子どもと音楽 No.3 座談会 第2回〈前編〉

学校での音楽について語る! クラシック音楽の仕事に携わる母たちの葛藤

レポート
2019.11.09

音楽をめぐる親子の関わりの実態や課題とは? 音楽業界で働く、音楽好きの母たち8名が第2回の座談会を開催!
みなさんに、「子どもと音楽」をめぐる課題を募って臨みましたが、第一声から数珠つなぎに「学校での音楽」の話題で盛り上がり……。

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写真:編集部
司会&レポート
室田尚子 音楽ライター
室田尚子
司会&レポート
室田尚子 音楽ライター
東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

話し足りない母たちによる第2回座談会

音楽業界で働く4人と、音楽之友社に務める4人の母たちによる「音楽と子育て」座談会。まだまだ話し足りない8人が集まって、第2回が開催されました。

「子どもとクラシック音楽の関わり方」について、親としての立場から感じる問題点や、仕事上の経験から導き出される解決のためのアイデアなどを話し合いました。

今回は「学校の中のクラシック」がテーマです。

まずは登場人物紹介。( )内は子どもの年齢と性別です。

日本フィルハーモニー交響楽団・広報 杉山綾子さん(高3・男、小3・女)
音楽業界の「働くママ」の開拓者ともいえる存在。いったん子育てに専念すべく音楽業界から身を引いた時期もありましたが、日本フィルで働き始めてから第二子を出産。日本フィルは学校公演などのアウトリーチ活動に力を入れています。
メゾソプラノ 鳥木弥生さん(小4・男)
藤原歌劇団員として、またメゾソプラノのトップランナーとして幅広い活躍をしている鳥木弥生さん。家族やシッターさんの協力も求めつつ、時には息子さんを連れて演奏旅行にも行ってしまう行動派オペラ歌手。
ミューザ川崎シンフォニーホール・広報 前田明子さん(小6・女、小3・女)
東京都交響楽団の事務局勤務中に東日本大震災が起きたことで転職を決意。現在のミューザ川崎は、子育て中のママも多い環境だそうです。ミューザでは子ども向けの演奏会なども数多く開かれています。
音楽ライター 室田尚子(小6・男)
40を過ぎて子どもを産み、完全フリーランスで仕事をしながら子育てを続ける。今の悩みは息子の中学受験(!)。

クラシックを嫌う子どもたち

山本 私、中2の息子の学校のことで、最近気になることがありまして。

毎年、中学校では合唱コンクールが開催されるんですが、息子のクラスではスメタナの「モルダウ」を歌うことになったんです。ところが、まず「モルダウ」に決まる前に、クラスの女子から「クラシックでしょ? ダサい。マジやめて」みたいな猛反対にあったそうで……。

息子は指揮をやることになったんですが、それに対しても「マジになってる」とか「ピアノがあれば指揮なんていらないじゃん」という声が上がって、息子はすごく悩んでしまっていて……。そもそも「モルダウ」に決まった時点で、クラス全体のテンションがだだ下がりになってしまって、コンクールに向けてまったく盛り上がらないという現状らしいんです。

鳥木 「モルダウ」でダサいって言われちゃうの? それはショック……。

一同 (口々に「モルダウ」の素晴らしさを語り合う)

スメタナ『我が祖国』より第2曲「ヴルタヴァ(モルダウ)

室田 でも、少しわかる気もします。大昔から教科書に載っている曲で、すでに「古典(まさにクラシック!)」になってしまっている。すごいものなんだろうけれど、子どもたちにとっては、カビが生えた骨董品みたいなイメージがついちゃってるんじゃないでしょうか。

和田 反対した女子たちは、どんな曲なら良かったんでしょうか。

山本 アンジェラ・アキとか、「時の旅人」はアリみたい。

アンジェラ・アキ「手紙〜拝啓 十五の君へ〜」合唱版

「時の旅人」(橋本祥路 作曲/深田じゅんこ 作詞)

室田 クラシックを「キモい」と思うのは、自分たちがいつも聞いているJ-POPとは違う音楽だと思っているからですよね。保育園や幼稚園の時には、多分クラシックもポップスも関係なく聴いていたはずなのに、どこかの段階で、子どもたちがそういう意識を持つ時があるんだと思うんですが。

前田 思春期ということもあるのではないでしょうか。わが家の小6の長女も、小さい頃からクラシックやオペラが好きだと言っていたのに、最近「お母さん、音楽ってなんのためにあるの?」と言い出しているんですよね。

杉山 中2というのは難しい時期ですよね。特に女の子は、自分のことを思い出しただけでも……。

茶畠 「モルダウ」はカッコいい曲だと思いますが、自分たちが演奏してそうなるか、というと技術的な難しさもあって、ダサい、真面目って敬遠しちゃうのかな……。

授業で音楽をどう伝える?

