レポート
2020.05.10
「Google Arts & Culture」

スマホで名曲ゆかりの場所を訪ね、名画を部屋に飾ってみた!

昨今の状況から、美術館も軒並み休館中。しかし、現代においてアートに触れる方法は本だけではありません! Googleが始めたサービス「Google Arts & Culture」では、インターネット上でさまざまな切り口からアートを楽しむことができます。
日曜ヴァイオリニストで、多摩美術大学教授を務めるラクガキストの小川敦生さんが、スマホでアートツアーに出発! 美術と音楽を越境するコンテンツを発見して、このサービスの楽しみかたを教えてくれました。

自宅でアート・ツアーしてみた人
小川敦生
自宅でアート・ツアーしてみた人
小川敦生 日曜ヴァイオリニスト、ラクガキスト、美術ジャーナリスト

1959年北九州市生まれ。東京大学文学部美術史学科卒業。日経BP社の音楽・美術分野の記者、「日経アート」誌編集長、日本経済新聞美術担当記者等を経て、2012年から多摩...

Googleは、名画を自室に飾る仕掛けをヴァーチャルリアリティーによって実現した。
筆者はフェルメールの『絵画芸術』(1666年頃、ウィーン美術史美術館蔵)を自室に飾り、さらにそのスクリーンショットを壁紙にしてみた。

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

スマホからアートの旅に出よう

コロナ禍の中、Googleがアート分野で興味深い試みを展開している。その名も「Google Arts & Culture」

世界の美術館めぐりをはじめ、技法や時代などの共通項から名画を絞り込んだり、食文化をアートで語ったりするなど、多様なアプローチを可能にした実験的なサービスだ。ここでは、音楽と美術が交わるコンテンツを中心に、少しだけウェブツアーに出かけてみたい。

今回のツアーで筆者は、自分に縛りを与えることにした。パソコンではなくスマホで“旅”に出ることにしたのだ。スマホを頼りに暮らす人も多いなか、大きなアートの世界を小さな画面でどのくらい楽しめるようにGoogleがしているのかを確認したかったからだ。

メンデルスゾーンが作曲した「フィンガルの洞窟」をたずねる

最初に紹介したいのは「フィンガルの洞窟」。メンデルスゾーンが作曲した序曲のタイトルになっているので「ほぉ」と思う人は多いはずだ。ただし、Googleが取り上げたのは地名として。「名作にインスピレーションを与えた場所」の一つに挙げたのである。

日曜ヴァイオリニストを自称する筆者は《フィンガルの洞窟》序曲が高校生のころから大好きで、過去2回演奏する機会に恵まれた。涼やかに始まって清々しく展開し、激しい部分を経て静かに終わる。全体としては派手ではないが、瑞々しさが印象的な佳作だ。

さて、Googleはまず、スコットランドの海沿いにあるこの洞窟に連れて行ってくれる。降り立つと、Google Mapと同じ手法で360度周囲を見回せる。洞窟の奇岩ぶりに息を呑んだ。どうやら溶岩が冷える過程でできた柱状節理が成した形らしい。

真ん中の人形マークをタップすると、洞窟の中に“降り立つ”ことができる。
フィンガルの洞窟の中を見回してみたところ。

メンデルスゾーンは水彩画の名手としても知られている。ここを訪れたのは20歳のとき。その画家的な感性が、この風景においては音楽として結実したということになろうか(絵に描いたかどうかは定かではない)。

なお、この洞窟は、英国の著名画家ターナーが描いており、Googleはその絵を見せてくれた。ヴァーチャルな体験と名作曲家、名画家をクロスさせる試みに筆者は「をを!」と興奮したことを、素直にお伝えしておこう。

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775-1851)作『フィンガルの洞窟』

フェルメールの絵画に隠された音楽を拡大して見つける

次に紹介したいのは、「フェルメールと音楽」と題したコンテンツだ。17世紀オランダの画家フェルメールの絵画作品にはしばしば楽器が登場する。現在世界にあるフェルメールの作品30数点のうち、楽器が描かれた作品は12点にも及ぶ。

画集やネットで改めて作品を見渡すと、ヴァージナルという鍵盤楽器やフルートを、おそらくはプロ奏者ではなく、そこに暮らす若い女性が演奏している場面などが描かれており、当時の人々の日常に音楽が存在していたことを想起させる。

