レポート
2019.12.22
京都国立博物館「天体と音楽〜地球を知ろう〜」レポート

巨大地球儀とともに聴く音楽——宇宙、天体にまつわる音楽から地球の未来を考える

古くから関わりが深かった天体(宇宙)と音楽。星の名前が冠された名曲もたくさんありますが、本格的に2つを結び付けたイベントは多くなかったのではないでしょうか。
大阪在住の音楽ライター桒田萌さんが、直径4メートルのデジタル立体地球儀「ダジック・アース」とともに楽しむイベント、京都国立博物館の天体と音楽」をテーマとした科学・音楽コミュニケーション
〜地球を知ろう〜をレポート!

取材・文
桒田萌
取材・文
桒田萌 音楽ライター

1997年大阪生まれの編集者/ライター。夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オウ...

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天体と音楽。神秘の世界に誘うような2つの分野は、遠いようで近しい。

「『天体と音楽』というテーマは、そんなに珍しいものではありません。歴史を紐解けば、『天球の音楽』の発想を語ったピタゴラスや、惑星を音楽で表現することについて考えたケプラー、電波天文台による星からの電波の音源をもとに作品を残した冨田勲がいます。中世における大学の自由七科目では、音楽と天文学は同じ理数系とされています。実はとても縁が深いんです」

そう語るのは、京都女子大学准教授の荒川恵子さん。

この企画の発案者、京都女子大学発達教育学部教育学科音楽教育学専攻准教授の荒川恵子さん。
古代ギリシャの高名な哲学者ピタゴラスが語った『天球の音楽』を、17世紀に図解したもの。古代ギリシャの音楽理論では、音楽の調和(ハーモニー)は、宇宙(天球)の調和と同じと考えられていた。

8月18・19日に京都国立博物館で開催された「天体と音楽」をテーマとした科学・音楽コミュニケーション〜地球を知ろう(以下、「天体を音楽」)は、荒川さんが代表をつとめる「天体と音楽」実行委員会(第2日目出演の野本由紀夫氏他、大学教員9名の会)が企画した催しだ。

地球の様子を知るための解説と、天体にまつわる音楽作品の数々。観客とともに歌い、踊る、楽しい教育プログラムが開催された。1日目の様子をレポートする。

迫力満点の地球儀と天体を想起させる音楽

地球を身近に感じてもらうために使用されたのは、ステージに向かって右側に設置された、直径4メートルのデジタル立体地球儀「ダジック・アース」(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻 齊藤昭則准教授らが開発

ステージに配された直径4メートルのデジタル立体地球儀「ダジック・アース」。球場の立体スクリーンに映像が映し出される。

スクリーン上には、雲の動きや惑星の様子が投影されている。観客は、リアルに天体の様子を感じることができるため、天体や天気に関する専門的な解説をスムーズに理解できたことだろう。

これまで数々の作曲家が、宇宙と音楽の密接な関係性を感じ取っていたのだろう。天気や宇宙に関する作品は多く残されている。「天体と音楽」では、そんな数々の作品を堪能できた。

オープニングは華々しく、J.シュトラウス2世《雷鳴と稲妻》。ティンパニによる雷とともに、軽快な音楽が楽しいイベントを予期させる。

第1部のテーマは「ダジック・アースを用いた環境教育」。ドビュッシーの《雨の庭》は、地球では欠かせない雨を描いた作品であり、水打つ様子を想起させる。

演奏後、早速「雨」というキーワードで解説が繰り広げられた。司会を務める気象予報士の前田智宏さん(第2日目は広瀬駿さん)が、小さな子どもにとっても理解しやすいお話を展開する。

「近年、各地で豪雨災害が増えてきましたね。その原因の1つとして、地球温暖化が挙げられます。それを如実に表しているのが、これです」

前田さんが示したタジック・アースは、おどろおどろしい様子を醸し出す。

「この赤やオレンジの部分は、昔よりも気温が高くなっている場所。2018年のものを見ると、この1958年のものに比べると、もっと赤い範囲が増えています」

「地球温暖化はどうして進んでしまったのでしょうか。このタジック・アースをみてください」

小さな白粒がたくさん光る。まるで地球上に張りつくようなその光は、現在の環境問題の危機を裏付けている。

「この光は、街明かりです。たくさんありますが、人間が多くのエネルギーを使っているということ。科学技術により便利な世の中になりましたが、世の中の気温は上がり災害が増えている。環境問題は、とても深刻なんです」

