マニュエル・ルグリ、初来日から35年――音楽とダンスで伝える日本への愛
パリ・オペラ座バレエの最高位エトワールとして20年の長きにわたって君臨したのちも、ダンサーとして、あるいはウィーン国立バレエの芸術監督として活躍を続けるマニュエル・ルグリ。そんな彼が世界のスターダンサーを率いて、俊英ヴァイオリニスト三浦文彰、ピアニストの田村響と舞台上で競演する。
記者会見でみせた「オペラ座の王子」たる穏やかな微笑みと日本への愛を、パリ時代のルグリの舞台をほとんど観ている渡辺真弓さんにレポートしてもらった。
お茶の水女子大学及び同大学院で舞踊学を専攻。週刊オン・ステージ新聞社(音楽記者)を経てフリー。1990年『毎日新聞』で舞踊評論家としてデビューし、季刊『バレエの本』(...
コンサートホールでのバレエと音楽のコラボレーションと言えば、最近では、ボリショイ・バレエの大スター、スヴェトラーナ・ザハーロワとヴァイオリンの名手ワディム・レーピンのカップル共演や、エルヴェ・モローらパリ・オペラ座のエトワールたちによる「月夜に煌めくエトワール」などが記憶に新しい。
こうしたコンサートの醍醐味は、精鋭同士のダンサーと演奏家が同じ舞台に立ち、互いに触発されながら白熱したステージを繰り広げることにあるだろう。
名ダンサーのルグリのもとに世界の精鋭が集結
長年パリ・オペラ座バレエのエトワール(最高位の花形ダンサー)として活躍し、ウィーン国立バレエの芸術監督を務めるマニュエル・ルグリが座長を務める「スターズ・イン・ブルー Stars in Blue」も同様のコンセプトの企画だが、顔ぶれと選曲がなんとも豪華である。
ダンサーは、ルグリに加え、彼が信頼を寄せるボリショイ・バレエのプリンシパル、オルガ・スミルノワとセミョーン・チュージン、ハンブルク・バレエ団プリンシパルのシルヴィア・アッツォーニの4人、演奏にヴァイオリンの三浦文彰とピアニストの田村響、ウィーン国立バレエ団専属ピアニストの滝澤志野の3人を迎える。ダンス6曲、演奏4曲というプログラムである。
東京芸術劇場の公演を前に、出演者の記者会見と公開リハーサルが行なわれた。
ルグリが抱く日本への愛を伝える新作「OCHIBA」を初演
今年はルグリが初来日(1984年大阪国際バレエ・コンペティション)してから、ちょうど35年の節目の年。日本のファンがルグリの妙技に熱狂したのは、1986年夏の「パトリック・デュポンと仲間たち」からだと思うが、公私のパートナーであったシルヴィ・ギエムと共演した『グラン・パ・クラシック』の輝かしい舞台は未だに語り種になっている。それから今日まで長きにわたって、世紀の大エトワールの進化を見続けてきた私たちは何と幸せなことだろう。
今回まず注目すべきは、ルグリに、盟友パトリック・ド・バナが振付けた新作『OCHIBA〜When leaves are falling』(音楽はフィリップ・グラス)をスミルノワと共演すること。ピアノ演奏は田村。
この作品は、詩人のアレッサンドロ・バリッコ原作の『絹(シルク)』に想を得て創作されたもので、男女の沈黙の愛を描いている。日本を訪れた主人公が、美しい女性を追い求めるというテーマは、ルグリの日本への愛に通じるかもしれない。
「オルガのような若いダンサーと一緒に踊るのは夢のまた夢だったが、それが実現した。今の自分にふさわしい作品だろう」とルグリは抱負を語る。
多忙を極める2人を結びつけたのはド・バナだった。スミルノワによれば、「まず私のためにモスクワに来てもらい、次にルグリの元に行って振り付けてもらった。それが一緒になって二重奏になったのは新しいアプローチとして面白い」。
©羽鳥直志
©羽鳥直志
珠玉の音楽とダンス界のスターたちのケミストリーは見逃せない
演奏家たちも熱いコメントを寄せる。
リハーサルで公開されたのは3曲で、本番さながらの迫力があった。最初はルグリの『モーメント』。ピアノの滝澤とのデュエットだが、2年前の世界初演時からさらに深化した感がある。
カンパニーを率いながら、ダンサーとしても挑戦し続けるルグリの姿には、彼の恩師である巨星ルドルフ・ヌレエフ(1938-1993)の姿を重ねずにはいられない。ダンサーとしてのタイプに違いはあるが、メートル・ド・バレエ(バレエ団員の日常の訓練や、演目の上演の責任者)としてのリーダーシップを継承しているように思う。かつてのような技巧は披露せずとも、年齢を重ねた味わいで引きつけるのはさすがである。
自分の調整が済むと、今度はショルツ振付けの『ソナタ』(音楽:ラフマニノフのチェロ・ソナタのヴァイオリンとピアノ版)で、アッツォーニとチュージンのリフトやサポートなどのパートナーリングを入念に指導。
最後は、スミルノワが『瀕死の白鳥』(音楽:サン=サーンスの《白鳥》)で大バレリーナの存在感を印象づける。三浦と田村と初めて合わせるとは思えないほど息もぴったりだった。
目玉の『OCHIBA』は非公開だったが、ルグリ渾身のステージがますます気になる。通常の舞台設定とは異なる雰囲気のなかで、ダンスと音楽が生みだす化学反応をぜひ味わってみたいものである。
東京公演
2019年3月8日(金)19:00開演、3月9日(土)14:00開演
東京芸術劇場 コンサートホール
大阪公演
2019年3月11日(月)19:00開演
ザ・シンフォニーホール
宮崎公演
3月14日(木)19:00開演
メディキット県民文化センター(宮崎県芸術劇場)演劇ホール
愛知公演
3月17日(日)15:00開演
愛知県芸術劇場 コンサートホール
プログラム:
『OCHIBA ~When leaves are Falling~』(世界初演)『ソナタ』『Moment』『タイスの瞑想曲』『瀕死の白鳥』『ノクターン・ソロ』
【演奏曲】パガニーニ:《ネル・コル・ピウ変奏曲》 ラヴェル:《ツィガーヌ》 ショパン:《ノクターン第20番(遺作)》 ショパン:《華麗なる大円舞曲》
出演:
マニュエル・ルグリ
オルガ・スミルノワ
シルヴィア・アッツォーニ
セミョーン・チュージン
三浦文彰(ヴァイオリン)
田村響(ピアノ)
滝澤志野(ピアノ『Moment』)
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