チャイコフスキー、ラフマニノフ、etc... ロシアのメロディメイカーたちに注目!

シナトラの歌うロシア名旋律集(プレイリスト付き)

プレイリスト
2018.06.18

フランク・シナトラが歌う数々の名曲の中には、ロシアの作曲家によるクラシック音楽の旋律がたくさん隠れています。チャイコフスキー、ラフマニノフ、ボロディン...... ロシアのクラシックにしばしば登場する甘美な旋律は、フランク・シナトラと相性抜群。原曲と併せてお楽しみ下さい。

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写真: © William P. Gottlieb/Ira and Leonore S. Gershwin Fund Collection, Music Division, Library of Congress.
ナビゲーター
小室敬幸 作曲/音楽学
小室敬幸
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小室敬幸 作曲/音楽学
東京音楽大学の作曲専攻を卒業後、同大学院の音楽学研究領域を修了(研究テーマは、マイルス・デイヴィス)。これまでに作曲を池辺晋一郎氏などに師事している。現在は、和洋女子...

シナトラの初レコーディングは、チャイコフスキーだった!?

アメリカのショービジネス界で歴代最高の成功を収めた歌手のひとり、フランク・シナトラ(1915-1998)。その甘い声とマスクで若い頃はアイドル的な人気を得て全米どころか世界中を熱狂させ、後には俳優としても成功。1953年には、映画『地上より永遠に』でアカデミー賞助演男優賞を獲得しています。

そんなシナトラの初レコーディングが、チャイコフスキーであったことをご存知でしょうか? ――正確にいえば、1939年3月18日、シナトラが人生で初めてレコーディングした楽曲《Our Love》は、チャイコフスキーの幻想序曲《ロメオとジュリエット》に登場する旋律をアレンジした曲だったのです。実際にお聴きいただきましょう。

Track 1.  Spotifyのクレジットはハリー・ジェームス楽団となっているが、実際の演奏はフランク・マン楽団
Track 2.  8:01頃から登場する第2主題が、《Our Love》に転用されている

ロシアのメロディメイカーといえば、ラフマニノフ

当時からクラシック音楽を元ネタにして作曲されたポピュラーソングは珍しくなく、掘り起こせばこうした楽曲は数えきれないほど存在しています。
とりわけクラシックの編曲ものを数多くレパートリーにしていたのが、ジャズトロンボーン奏者、トミー・ドーシーが率いるトミー・ドーシー楽団で、《Our Love》を作曲したボブ・エメリッヒもこの楽団のピアニストを務めていた人物でした。若き日のシナトラもトミー・ドーシーのもとで研鑽を積み、多くの楽曲をレコーディングしています。

そんな楽曲のひとつが1942年に録音された《I Think of You》(作詞:J.エリオット/作曲:D.マーコット)なのですが、この甘い旋律どこかで聴いたことありませんか? ……そう、もうお気づきの方もいらっしゃるでしょう。ラフマニノフの作曲した《ピアノ協奏曲第2番》の第1楽章に登場する旋律が、元ネタになっているのです。1957年に再レコーディングしたバージョン(編曲:G.ジェンキンス)ではストリングスが活躍し、原曲の旋律がオリジナル通りのホルンで登場するため、よりはっきりとラフマニノフらしいサウンドに仕上がっています。

2:35 (Track 1) 頃から登場する第1楽章の第2主題が転用されている

実はラフマニノフの《ピアノ協奏曲第2番》を元ネタにした楽曲は、これだけではありません。
1945年に録音された《Full Moon and Empty Arms》(作詞:T.モスマン/作曲:B.ケイ)では、第3楽章を元ネタにしています。そして後に、この楽曲は数々の名歌手にカバーされていくのですが、変わったところでは、なんとボブ・ディランも2015年に発表したアルバムで取り上げています。

Track 2.  1:44頃から登場する第3楽章の第2主題が転用されている

ここまで聴いてわかるように、ロシア音楽のロマンティックなメロディと、シナトラの甘くてセクシーな声は相性抜群! ロシア音楽のもつポテンシャルを原曲とは違った角度で感じさせてくれるのです。他にもさまざまなロシアの名旋律を歌っている楽曲がありますので、ドンドン聴いていきましょう。