室田 子どもたちがクラシックを敬遠してしまう原因のひとつに、小学校の音楽の授業がつまらなく感じる、ということがあると思うんです。自分が好きな音楽と音楽の授業がリンクしていない。音楽の授業が「お勉強」になってしまって、楽しむものと思えないでいるのではないでしょうか。

茶畠 ポップスのアーティストのインタビューなどを読んでいると、「音楽は好きだけど、音楽の授業はキライだった」って言っている人がよくいますね。

上林 でも、音楽の授業がなくなったら、クラシックを聴く機会がなくなってしまいます。

鳥木 演奏するだけにするとか? あ、でも、演奏するには楽譜も読めなければいけないし、やっぱり知識が必要ですね。それに、クラシックの曲を演奏するのって、やっぱり難しいんです。

息子はカラオケに行ったときに「残酷な天使のテーゼ」をすごく上手に歌うんですけど、《トスカ》で牧童を演じることになったときに「アニメの曲とは違う、難しい」ってさかんに言っていました。クラシックは歌うのが難しいだけではなくて、曲を理解するのもそれなりに難しい。

そして、いい演奏に出会う機会も少ないです。

「残酷な天使のテーゼ」(佐藤英敏 作曲/及川眠子 作詞/高橋洋子 歌)

プッチーニのオペラ《トスカ》より第3幕「僕は君への想いの恋のため息を」(牧童:ボーイソプラノ)

前田 小学校だと、地方によっては音楽専科の先生がいない学校もあるので、歌の伴奏がCDという学校もありますよ。

一同 カラオケ!

前田 一方で、すごく授業に工夫を凝らしている先生もいます。以前、ある小学校に授業を見学に行ったことがあるんですが、子どもはリコーダーでまだソとシしか吹けない状態なのに、それにものすごく面白いピアノ伴奏をつけるので、子どもたちが興奮してソとシを吹きまくるんです。

杉山 娘の小学校には6年間で1回だけリコーダーの先生が来てくださる日があるのですが、その授業を受けたあと、目を輝かせながらいろいろ話してくれました。こんな刺激を受けるのに、たった1回なんてもったいないなと。

前田 「おんがくしつトリオ」という団体があって、リコーダー、鍵盤ハーモニカ、ピアノという、小学校で使われている楽器だけで構成されているんです。鍵盤ハーモニカなんて、みんな学校でやらされるけれど、魅力的な演奏を聴く機会が本当に少ないですよね。この団体の演奏を聴くと、「学校の授業の楽器」でもこんなに素敵な音楽になるんだなって感動します。

楽器も、歌も、指揮も、いい演奏を聴いたら、子どもたちのクラシックに対する印象は変わると思います。

おんがくしつトリオ

室田 先生も、必ずしも演奏が上手い必要はなくて、子どもに「音楽が面白いよ」ということを伝える力が必要なんですね。そういう先生に教えてもらえば、子どもたちもクラシックにアレルギーを感じることなく、楽しめるようになるのかもしれません。

部活とクラシック

室田 中学校や高校だと、吹奏楽部や合唱部からクラシックに入っていく子どもはいないんでしょうか?

山本 吹奏楽部はポップスのアレンジとか吹奏楽オリジナル曲を演奏することが多く、合唱部の定番もいわゆる「日本の合唱曲」が多いように思いますが、それ以外の世界に触れる機会が少ないのではないかと思うんです。もちろんクラシック名曲の編曲なんかもあるにはあるんですけど……。

鳥木 私も中学時代、吹奏楽部に入ってホルンを吹いていたんですが、クラシックの曲を吹奏楽用にアレンジしたものの中には、あまりにも原曲と違っているものがありますよね?

前田 小4のときにオーボエを始めたんですが、初めて吹いた「白鳥の湖」の楽譜には、「ソプラノリコーダー(オーボエ)」って書いてあって、「ミーラシドレミードミード♪」になってました! リコーダーでも♭(フラット)なしで吹けるように、調性が変えてあったんです。中学生になってちゃんとしたオーケストラで聴いたとき、「あれ?」ってなっちゃって(笑)。

チャイコフスキーのバレエ音楽《白鳥の湖》情景

上林 吹奏楽部は少子化の影響で小編成が増えていて、人数や楽器に偏りがあるバンドも多いので、無理なく取り組めて聴き映えがするようなアレンジが必要という事情もあるんですよね。

茶畠 私たち、音楽に関わっている人間からすると「このアレンジはないな」と思うけれど、そうでない一般の親御さんは、そこまで感じていないケースのほうが多そうです。

前田 やはり、いろいろなレベルの子どもたちに合わせたものが必要かなとは思いますね。最初はそうした簡単なアレンジからスタートしたとしても、だんだん経験を積んでいく中で「これじゃ物足りないな」と思うようになってくれればいいんじゃないでしょうか。どこかで音楽の内容にピントが合う瞬間は来ますから、出発点の間口は広いほうがいいと思います。

上林 吹奏楽部に入って楽器を始めて、そこからクラシックが好きになっていくというケースは多いんです。クラシックの曲を聴いたときに、自分の楽器、例えばオーボエなら「あそこのオーボエ・ソロがすごく素敵!」と感動して、それからクラシックにハマっていく子どもたちがいます。

鳥木 私も吹奏楽部時代に、大会で強豪校が「バッカナール」を演奏しているのを聴いて、「あれ、クラシックなんだ!カッコいい!」と感動したのを覚えています(笑)。

サン=サーンス《サムソンとデリラ》より「バッカナール」

第3回につづく……

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