レポート
2018.12.13
熊川哲也Kバレエカンパニーとオーチャードホールがフランチャイズ契約

音楽に強いこだわりを持つ熊川が渋谷から発信する“メイド・イン・ジャパン”

日本のバレエ界においてダンサー、振付家そして芸術監督として第一線で活躍する熊川哲也が率いるKバレエカンパニーと、渋谷を拠点にさまざまな芸術を発信する文化村オーチャードホールが先日、フランチャイズ契約を発表しました。

日本では初となる、民間劇場と民間芸術団体のフランチャイズ契約を結ぶことによって、どんな効果、どんな作品が生まれるのか? 記者会見の様子を舞踏評論、そしてジャーナリストでもある渡辺真弓さんがレポートします。

渡辺真弓
渡辺真弓 舞踊評論家、共立女子大学非常勤講師

お茶の水女子大学及び同大学院で舞踊学を専攻。週刊オン・ステージ新聞社(音楽記者)を経てフリー。1990年『毎日新聞』で舞踊評論家としてデビューし、季刊『バレエの本』(...

©小林由恵

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コンサートやバレエ公演で渋谷の文化発信地として親しまれてきたBunkamuraオーチャードホールが、熊川哲也率いるKバレエカンパニーとフランチャイズ契約を11月1日付けで締結し、26日発表記者会見が開かれた。

同ホールは、1989年の開場時に東京フィルハーモニー交響楽団と日本初のフランチャイズ契約を結んでいるが、ここにバレエ団が加わることによって、日本の劇場では珍しいオーケストラとバレエ団の2つの芸術団体に本拠地を提供することになる。近年バレエ業界において劇場不足が深刻化しているだけに、今回の契約の成果には各方面から熱い視線が注がれている。

フランチャイズのメリットについて、会見に出席した中野哲夫代表取締役社長が「互いに練習計画が立てやすく、お客様も予定を立てやすい」と語れば、「素晴らしい契約をいただき、東フィルと肩を並べられ、この劇場から新作を生んでいくのかと思うとワクワクする」と熊川。

熊川哲也(左)と株式会社東急文化村代表取締役社長の中野哲夫
撮影: 編集部

熊川と同ホールの関わりは深く、彼がローザンヌ国際バレエコンクールに入賞したのが1989年、初めてここで踊ったのはまだ英国ロイヤル・バレエ団に所属していた1998年のことだった。英国から帰国後、1999年にKバレエカンパニーを結成。旗揚げから今日まで300回以上の公演を行ない、『シンデレラ』や『カルメン』『クレオパトラ』などヒット作を生んだのもこの劇場だった。2012年には、オーチャードホールの芸術監督に就任している。

「民間のバレエ団でホームと呼べる劇場があるのはKバレエカンパニーだけなので誇りに思う。ダンサーにとってはそう変化はないが、スタジオでの創作活動に余力が生まれるだろう。ひとつのプロジェクトを単に共催するだけでなく、5年間かけて上演でき、イメージ作りができることが大きい」と展望を語った。

©小林由恵

2019年は、オーチャードホールが開場30周年を迎えると同時に、Kバレエカンパニーも創立20周年と両者にとって記念すべき節目の年。ホールの誕生日である9月3日〜5日には、記念行事が行なわれるそうで、東フィルとの意欲的なコラボレーションが期待できそうだ。

その2週間後には、新作『マダム・バタフライ』の初演が控えている。

熊川によれば「この作品を海外へ持っていく可能性もあるが、メイド・イン・ジャパンの作品を作ったら、この劇場で勝負したい。日本を訪れるツーリストが足を運ぶのが国際化と考える」という。

『マダム・バタフライ』も一から作り上げるオリジナル・バレエである。「ミラノ・スカラ座のオペラを見て冒頭から妄想が始まって、スイッチがオンになったり、オフになったりで、今苦労している」とのこと。

昨年初演された『クレオパトラ』では、デンマークの作曲家ニールセンの音楽が使われ、劇音楽の『アラジン』の異国的な旋律が実にしっくり舞台に溶け込んでいた。鑑賞後に、あれは何の音楽だろうと興味をもって検索して、音楽を聴き返したのは筆者だけではないだろう。

カール・ニールセン: 劇音楽 『アラジン – 5幕のおとぎ話劇』

曲ありきで創作するのが熊川流。『マダム・バタフライ』と言えば、プッチーニのオペラ《蝶々夫人》が有名だが、熊川はジョン・ランチベリーによるプッチーニの編曲版をベースに、第1幕ではアメリカの作曲家、アーロン・コープランドの音楽を使用する考えだ。

第1幕はピンカートンのアメリカ時代に設定、第2幕ではカルチャー・ショックや裏切りを描き、日米関係に焦点を当てる。コープランドのバレエ音楽では『ビリー・ザ・キッド』『ロデオ』『アパラチアの春』が知られている。バレエ・ファンにとっても音楽ファンにとってもどんな音楽構成になるのか興味津々だ。

アーロン・コープランド: 管弦楽作品集 ――バレエ編

「人の3倍の速度で走ってきた。4月には舞踊監督を置いて、現場を譲り、自分は振付家、演出家として作品を生むことに専念したい」と抱負を語った。これまで次々に話題のヒット作を生むなど日本のバレエ界に一石を投じてきた熊川の活動には、今後も目が離せそうもない。

熊川哲也 Kバレエ カンパニーの次回公演情報
バレエ『ベートーヴェン 第九』・『アルルの女』

熊川哲也 Kバレエ カンパニー Winter 2019

『ベートーヴェン 第九』・『アルルの女』

会場: Bunkamuraオーチャードホール

日程: 2019年1月31日(木)~2月3日(日)

チケット料金: S:16,000円 A:12,000円 B:8,000円

©小林由恵
渡辺真弓
渡辺真弓 舞踊評論家、共立女子大学非常勤講師

お茶の水女子大学及び同大学院で舞踊学を専攻。週刊オン・ステージ新聞社(音楽記者)を経てフリー。1990年『毎日新聞』で舞踊評論家としてデビューし、季刊『バレエの本』(...

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