レポート
2024.11.11

音楽の楽しさを次代へ!『神楽坂まち飛びフェスタ2024』で大喝采を浴びた「ハッピー・サックス・アンサンブル」

中沢十志幸
中沢十志幸 音楽之友社 出版局

東京生まれの千葉県育ち。大学の文学部を卒業後、音楽之友社に入社、1991年から、若干の空白を挟み、『レコード芸術』編集部に所属、2007年より同誌編集長。13歳からク...

写真提供:小串俊寿

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音楽之友社のある神楽坂(東京都新宿区)では、1999年以来、毎年10月半ばから11月3日にかけての3週間、『神楽坂まち飛びフェスタ』が開催されている。「伝統」と「モダン」が交わる街、神楽坂らしさを凝縮した、手作りの“まちの文化祭”である。アート・エキシビションや伝統芸能、コンサートやストリートパフォーマンスなどがメインストリートの神楽坂通りを中心に繰り広げられる。

そのなかでも目玉企画の一つとして毎年注目を集めているのが、最終日の11月3日(文化の日)に、音楽之友社別館テラス前をステージにして開催されている、サクソフォン奏者の小串俊寿さん(東京音楽大学教授)率いる「ハッピー・サックス・アンサンブル」の野外コンサートである。「子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまで、音楽によってハッピーにしたい」をモットーとしている小串さん。前日からの雨で開催が心配されたが、自他ともに認める「晴れ男」である小串さんが本領を発揮、当日は朝から晴天に恵まれた。

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これをきっかけに音楽好きになってくれたら

コンサートは曲目を若干入れ替えながら、13時と14時30分の2ステージが行なわれた。演奏されたのはアンコールを含めて《ブロックM》、《モーツァルト・トリビュート》、《サザエさんメドレー》、《さんぽ》、《エレクトリカルパレード》、《宝島》、《オーメンズ・オヴ・ラヴ》など、クラシックから吹奏楽の定番、ポップス、アニソンまで、おなじみのメロディばかり。恒例の人気企画ということもあって開演前から多くの聴衆が集まっていたが、5種のサクソフォン(音域の高い方からソプラニーノ、ソプラノ、アルト、テナー、バリトン)による総勢13名のサックス奏者たちが素敵な響きを紡ぎ出し始めると、足を止めて演奏に聴き入る街ゆく人々が続出、音楽之友社別館前は通行できないほどの人だかりとなった。

アニソンの演奏では子どもたちが演奏に合わせて歌い出すという微笑ましい光景も見られるなど、コンサートは大きな盛り上がりを見せ、小串さんとアンサンブルにはたくさんの聴衆から惜しみない拍手が贈られた。各回30分ほどの演奏時間であったが、楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていった。

左から近田めぐみさん(テナー)、山田寛生さん(テナー)、岡海南枝さん(バリトン)、大野香菜さん(バリトン)

小串さんは演奏後に「今日、神楽坂で私たちの演奏を聴いてくれた子どもたちが、これをきっかけに音楽に興味を持ち、音楽を好きになってくれたら、また、これがきっかけとなって音楽の道に進んでくれたら、こんなに嬉しいことはない。こうした活動は私にとって音楽家としてもっとも大事にしているものなのです」と語ってくれた。

指揮をする小串俊寿さん

音楽の楽しさを伝えていく大切な活動

「ハッピー・サックス・アンサンブル」は東京音楽大学の卒業生を中心に、昭和音楽大学や名古屋音楽大学などの卒業生も加わった小串さんの門下生たちで構成され、今回アンサンブルに参加した13名も、演奏活動をはじめとしてそれぞれがさまざまな分野で活躍している。

今回の演奏に参加してくださったのは菊地麻利絵さん(ソプラニーノ&ソプラノ)、種村修太さん、安宅真平さん(ソプラノ)、武田恵美さん、野澤美香さん、山下実希さん、安田桂絵奈さん、佐藤直人さん(アルト)、中村ちひろさん、山田寛生さん、近田めぐみさん(テナー)、岡海南枝さん、大野香菜さん(バリトン)の全13名。

ソプラニーノサクソフォンを担当した菊地麻利絵さん(東京音楽大学助教)も、サクソフォン奏者として積極的な演奏活動を繰り広げているひとり。コンサートではコンサートマスター的な役割を果たしていた。

左から菊地麻利絵さん(ソプラニーノ&ソプラノ)、種村修太さん(ソプラノ)、安宅真平さん(ソプラノ)、武田恵美さん(アルト)。菊地麻利絵さんは11月29日(金)には山口雄理さんとの「デュオリサイタル」、1月13日(月祝)には委嘱作を含め、全曲ソプラニーノサクソフォンのためのオリジナル作品による「ソプラニーノサクソフォンリサイタルVol.2」が予定されているという。詳細は菊地麻利絵さんのWebサイトまで。https://marie-kikuchi-official.bitfan.id/

「このコンサートはコロナ渦で開催できなかったときを除いて、2010年から休みなく続けられています。門下生たちが年に一度集まる大事なイベントにもなっていて、毎年この日のために全国から、年によっては海外からも集まってくれるのです。年に一回だけの集まりではありますが、このメンバーでアンサンブルを始めるとすぐに音の響きに一体感が生まれます。これは同門ならではの強みと言えるでしょう」と語る小串さんだが、これまでこのアンサンブルを続けてきた過程でこんなこともあったという。「ある年のことですが、11月3日に重なる日程で、高額な出演料を提示された仕事のオファーがありました。しかし私は、この神楽坂での演奏が、音楽の楽しさを次代に伝えていくという意味で大切な活動だと考えているので、このオファーを断ったのです」。

「可能な限り、このコンサートは続けて行きたい」と、来年の開催についても意欲を見せてくださった小串さん。来年の11月3日もきっと、晴天のもとで素敵な響きを神楽坂じゅうに轟かせてくれることだろう。

左から野澤美香さん(アルト)、山下実希さん(アルト)、安田桂絵奈さん(アルト)、佐藤直人さん(アルト)、中村ちひろさん(テナー)。野澤美香さんは音楽之友社発行のONTOMO MOOK『アメイジング・サクソフォーン』(2022年)の掲載記事「子弟対談 小串俊寿×野澤美香/アンサンブルを語る」にご登場いただいている
中沢十志幸
中沢十志幸 音楽之友社 出版局

東京生まれの千葉県育ち。大学の文学部を卒業後、音楽之友社に入社、1991年から、若干の空白を挟み、『レコード芸術』編集部に所属、2007年より同誌編集長。13歳からク...

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