レポート
2024.04.22
第3代音楽監督就任後初!ガランチャ、オロペサも出演

ネゼ=セガン音楽監督、総裁ゲルブが語る METオーケストラの新時代と来日公演の聴き所

この6月、実に13年ぶりとなるMETオーケストラの来日公演が東京、兵庫で行なわれる。

世界に冠たるメトロポリタン歌劇場(MET)が1883年に創立した際に発足したMETオーケストラは、METでの多忙なオペラ公演で世界の一流指揮者と協働し、コンサートでもトスカニーニが1913年に交響曲公演指揮者としてアメリカ・デビューを果たしたほか、これまでラフマニノフ、ルービンシュタイン、カザルス、クライスラー、ポリーニ、フレミング、ディドナート等、音楽史を彩る巨匠たちと共演を重ねてきた。

2018年には第3代音楽監督にヤニック・ネゼ=セガンが就任。フィラデルフィア管の音楽監督も務め、巨匠への道をひた走る氏とのコンビで新風を巻き起こしている。

去る3月29日には、ネゼ=セガンとメトロポリタン歌劇場総裁のピーター・ゲルブ氏が登壇し、来日公演に向けたオンライン合同インタビューが行われた。その模様をレポートする。

ONTOMO編集部
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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

2024年2月1日カーネギーホールにおける、ネゼ=セガン指揮METオーケストラの公演から ©Chris Lee

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METで定期的に活躍する人気歌手3名が出演

ネゼ=セガンは現在のMETオケについて、「ここ数年新しいメンバーが増え、過去のクオリティを保ちながら以前とは違う響きももっている。METオケが世界でも有数のオケであるという評判を、かつてないレベルで維持していることに驚かれるだろう」と切り出した。

 

ヤニック・ネゼ=セガン(指揮)
カナダ生まれの指揮者・ピアニスト。2018年メトロポリタン歌劇場(MET)音楽監督に就任。2009年《カルメン》の新演出によるMETデビュー以来、毎シーズン20作品におよぶオペラを150回以上上演し、METオーケストラとも数多くのガラやコンサートで指揮をしている。2023-24年シーズンのハイライトは、J.ヘギー作曲《デッドマン・ウォーキング》とD.カタン作曲《フロレンシア・エン・エル・アマゾナス》のMET初演、《運命の力》の新演出、ヴェルディ「レクイエム」、カーネギーホールでのMETオーケストラとのコンサートなどがある。
2008-18年ロッテルダム・フィル音楽監督(現在は名誉指揮者)、2012年よりフィラデルフィア管音楽監督。客演も多く、ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、バイエルン放送響、ヨーロッパ室内管とも緊密な協力関係を築いているほか、スカラ座、コヴェント・ガーデン、オランダ国立歌劇場、ウィーン国立歌劇場、リンカーン・センターのモーストリー・モーツァルト音楽祭、ザルツブルク、エディンバラ、ルツェルン、グラフェネッグ等の音楽祭にも度々招かれている。
これまでグラミー賞の11部門にノミネートされ、最近ではMETとの共演による「T.ブランチャード:歌劇『Fire Shut Up in My Bones』」とルネ・フレミングとの共演による『Voice of Nature: The Anthropocene』でグラミー賞を受賞。©George Etheredge

来日公演は2つのプログラムからなる。Aプロ(6/22、25、27)は、バルトーク《青ひげ公の城》(演奏会形式・日本語字幕付き)と、バルトークが影響を受けたワーグナーの、しかも同じ一幕物のオペラ《さまよえるオランダ人》から序曲、そして、やはりワーグナーから強い影響を受けたからこそ反発も強かったドビュッシーの《ペレアスとメリザンド》組曲という、3つのおとぎ話からなるオペラ・プログラム。

「もっとも偉大な作品の1つであり、ドラマチックであらゆる色彩のパレットが要求される」《青ひげ公の城》には、METで定期的に活躍する2人、現在世界でもっとも優れたメゾソプラノの1人であるエリーナ・ガランチャと、新しい世代の偉大なバスバリトンの1人、クリスチャン・ヴァン・ホーンが出演。「《青ひげ公の城》のユディットには、とてもドラマチックなパワーをもちながら、声をすばらしくコントロールする歌手が必要。エリーナはまさにそれを備えた歌手だと思う」。

エリーナ・ガランチャ(メゾソプラノ)
ラトビア生まれ。2008年《セビリアの理髪師》ロジーナ役でデビュー以来、METの常連として《ファウストの劫罰》マルグリット、《サムソンとデリラ》デリラ、《ばらの騎士》オクタヴィアン、《ロベルト・デヴリュー》サラ、《カルメン》と《ラ・チェネレントラ》のタイトルロール、《皇帝ティートの慈悲》セストなどを歌っている。
コヴェント・ガーデン、ザルツブルク音楽祭、バイエルン州立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラなど、世界各地のコンサートホールや音楽祭に定期的に出演。最近ではバイロイト音楽祭に《パルジファル》クンドリ役でデビュー。ウィーン国立歌劇場には2003年のデビュー以来、18の役で200回近く登場している。
2023-24年シーズンは、ベルリン国立歌劇場で《アイーダ》アムネリス、スカラ座では《ドン・カルロ》エボリ公女や《カヴァレリア・ルスティカーナ》サントゥッツァ、サンタ・チェチーリア管とのヴェルディ「レクイエム」、ウィーン国立歌劇場での《パルジファル》クンドリー、ナポリのサン・カルロ劇場での《青ひげ公の城》ユディット、同役でカーネギーホールにおけるMETオーケストラとのコンサート、他を予定している。