© NBC Television TVドラマ『Our Town』(1955)でステージマネージャー役を務めるシナトラ
© NBC Television TVドラマ『Our Town』(1955)でステージマネージャー役を務めるシナトラ

シナトラとチャイコフスキー、再び

デビュー曲の元ネタがチャイコフスキーであったことはすでに触れましたが、シナトラは他にもチャイコフスキーの旋律に基づく楽曲をレパートリーにしていました。今度は1939年に録音された《Moon Love》(作詞:M.デイヴィッド/作曲:A.コステラネッツ)を聴きましょう。多少ノリの良いリズムにアレンジされてこそいますが、前奏に続いて登場する旋律を聴いてピンときた方も多いはず。元ネタは、チャイコフスキーの交響曲第5番 第2楽章です。1965年の再レコーディング(編曲:N.リドル)では、ストリングスが前面に押し出されることで、これまたチャイコフスキーにより近いサウンドに仕上げられています。

続いては1944年に録音された《Lover Come Back to Me》(作詞:O.ハマースタイン2世/作曲:S.ロンバーグ)を聴いてみましょう。MC付きのライヴ録音となっておりますが、1:50頃から登場する物悲しい旋律に注目してみてください。この旋律はチャイコフスキーのピアノ曲集《四季》の1曲、《6月 舟歌》からとられたものです。

この曲は、ミュージカルの前身となったアメリカン・オペレッタの作曲家、ロンバーグによるもので、オペレッタ《ニュームーン》(1928)内の1曲。ロンバーグはこれ以前にもオペレッタ《花咲く頃》(1921)でシューベルトの音楽を用いて作曲しており、既存のクラシック音楽を取り入れるミュージカルの先駆となっています。

ボロディンの楽曲を元ネタに作曲されたミュージカル

クラシック音楽を取り入れたミュージカルのなかで、特筆すべきはライト&フォレストの作曲による《キスメット》(1953)でしょう。
ミュージカル全編がアレクサンドル・ボロディンの楽曲を元ネタにして作曲された珍しいミュージカルです。この中の《Baubles, Bangles and Beads》はボロディンの《弦楽四重奏曲第2番》第2楽章スケルツォから旋律が拝借されているのですが、それをさらに4拍子のノリの良いスウィングにアレンジした上でシナトラも1958年にカバーしています。
その後1967年には、ボサノヴァの生みの親アントニオ・カルロス・ジョビンとの共演した有名なアルバムでも、ボサノヴァとして歌われています。

Track 2. 0:23頃からの旋律が転用されている

チャイコフスキーの師匠、アントン・ルビンシテインの原曲

最後は1944年に録音された《If You Are But a Dream》を聴いてみましょう。こちらの元ネタがわかる方は、おそらくほとんどいないはず。転用されているのはチャイコフスキーの師匠であるアントン・ルビンシテインの作曲した《ペテルブルクの夜会,Op. 44》の第1曲《ロマンス》です。原曲の知名度こそ高くありませんが、シナトラらしい甘さと力強さの両面を堪能できる1曲といえるでしょう。

そして1957年に再レコーディングされたバージョンでは、《Moon Love》のときと同じように、N.リドルによってシナトラの声がさらに際立つアレンジが施されています。それにしても、何故ここまでシナトラはアレンジを変えて何度もレコーディングしているのでしょう?

実はシナトラは、アレンジャーを尊重する歌手として知られており、ある時期以降のライヴでは作詞家・作曲家と並んで、必ずアレンジャーの名前も紹介していたというのは、ファンには有名なエピソード。自分がどれだけ格好良く、引き立ててもらえるかはアレンジャーの手腕にかかっていることをわかっているが故に、相場を超える高給を払ってヘッドハンティングしていたといいます。

ですから、少しでも自分を際立たせてくれるアレンジを求めて、新しいアレンジがなされていったのでしょう。シナトラの絶唱の裏には、必ず名アレンジャーのサポートがあり、そうしたアレンジャーの手腕によって、甘く美しいロシアの旋律が見事なポップソングへと昇華されているのです。

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