《春の祭典》っぽい曲が聴きたいプレイリスト
ストラヴィンスキーの《春の祭典》を聴いて、クラシックへ興味を持った方を沼へ引き込むためのプレイリスト。バレエ音楽である《春の祭典》からさらに一歩踏み込んで、プロコフィエフ、バルトーク、ハチャトゥリアンの作品をご紹介。クラシックのイメージが覆ること必至の、独創的で荒々しい音楽をお楽しみください。
ショスタコーヴィチをはじめとするロシア・ソ連音楽、マーラーなどの後期ロマン派音楽を中心に、『レコード芸術』『CDジャーナル』『音楽現代』誌、京都市交響楽団などの演奏会...
《春の祭典》経由でクラシック沼のほとりに来た人へ
クラシックはあまり聴かないけど《春の祭典》はいいよね、という人が結構いる。リズムもサウンドもインパクトがあって、普通のクラシックより全然わかりやすいんだそうだ。ありがたいことだが、問題はその次だ。そういう人が「クラシックもなかなか面白いね。他にもおすすめある?」と言ってきたら、どう答えようか?
ストラヴィンスキーの他の作品も悪くないが、あの人は作風をコロコロ変えた人で、 《春の祭典》の前も後も全然スタイルが違うので、期待しているような曲は見つからないかもしれない。かといって、他のクラシックの作曲家、たとえばベートーヴェンなりマーラーなりショスタコーヴィチを薦めても、《春の祭典》で興味を持った人にウケる可能性は、ないとも言えないが、少なそうだ。
せっかく興味を持ってくれたのにがっかりさせてしまうのは申し訳ない、というか、せっかく沼のほとりまで来てくれた人間を引きずり込めないのは河童の恥、というわけで今回は、意外と情報のない、「《春の祭典》が気に入った人が次に聴いて気に入りそうな、どこか《春の祭典》っぽい曲」を集めてみた。
1. プロコフィエフ:スキタイ組曲《アラとロリー》
1913年に《春の祭典》をプロデュースした興行師セルゲイ・ディアギレフ(1872-1929)は、その3年後、ロシアの若き天才セルゲイ・プロコフィエフ(1891-1953)に、新たなバレエ音楽を依頼した。これが《アラとロリー》だ。中央アジアの遊牧騎馬民族スキタイ人の世界が舞台で、太陽神ヴェレスに対する生け贄の儀式や、ヴェレスの娘アラを襲う邪神チュジボーグと英雄ロリーの戦いなどが出てくる。
ただ、いろいろあってこれはバレエとしての上演は実現せず、作曲者は、これをコンサート用の管弦楽曲にした。題材は《春の祭典》の二番煎じっぽくても(ごめんなさい)、音楽の独創性と荒々しさは《春の祭典》に負けていない。初演では、激しく叩き過ぎたティンパニの皮が破れてしまい、それは後にプロコフィエフにプレゼントされたそうな。
プロコフィエフ:スキタイ組曲~第2曲〈邪神と闇の精霊の踊り〉(演奏:ゲルギエフ指揮/マリインスキー劇場管弦楽団)
2. バルトーク:ピアノ協奏曲第1番
ベーラ・バルトーク(1881-1945)はハンガリー人で(だから本当はファミリーネームが先で、バルトーク・ベーラとなる)、東欧の民族音楽を研究し、すごい曲をたくさん書いた。民族音楽を作品に取り入れる作曲家はたくさんいるが、この人の場合、メロディを拝借というレベルではなく、重い録音機をかついで農村を歩き回り、長時間かけて村人の信頼関係を築いたうえで教えてもらうというガチのやつだ。
バルトークには、ピアノ協奏曲第1番(1926)とか、2台のピアノと打楽器のためのソナタ(1937)とか、それまでのクラシックにはなかった鮮烈なリズムを特徴とする曲がある。知的で洗練された音楽なのに、体の奥から沸き立たせるような力強いビートが感じられるのは、そういうベースがあったからこそだろう。
バルトーク:ピアノ協奏曲第1番~第3楽章(ピアノ:ポリーニ/アバド指揮/シカゴ交響楽団)
3. ハチャトゥリヤン:バレエ音楽《ガイーヌ》から〈レズギンカ〉
バルトークのベースはハンガリーや東欧諸国だったが、アラム・ハチャトゥリヤン(1903-1978)のはアルメニアなどのコーカサス地域だった。厳選された素材を完璧な計算で調理するバルトークに対し、ハチャトゥリヤンは露骨にエキゾチックで俗っぽくて、それでいて中毒性が高い。
有名な《剣の舞》を含む《ガイーヌ(ガヤネー)》は、集団農場で働くガイーヌという女性がダメ人間の夫を密告し、正義のソヴィエト軍人と再婚するという、なかなか共感のハードルの高いストーリーをもつバレエだが、音楽はそんなことに関係なく魅力的なエスニックのフルコースだ。レズギンカはコーカサス地方の速いダンスだが、ハチャトゥリヤンのオーケストラはカロリーたっぷりで、脳内麻薬が噴出する。
ハチャトゥリヤン:バレエ音楽《ガイーヌ》から〈レズギンカ〉(チェクナヴォリアン指揮/アルメニア・フィルハーモニー管弦楽団)
4. クセナキス:ノモス・ガンマ
ヤニス・クセナキス(1922-2001)はギリシャ人で、戦時中は反ナチスのレジスタンス運動に参加、戦後はギリシャの独裁政権から逃れてパリへ亡命、同地で巨匠ル・コルビュジエに建築を学び、作曲と建築の両方で活躍した。ハードな人生を送った人だが(戦時中には左目を失い、戦後にはギリシャの欠席裁判で死刑を宣告された)、音楽もハードだ。数学を応用した彼の作品には、人間が書いたとは思えないような厳しさとメカニックなかっこよさがある。
代表作《ノモス・ガンマ》(1967/68)は、98名の奏者がホール内に散らばり、聴衆はその中に混じって聴く。4人のトムトム(ロックのドラムで言う「タム」)を含む8人のパーカッションの引っ張る巨大な音響はとにかく規格外で、強烈きわまりない。実演は少ないし(井上道義マエストロがときどきやってくれる)、録音も2種類しかないし、そもそも録音で伝わるかどうかわからないが、この圧倒的な迫力はぜひ一度体験してほしい。
クセナキス:ノモス・ガンマ(アルトゥーロ・タマヨ指揮/ハーグ・レジデンティ管弦楽団)
最後にまとめてどうぞ
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