
マレク・ヤノフスキがパリ国立歌劇場管を指揮、比類なきモーツァルトとブルックナー

3月のフランスの音楽シーンからコンサートとオペラをお届けします。
パリ国立歌劇場管弦楽団は年に2回程度、オペラハウスのピットから出て、交響曲の演奏会をフィルハーモニー・ド・パリで開いている。今シーズンの最初の演奏会は指揮に87歳のマレク・ヤノフスキを迎えた。
現役では98歳のヘルベルト・ブロムシュテットに次ぐ高齢だが、確固とした足取りで登場し、手すりによりかかることもなく暗譜で指揮した。
前半はモーツァルト「交響曲第39番」変ホ長調K543。最初から管楽器と弦楽器の均衡がピタリと決まり、旋律がゆったり流れた。一つひとつの音符が呼吸し、モーツァルトらしい息づかいが感じられるのは、ドイツの伝統を若くして身につけたからだが、古楽研究の成果を取り入れた演奏も適宜視野に入れた、柔軟な姿勢の持ち主だ。第4楽章ではこの作曲家の茶目っ気も顔を出した。4楽章を通じて、こまやかなニュアンスに富み、かつメリハリのあるはつらつとした理想的な演奏だった。
後半はブルックナー「交響曲第4番」変ホ長調《ロマンティック》」で、ヤノフスキがスイス・ロマンド管弦楽団との録音でも使った1878/80年版だった。第1楽章冒頭、さざなみのような弦楽器のトレモロの上にホルンのソロが高らかに鳴り響いたところから、曲の特徴である壮大で神秘的な雰囲気が周囲に広がった。フルートとホルンの見事な掛け合い、ヴィオラのきれいな中声部も印象的だった。息の長い、スケールの大きな第4楽章のフィナーレの高揚感は、ブルックナーの全曲を録音(ペンタトーン・レーベル)した人ならではのもので、比類がなかった。
東京国際音楽コンクール入賞者のラシッドがオペラを初指揮

2021年秋の第19回東京国際音楽コンクール〈指揮〉で第2位に輝いたフランスの指揮者、サミー・ラシッド(1993年生)が初めてオペラを振った。ストラスブールのフランス国立ラン歌劇場で行われたエドゥアール・ラロ(1823-92)の《イスの王》新演出公演である(3月15日所見)。
アロド弦楽四重奏団のチェロ奏者だったラシッドは、2022年から2023年まで、ラン歌劇場のスタジオにアシスタント指揮者として参加した。指揮者が到着する前のピアノ・リハーサルを委ねられて、幅の広い作品に触れた成果が認められ、アンドリス・ネルソンスの下でボストン交響楽団のアシスタントとして研さんを積んだ。
1888年にパリで初演されたラロ《イスの王》は、世紀末にはビゼー《カルメン》、マスネ《ウェルテル》と並んでもっとも人気があった。《スペイン交響曲》や宗教曲で知られるラロは、ワーグナーを敬愛しながらもこの作品でライトモティーフを使わず、ドラマを凝縮して休憩をふくめ2時間10分にまとめている。作品の真価を見抜いた名指揮者アンドレ・クリュイタンスが1957年に録音(EMI)している。
ブルターニュ地方の都市イスは、堤防で海から守られていたが、王女のマルガレドが敵将カルナックに秘密の関門を教えてしまったために、水没の危機にさらされる。王女は愛していた騎士ミリオが妹のローゼンと結ばれたことへの嫉妬から国を裏切ったが、最後に岩から海に身を投げると、市の守護聖人コランタンの姿が現れ、海が退いて人々は救われる。
ラシッドはキビキビとした躍動感あふれる指揮でミュールーズ国立管弦楽団を鼓舞し、終始緊張の糸が途切れないドラマを引き出すとともに、ラロの音色豊かな音楽の抒情味をたっぷりと聴かせた。同時に優れたソロ歌手と合唱をていねいに支え、均衡の取れた曲作りだった。
歌手ではソプラノのローランヌ・オリヴァが、さわやかな若々しい澄みきった声で清らかなローゼン姫を体現し、テノールのジュリアン・アンリックもハリのある声ときれいな旋律線によって、ミリオの雄々しさと優しさを感じさせた。強靭なよく通るバリトンのジャン=クリストフ・ブートンも、カルナックにピッタリだった。メゾソプラノのアナイク・モレルは、王女マルガレドが最後に海に沈む場面で、悔い改めて罪を償う姿が聴き手の心を打った。
演出家オリヴィエ・ピィは、時代を中世から曲が初演された19世紀後半に移した。大きな灯台、大西洋航路の豪華客船、クレーンや岩壁といった港湾施設が海辺を明示した。暗めの照明に照らされた舞台は、嫉妬と復讐の炎が燃える情念のドラマの的確な書き割りとなっていた。





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