オペラ・オーケストラによる真に特別なマーラー「5番」

Bプロ(6/23、26)のメインは、マーラーの「交響曲第5番」。ネゼ=セガンによれば、METオケのとくに優れている点はお互いを聴く能力だという。「それは、舞台で起きていることに常に耳を傾け、歌手とともに呼吸をするオペラ・オーケストラだからこそ。また、この曲のように80分にも及ぶ長い演奏時間も、ワーグナーやヴェルディの大作を日常的に手掛けているオペラ・オーケストラにとっては何ということはない。私は音楽監督を務めるフィラデルフィア管だけでなく、ウィーン、ベルリン、ミュンヘンなど多くのオーケストラとマーラーを演奏した経験があり、そのような私の経験と彼らの経験が組み合わさることで、真に特別なものが生まれる」。

いま世界中の歌劇場で引っ張りだこの人気ソプラノ、リセット・オロペサはモーツァルトを2曲歌う。「今回の演目は、声のヴィルトゥオーソ性が存分に発揮される必要があるコンサート・アリア。彼女の声はひじょうに深い共鳴を備え、官能的でもある。また、コロラトゥーラを素晴らしく歌える能力を維持しながら、よりリッチなサウンドをもつようになった。もしモーツァルトがいま生きていたら、きっと彼女に恋をしていたことだろう」。

リセット・オロペサ(ソプラノ)
ニューオーリンズ生まれ。メトロポリタン歌劇場(MET)のリンデマン・ヤングアーティスト・プログラムを経て、2006年《イドメネオ》に参加しMETデビュー。以来、《リゴレット》ジルダ、《椿姫》ヴィオレッタ、《マノン》のタイトルロール、《ファルスタッフ》ナンネッタ、《オルフェオとエウリディーチェ》アモーレ、《フィガロの結婚》スザンナ、《ニーベルングの指輪》ヴォークリンデなど、18役で150公演近くMETに登場している。
2023-24年シーズンは、東京とナポリで《椿姫》ヴィオレッタ、ドレスデンで《清教徒》エルヴィーラ、パリ・オペラ座で《ジュリオ・チェーザレ》クレオパトラ、ウィーン国立歌劇場で《ウィリアム・テル》マティルデ、ローマで《夢遊病の女》アミーナを歌うほか、METオーケストラとともにカーネギーホール、スカラ座、ハンガリー国立歌劇場、パリ、バルセロナ、グラーツ、ナポリでのコンサートに出演する。
さらには、グラインドボーン、ペーザロのロッシーニ・オペラなどの音楽祭に加え、フィラデルフィア管、シカゴ響、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、サンタ・チェチーリア管などのコンサートにも度々出演している。©Steven Harris

もう1曲、日本初演となる《すべての人のための讃歌》は、アメリカの優れた若手作曲家であるモンゴメリーがコロナ禍に祈りを込めて書いた作品。METは近年、新作委嘱も多く手掛けており、それが今回のツアーに同時代の作曲家による作品を含めた理由だという。

コロナ禍を経たMETの新しい姿

総裁のゲルブ氏は、「コロナ禍は、オペラという芸術形式を持続可能なものへ前進させる必要性について、考える機会を与えてくれた。いまは新作の数を大幅に増やし、それに惹かれて新しい観客が急増している。新しいことに挑戦しなければ未来にチャンスはない」と述べる。

 

メトロポリタン歌劇場総裁のピーター・ゲルブ氏 ©Paola Kudacki / Met Opera

METは東日本大震災後に来日した最初のメジャーなカンパニーの1つであり、日本に戻ることを非常に重要だと感じているという。「オペラ、そして芸術には人々の生活を変え、勇気づけたり、希望を提供する力があると信じている」。

今回の来日公演は、世界の名歌劇場を席巻する人気歌手とともに、ネゼ=セガンとの新しいMETオーケストラを体験し、METのいまを体感することのできる、絶好の機会となるだろう。

ヤニック・ネゼ=セガン指揮 METオーケストラ来日公演
【プログラムA】

ワーグナー:歌劇《さまよえるオランダ人》序曲
ドビュッシー:歌劇《ペレアスとメリザンド》組曲(ラインスドルフ編)
バルトーク:歌劇《青ひげ公の城》(演奏会形式・日本語字幕付)
(メゾソプラノ:エリーナ・ガランチャ、バスバリトン:クリスチャン・ヴァン・ホーン)

 
【プログラムB】

モンゴメリー:すべての人のための讃歌(日本初演)
モーツァルト:アリア「私は行きます、でもどこへ」「ベレニーチェに」
(ソプラノ:リセット・オロペサ)
マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調

【兵庫公演】

日時:

6月22日(土)15:00開演【プログラムA】
6月23日(日)15:00開演【プログラムB】

 

会場:兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

 

問合せ:

芸術文化センターチケットオフィス 
TEL:0798-68-0255 (10:00~17:00 月曜休・祝日の場合は翌日)

【東京公演】

日時:

6月25日(火)19:00開演【プログラムA】
6月26日(水)19:00開演【プログラムB】
6月27日(木)19:00開演【プログラムA】

 

会場:サントリーホール 大ホール

 

問合せ:クラシック事務局 TEL:0570-012-666(平日12:00~17:00)

 

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