
バイエルン放送響が《ヴォツェック》で開幕、ミュンヘン・フィルの注目コンサート

取材・文=来住千保美
Text=Chihomi Kishi
ドイツ南部の9、10月の音楽シーンから、注目のオーケストラ公演とコンクールの模様を現地よりレポートします

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
バイエルン放送響がシーズン開幕 ラトル、ティチアーティの音楽づくり
バイエルン放送交響楽団2025/26シーズンは、ベルク《ヴォツェック》演奏会式上演で始まった(10月2、3、5日、聴いた日:5日。ミュンヘン・イザールフィルハーモニー。指揮:同響首席指揮者サイモン・ラトル、ヴォツェック:クリスティアン・ゲルハーヘル、マリー:マリン・ビストレーム、鼓手長:エリック・カットラー、他)。ラトルの計算された緻密なシンフォニックな音楽づくりは非常に興味深い。いっぽう、オペラ的観点からは声楽の扱いかたに疑問が残る。たとえばゲルハーヘルの中音域と管弦楽の関係だ。もちろんホールと劇場の違いはあるが、声が聴きづらいことが気になった。
その1週間後にラトルはヤナーチェク《タラス・ブーリバ》、ブルックナー「交響曲第7番」(10月9、10日、所見日:9日。ミュンヘン・ヘラクレスザール)を指揮した。オーケストラの能力が縦横無尽に活かされたブルックナーで、とても見通しがよい。テンポはかなり早く、実際の演奏時間は、ギュンター・ヴァント指揮よりも7分短かった。
10月16日はロビン・ティチアーティ指揮でベルリオーズ《ロメオとジュリエット》を聴いた(16日と17日。ミュンヘン・イザールフィルハーモニー、ジュリー・ブリアンヌ(Ms)、ヴァレエンティン・ティル(T)、ウィリアム・トーマス(Bs)、バイエルン放送合唱)。様々な形式を持つ大規模な作品だが、各場面のそれぞれの音楽の持つ魅力に集中し、ていねいな演奏はとても印象的だ。なかでも圧巻なのは第3部管弦楽による〈愛のシーン〉で、ティチアーティは内面的な音楽に絶妙な色彩をつけながら優雅な流れをつくっていく。さらにバイエルン放送合唱団の巧さが光るコンサートだった。
ミュンヘン・フィルのコンサート
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団は、興味深い指揮者とソリストの選択、プログラムで人気が高い。9月27日に聴いたダリア・スタセフスカ指揮のプログラムはグリーグ「《ペール・ギュント》組曲」、プロコフィエフ「ピアノ協奏曲第3番」(ガブリエラ・モンテーロ p)、ドヴォルジャーク「交響曲第8番」。パヌラの弟子スタセフスカの指揮の技術は高く、オーケストラを歌わせながら巧みにコントロールしていく。
10月8日、ケント・ナガノ指揮でブルノー=ブルミエ《カイダ・リブレ》(ミュンヘン・フィル委嘱世界初演)、ベルリオーズ《夏の夜》(マリアンヌ・クレバッサ Ms)、ドビュッシー《海》、ベルリオーズ「序曲〈海賊〉」を聴いた。ナガノの音楽は清廉だが、動きに乏しい箇所があり、クレバッサの音程の問題が気になった。
10月19日のクリスティアン・マチェラル指揮のコンサートはヒグドン《ファンファーレ・リトミコ》、ガーシュウィン《ピアノ協奏曲ヘ調》(ルドルフ・ブッフビンダー p)、コープランド「交響曲第3番」。この夏までケルンWDR交響楽団の首席指揮者を務めたマチェラルの指揮は、見やすくキレがよい。聴衆はブッフビンダーの熱演と共に盛大な拍手を送った。
ドイツ指揮者コンクールでアーヴィクが優勝
ドイツ指揮者コンクールが10月14日から20日までケルンで行われた。優勝はヘンリ・クリストファー・アーヴィク(エストニア出身)で、クルト・マズア聴衆賞もあわせて受賞した。第2位はルイ・トロ・アラヤ(チリ)、第3位はフリートリヒ・プレトリウス(ドイツ)。今年は全世界から234人が申し込み、ビデオ審査を経て12人(日本人はいない)がケルン・フィルハーモニーで実際の指揮をした。
このコンクールはドイツ音楽評議会が2年に1度開催するもので、その特徴はコンサートとオペラ両方の分野で審査されることだ。優勝者は1万5000ユーロの賞金に加えて、ケルンWDR交響楽団、ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団、ケルン市立歌劇場、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団、ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団、ハンブルク州立歌劇場管弦楽団、ミュンヘン交響楽団の指揮が約束されている。全体の賞金額と指揮の機会など、その規模はヨーロッパ随一だ。






関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
新着記事Latest



