続いてミュージカル《キャッツ》より〈メモリー〉ドヴォルザーク《月に寄せる歌》では、夜空に思いを吐露するソプラノ歌手の姿にうっとりする。

ソプラノの豊田典子さん、ヴァイオリンの豊田秀雄さん、ピアノの内田博世さんらの演奏。

第2部のテーマは「令和元年 宇宙への旅」。1968年に公開されたSF映画《2001年 宇宙への旅》に使用されたR.シュトラウス《ツァラトゥストラはかく語りき》。

そして、ホルスト《惑星》より〈火星〉が、聴衆を一気に宇宙空間へ誘う。「太陽系の惑星で、地球にもっとも近いのが火星です。大きさは地球より小さく、直径が2倍ほど違います」と前田さん。

地上でポツンと小さく生きる人間にとって、身近には感じ難い「環境」「宇宙」。タジック・アースで客観的に星を眺めることで、自らも宇宙空間の1人であることを再認識できる。

また前田智宏さん自身も、「天体」にちなんでコブクロ《流星》の歌を披露。キリッとした前田さんの違った一面(ギャップ?)に、聴衆はあたたかい拍手を送った。

司会、解説のほかに歌声も披露した気象予報士の前田智宏さん。ピアノ伴奏の内藤陽子さん、ファゴットは高野佳和さん。

「天体と音楽」ジャンルの垣根を超えた化学反応

イベントでは、オーケストラからピアノ、独唱まで、幅広い選曲と編成が印象的。関西で活躍するプロフェッショナルの音楽家はもちろん、メンバーの半分以上が理系学部出身の「アンサンブル・キュリオシティ」が演奏を務めた。

また、クラシック音楽だけでなく、小さな子どもも一緒に楽しむことができる米津玄師の「パプリカ」も取り入れられ、会場全体で歌い、踊ることができるような環境づくりがなされた。ロビーで開演時に来場者を迎え入れていた大学生たちが、客席で聴衆を盛り上げるように踊り、会場はさらに盛り上がりを見せた。

半分以上が理系学部出身の12名からなる、アンサンブル・キュリオシティ。

実行委員会の代表を務める荒川さんは、2012年より「音楽と科学のコラボレーション」をテーマにイベントを企画してきた。

「私自身、音楽学を専攻していた大学院時代から、理系との垣根を超えるような研究を行ってきました。あと、多くの人と1つの目標に向かって何かを成し遂げることも好きなんです。そういう意味では、異分野の方々と交流を深め、新たな気づきや思いもよらぬ価値創造といった『化学反応』を常に期待しています」

そんな活動を行なう中、出会ったのがタジック・アース。迫力があり、美しく投影される天気や惑星のビジュアルに、2領域の融合の可能性を感じたという。

「聴いたり歌ったり踊ったり、と楽しい『音楽』。そしてタジック・アースによって映し出される『天体』。この2つが組み合わされば、魅力的で豊かな内容の教育的なイベントができるのではないかと考えました」

もっとある!? 天体と音楽の可能性

盛況のうち終了したこのイベント。荒川さんには、まだまだ構想があるようだ。

土地の気候に焦点をあてる民族音楽編。『天から射す光』を表していると言われている笙や箏を用いる日本音楽編。天体からインスピレーションを得て行なう創作コンサート。プラネタリウムとのコラボレーション。これらのアイデアは、「順次開催していきたい」と話す。

天体と音楽、神秘と言えども、やはりどちらも身近な存在だ。多くのアイデアとコミュニケーションにより、双方の交わりは、ぐっと身近になる。これからの「天体と音楽」で、そのコラボレーションの可能性がもっと広がるかもしれない。

ピアニスト内田博世さん。
取材・文
桒田萌
取材・文
桒田萌 音楽ライター

1997年大阪生まれの編集者/ライター。夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オウ...

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