ヴァージナルという鍵盤楽器はしばしばフェルメールの絵に登場する。筆者の想像だが、フェルメールの家にあったのかもしれない。
ヴァージナルを演奏する女性の手前に、チェロに似た弦楽器が描かれている。
フルートが描かれているのも興味深いが、女性がかぶっている東洋的な被り物が気になる。フェルメールの作品の中でも特に有名な『真珠の耳飾りの少女』に描かれた大粒の真珠をはじめ、当時のオランダには東洋からの輸入品も多く入っていたと考えられる。

中に1点、「えっ! この絵にも音楽が描かれていたのか!」と驚かされた作品があった。『取り持ち女』という比較的初期の作品だ。わいせつな雰囲気の場面が描かれており、右端の女性と密着した男性のいかがわしい関係を想像させる。

「取り持ち女」は、男に娼婦の世話をする女性を指し、この絵では左から2番目に描かれている。注目すべきは、左端の男の左手。「シターン」という弦楽器のネックの部分を持っているというのである。当時の居酒屋では、客が演奏するために店が楽器を貸し出すことがあったという。男は店員なのだろう。

ちなみに、絵をタップすると拡大表示が可能なモードになる。該当部分を拡大すると、たしかに楽器らしきものが見える。絵は精細なので、指で拡大するのが楽しい。

娼婦と見られる女性は、赤い服を着た男性からコインを受け取ろうとしている。現存するフェルメールとしては比較的初期のもの。宗教画ではなくこうした世俗画が描かれるようになったのも、17世紀オランダの市民社会の隆盛を物語っている。それにしても、この中に楽器が描かれているとは。
フェルメール『取り持ち女』の楽器の部分を拡大したところ。スマホなら拡大したい部分を指で簡単に拡大することができる。

名画を自宅に飾ってみる

なおGoogleは、スマホならではのさらに面白い仕掛けを準備していた。絵画作品を、ヴァーチャルリアリティの技術で鑑賞者のいる場所に展示できる仕組みを作ったのである。筆者はさっそく、フェルメールの『絵画芸術』を自室に飾ってみた

手前で絵を描いているのはフェルメール自身、奥で金管楽器を持っているのは、ギリシャ神話に登場する女神の一人だという。作品画像の右下にある立方体のようなアイコンをタップすると、スマホのカメラが起動して筆者の部屋が画面に映った。指示に従って床の辺りをぐりぐりした後に作品のサムネール画像をタップしてカメラを持ち上げると、自室に『絵画芸術』が飾られている様子が出現するのである。筆者はさっそく画像を保存して、スマホの壁紙にした。

フェルメール後期の作品。金管楽器を持つ女性は、ギリシャ神話の女神という。右下の人形型の横にある立方体のようなアイコンをタップすると、カメラが鑑賞者のいる空間を映し出す。出てくる指示に従って最初は床に向けてぐりぐりとした後、作品のサムネール画像をタップしてカメラを持ち上げると、ぐりぐりした床の上にスタンドが立ち、絵画作品が現れる仕組みだ。
筆者の自室にフェルメールの《絵画芸術》を飾ったところ。筆者は迷わず、自分のスマホの壁紙にした。Googleは、名画を自室に飾る仕掛けをヴァーチャルリアリティーによって実現した。

このほかにも、フェルメールの『牛乳を注ぐ女』をバッハのBGMで鑑賞するコンテンツ、チェロに描かれた絵画の物語、BGM付きの美術館ツアーなど、音楽と美術をつなぐだけでもたくさんの試みがある。筆者もさらなる発見を求めてツアーを続けたい。

Gyoemon作『フィンガーの洞窟』
作曲家、目ンデルスゾーンが、指の形の奇岩が立つフィンガーの洞窟を訪れて、目の玉が飛び出んばかりに驚いたという故事(虚事?)に基づいて描かれた絵画作品。作曲家名も、この経験に由来すると伝えられる。
Gyoemonは筆者の雅号。
自宅でアート・ツアーしてみた人
小川敦生
自宅でアート・ツアーしてみた人
小川敦生 日曜ヴァイオリニスト、ラクガキスト、美術ジャーナリスト

1959年北九州市生まれ。東京大学文学部美術史学科卒業。日経BP社の音楽・美術分野の記者、「日経アート」誌編集長、日本経済新聞美術担当記者等を経て、2012年から多摩...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