
角野隼斗がドイツの音楽賞「オーパス・クラシック賞」授賞式、ガラ公演に登場

取材・文=中村真人
Text=Masato Nakamura
『音楽の友』12月号(2025年)
「海外レポート・ドイツ①」Web Report

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
角野隼斗にとって今年はドイツでも飛躍の年に
10月12日、ドイツの代表的な音楽賞である「オーパス・クラシック賞」の授賞式とガラ・コンサートがベルリンのコンツェルトハウスで行われ、若手アーティスト賞とライブ・パフォーマンス賞の2部門で栄冠に輝いた角野隼斗も登場した。
華やかに彩られたガラ公演で伴奏を務めたのは、アヌ・タリ指揮のコンツェルトハウス管弦楽団。ソロ声楽録音賞のペネ・パティ、年間ベストセラー賞のラン・ラン、男声最優秀歌手のバンジャマン・ベルナイム、若手アーティスト賞のレイア・ズー(ヴァイオリン)、年間最優秀アンサンブルのラウテン・カンパニー・ベルリンに続いて、角野が登場。アップライトピアノで自作《After Dawn》を弾いた後、スタインウェイをメインに切り替えやはり自作《7つのレベルのきらきら星変奏曲》の一部を披露し、喝采を浴びた。司会のデジレー・ノスブッシュからトロフィーを受賞した角野は、「信じられないほど光栄です。私は昨年初めてドイツに来て、ここでのキャリアを始めたばかりです。多くの人が私の活動を評価してくださっているのが嬉しく、これからもベストを尽くします」と聴衆に感謝の言葉を述べた。
実際、今年は角野にとってドイツでも飛躍の年となった。1月にはフィルハーモニー室内楽ホールで初リサイタルを成功させ、11月頭にはマリン・オルソップ指揮ベルリン・ドイツ交響楽団のソリストとしてフィルハーモニーの大ホールにもデビューする(演目はショパン「ピアノ協奏曲第1番」)。来年夏にはヴィスバーデンを拠点にしたラインガウ音楽祭で「アーティスト・イン・レジデンス」を務めることも先ごろ発表された。
角野はコンツェルトハウスのガラ・コンサートの最後にも登場し、オーケストラ、他の受賞ソリストたちとラヴェル《ボレロ》を共演した。
コンツェルトハウスの二つのモーツァルト公演
同じコンツェルトハウスで聴いたモーツァルトをテーマにした二つのコンサートが、それぞれ興味深いコンセプトで印象に残った。
ベルリン古楽アカデミーによるコンサートは、モーツァルトとヨーゼフ&ミヒャエル・ハイドン兄弟の作品を対置させたもの。冒頭のミヒャエル作の「交響曲第23番」ニ長調は、透明感に富んだなかなかの佳曲で、とくに対位法を緻密に駆使した終楽章のフガートは魅惑的。モーツァルトの手書きによる写譜が残っていることから、彼がなにかを学び取ろうとした様子が想像できる。
ヨーゼフ・ハイドンのト長調とモーツァルトの変ロ長調(第1番)という二つのヴァイオリン協奏曲では、カロリン・ヴィトマンが古典から現代作品まで精通するこの人ならではの知的なソロを展開。後半にはお馴染みの名曲《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》も並んだが、コンサートマスターのゲオルク・カルヴァイト率いる古楽オーケストラは、躍動感とともに思い切った間合いを取るなど、フレッシュな魅力を引き出した(10月15日)。
対して、ラインハルト・ゲーベルを指揮に迎えたコンツェルトハウス管弦楽団は、モーツァルト家3代に焦点を当てた。冒頭はレオポルド・モーツァルトの交響曲ト長調。《新ランバッハ》の俗称で知られ、ヴォルフガングの作品かどうかで論争になった曲だ。そこから50年以上時が飛び、ヴォルフガングの末息子フランフ・クサヴァーの「ピアノ協奏曲第2番」が奏された。レンベルク(現在のウクライナのリヴィウ)で活躍したこの作曲家は、1818年にみずからのピアノで初演している。変ホ長調で、オーボエの代わりに2本のクラリネット、さらに2本ずつのホルン、トランペット、ティンパニという編成は、父ヴォルフガングの「ピアノ協奏曲第22番」とソックリなだけに期待は膨らんだが、そこまでおもしろい曲とは言いがたい。第1楽章はなかなか壮麗だが(アーロン・ピルサンの独奏も充実)、続く緩徐楽章はあまりに短く終わってしまう。
最後に満を持してヴォルフガング・アマデウスの《グラン・パルティータ》が奏されたが、同時代の作曲家フランツ・グライスナーによるオーケストラ版という珍しい編曲版。ややエキセントリックなゲーベルの指揮ぶりと共に、不思議な後味を残したモーツァルトの夕べであった(10月25日)。





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