけです。ヴァイオリンと管弦楽のための小品《夢とカプリス》もrêverieです。想像力豊かなベルリオーズ。たしかによく夢想していそうです。
サン=サーンス(1835〜1921)の《アルジェリア組曲》より第3曲「夕べの夢想」もrêverieです。そもそも、夢想とは、広辞苑によると、「①夢に見ること。②夢の中に神仏の示現のあること。③あてもないことを心に思うこと。空想」だそうです。
旅行好きなサン=サーンスは、特に北アフリカを好んだそうで、この作品はアルジェリア旅行の印象をもとに作曲されました。第3曲は首都アルジェの南西にある街ブリダを描いており、楽譜には「ヤシの木のオアシスで、かぐわしい夜に、遠くから愛の歌と、愛撫するようなフルートの旋律が聴こえてくる」と書かれています。
ようやく、フォーレ(1845〜1924)の「夢のあとに」でrêveが登場。歌曲集《3つのメロディ》の1曲目で、イタリア語で書かれた詩をロマン・ビュシーヌがフランス語にしたものに作曲されています。「あなたのイメージに魅了された眠りの中で 私は幸福、熱を帯びた幻影を見ました」から始まり、夢の中の「あなた」への甘美な思いが歌われ、夢が覚めてしまったことへの悲しみで締めくくられます。
ドビュッシー(1862〜1918)からは、ピアノ独奏曲の「夢」と歌曲《ビリティスの3つの歌》第2曲「髪」を紹介します。前者のフランス語タイトルは、ずばりRêverie。何を夢想していたのでしょうか。《ビリティスの3つの歌》は、ドビュッシーの親友でもあった詩人ピエール・ルイスの詩によります。「古代ギリシャの女流詩人ビリティスによる詩のフランス語訳」として発表し、多くの人が信じましたが、実はルイスの自作だったのです。「髪」の詩では、「彼」が昨夜見た夢を「私」が語ります。「君の髪が僕の首に巻きついていた。君の黒いチェーンのような髪を、首から胸のあたりまでまとっていたんだ。僕がその髪を優しく撫でたら、僕のものになってしまった。それで僕たちは、永遠にひとつに結びついたんだ」……ちょっとこわいですね。
さて気分を変えて、サティ(1866〜1925)の楽しそうな名前のピアノ独奏曲です。「夢みる魚」はフランス語で「Le Possion rêveur」。夢見るという動詞のrêverからきている形容詞が使われています。スペイン出身でパリに住んでいた詩人のパトリス・コンタミーヌ・ドュ・ラトュールが書いた物語をもとに作曲したとされています。この物語は消失しており、現在は読むことができません。どんなお話だったのか気になります。
フランス東部のロレーヌ地方出身のシュミット(1870〜1958)は、アンデルセン童話に基づいた管弦楽組曲《小さな眠りの精》を作曲しました(ピアノ4手版から編曲)。眠りの精が子どもたちの目の中にシュッと甘いミルクを吹きかけると、子どもたちはたちまち眠くなり、いい子には夢を見せてあげて、悪い子はただ眠るだけ。眠りの精がヤルマールという男の子に見せた1週間の夢を紹介しています。
最後は、デュティユー(1916〜2013)のヴァイオリン協奏曲《夢の樹》。現ウクライナで生まれ、アメリカで活躍した名匠アイザック・スターンのために作曲されました。デュティユーは序文でタイトルについて、「作品が樹のように展開し、樹の枝がどんどん増えて新しくなるのが樹の生命の本質だから、その象徴的なイメージをもって、季節のサイクルも念頭に、こう名付けた」と記しています。夢についてはノーコメント。原題ではsongeが使われていますが、どのような夢を思い描いていたのでしょうか。
夢にまつわる作品たち、いかがでしたでしょうか。みなさまも連休中、楽しい夢を見てぐっすり眠れますように!
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