
ウィーン国立歌劇場《売られた花嫁》新演出、マリア・テレジアに捧げられたオペラ祭

取材・文=平野玲音
Text=Reine Hirano
オーストリアの10月の音楽シーンから、注目のオペラ公演を現地よりレポートします。

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
マリア・テレジアがオペラを上演させたホーフ宮殿でオペラ・フェスティヴァル開催
保守的だったオーストリアのオペラ界でも自由で多様な演出が見られるようになるなかで、ベルント・R・ビーネルトが2012年に創立したオペラ・フェスティヴァル「テアトロ・バロッコ」は、オリジナルに回帰する独自の路線を貫いている。作曲家たちが総譜に記した舞台への指示をふくむ音楽と、歴史的なジェスチャーや装置とともに、その音楽をステージ化する演出との協調――。古楽器での演奏こそは世界中で盛んになったが、当時のオペラで歌に劣らず重要だった身振り手振りやロケーションまで再現された舞台は少ない。今年は9月19日~10月5日にニーダーエスターライヒ州ホーフ宮殿で、「OPERNFEST für MARIA THERESIA」と銘打って3作品が上演された。
かつて「オイゲン公」ことオイゲン・フォン・ザヴォイエンが所有していたホーフ宮殿。彼の生誕350年(2013年)にはウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートのバレエシーンがここを舞台に収録されている。本年はホーフ宮殿を入手した年1725年から300年にあたるため、オペラの前に特別展示「オイゲン――プリンスの背後にいる男」(3月15日~11月2日)も見学できた。
オイゲン公の姪と結婚したことでホーフ宮殿の主となったヨーゼフ・フリードリヒ・フォン・ザクセン=ヒルトブルクハウゼンは、1754年9月にこの宮殿で、神聖ローマ皇帝フランツ1世とマリア・テレジアのために豪華な宴を催した。その祝宴で初演された二つのオペラ、グルック《中国人》とボンノ《真の崇敬》が、271年ぶりに初演の場所に蘇ったというわけだ。
翌1755年には、マリア・テレジアがホーフ宮殿を買い取って夫フランツ1世にプレゼント。彼女はこの宮殿でオペラを上演させ続け、1780年の手紙ではアントン・ツィンマーマンのメロドラマを絶賛している。ツィンマーマンが、同じ年に崩御したマリア・テレジアを悼んで書いたカンタータ《マリア・テレジアの死への嘆き》もまた、ウィーン楽友協会歴史資料室が保管していた楽譜を基に、1780年以来初めて再現された。
宮殿内の「祝祭の間」に設えられた優美な舞台と豪奢な衣装は、初演当時の資料に基づき再構築されたもの。歌も踊りも古楽器のアンサンブルも質が高く、皇帝夫妻が観た公演に迷い込んだようだった。出演は、アリーナ・ドラグネア、アンナ・マンスケ(メゾソプラノ)、ハオハン・ユー(テノール)、ヌリ・パク(ソプラノ)、クリストフ・U・マイヤー(指揮とチェンバロ)ほか(10月3日)。
不満が残ったウィーン国立歌劇場《売られた花嫁》
翌々日の10月5日には、ウィーン国立歌劇場のスメタナ《売られた花嫁》新演出を取材。こちらは冒頭に書いたような「自由な」演出(ディルク・シュメーディング)だったものの、音楽とかみ合わないため不満の残る一夜となった。
第3幕で出てくるはずのサーカスを全編通したモティーフとして、統一性を持たせるというアイディア自体は悪くない。トマーシュ・ハヌス指揮ウィーン国立歌劇場管弦楽団の見事な序曲の間には、サーカステントを思わせる楽しい幕にランプが灯り、期待に胸が高鳴った。ボヘミア地方の村の広場がウィーンのプラーター遊園地のようなのも、特大サイズのクレーンゲームで花嫁がつかみ取りされ舞台の上へと連れ去られるのも、目新しくはあるのだが、村人たちがポルカを踊る場面は興ざめ。クレーンゲームの景品だった色とりどりのテディベアが舞台中でヨタヨタ動いているだけで、スメタナ独自の躍動感が台無しだった。
急病のパヴォル・ブレスリクの代わりを務めたイェルク・シュナイダー(イェニーク)、スラーヴカ・ザーメチュニーコヴァー(マジェンカ)、ミヒャエル・ラウレンツ(ヴァシェク)、ペーター・ケルナー(ケツァル)、ウィーン国立歌劇場合唱団ら歌手は好演だっただけに、プロダクション全体としてもっと高みを目指してほしかった。
それに引き換え、昨年秋から同劇場が上演しているクルターグ《勝負の終わり》は秀逸だ。一般受けはしづらいだろうが、オーケストラが歌とはもちろん、歌手の演技や効果音ともぴったり合って、すべての要素が意味を持った最高級の室内楽を連想させた(10月10日)。





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