レポート
2024.11.19
音楽×バリアフリーを探して

五嶋みどりの群馬県立盲学校訪問コンサート・レポート〜音楽を「音」以外でも伝えること

障害のあるなしや年齢にかかわらず楽しめる場所や、そこに携わる人をONTOMO編集部が訪ねるシリーズ。今回は「NPO法人ミュージック・シェアリング訪問プログラム」の活動の一環として、群馬県立盲学校を訪れた、五嶋みどりさんをはじめとするICEP弦楽四重奏団による教室訪問とコンサートにお邪魔しました。

ONTOMO編集部
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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

取材・編集=川上哲朗(ONTOMO編集部)

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「音楽は聴覚芸術だから、視覚障害はハンデどころか、有利に働くだろうな。きっと生徒たちは、何の問題もなく、素晴らしい体験ができるんだろう」

わたしは前橋に向かう電車で、そんなことを考えていました。結果的に、それは正解でもあったし、想像力の欠如した考えでもあったのです。

群馬県立盲学校×五嶋みどり「ミュージック・シェアリング」

群馬県前橋市にある「群馬県立盲学校」は、3歳から成人を含む専攻科まで、さまざまな年齢の視覚に障害がある方たちが学ぶ、県内唯一の盲学校。

ヴァイオリニスト五嶋みどりさんが30年以上続ける活動、「ミュージック・シェアリング」の一環として、こちらで行なうコンサートにお邪魔しました。

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「ミュージック・シェアリング」は、さまざまな事情でコンサートホールへ足を運ぶ機会が少ない・難しい人々のために、全国の学校、特別支援学校、児童養護施設、病院、高齢者施設などを訪問する活動を続けています。

今回のコンサートは、ICEP(International Community Engagement Program)というプログラムで、若手音楽家の社会貢献活動の場としての側面も持っています。世界からオーディションにより選ばれた若手音楽家3名が、みどりさんとアンサンブルを結成、アジアツアー(2023年はラオス)を終えて、日本全国を回りました。

みどりさんが群馬県立盲学校を訪れるのは、2016年以来2回目とのことです。

楽器を知ることは演奏をより楽しくする

プログラムは「教室訪問」と「コンサート」の二部制。まずは、みどりさんとスペイン出身のチェロ奏者アレハンドロ・ゴメス・パレハさんの2人が、幼稚部生と小学1年生のクラスを訪れ、演奏を披露します。

みどりさんとアレハンドロさんの迫力ある音色を、子どもたちは少しだけ不思議そうに聴いています。

みどりさんが「ヴァイオリンや弓がどんな形をしているか触ってみて」と楽器を近づけると、子どもたちは小さな手で弦や響板を指でなぞったり、木の感触を確かめたり。

その後、バッハの無伴奏作品を演奏すると、明らかに子どもたちの「耳」が変わったように感じました。今、この音がどんな「もの」「形」から出ているのか知れば、理解が深まりますよね。

音楽を伝える手段は「音」だけではない、とハッとした瞬間でした。

音楽を「音」以外でも伝える

コンサートの前に、音楽担当教諭の引田知栄先生にお話を伺うことができました。

「児童生徒の皆さんは音楽が大好きですから、今日のコンサートを本当に楽しみにしていたんです。小中学部は、近くのホールに年一回、音楽鑑賞教室には出かけるのですが、普段は行動範囲が狭くなりがちです。気軽に東京にコンサートへ、というわけにもいかないので、こうして演奏に来ていただける機会はとてもありがたいんです。

視覚に障害がある分、音に敏感な生徒が多いです。楽器の技術が高い子も多く、リズムの叩き方が去年の先生と違うよと指摘されたり、この教室は前の教室より響きがあまり良くないねって言われたり……教えるのにドキドキすることがあるくらいです(笑)」

皆さん、さまざまなジャンルの音楽で、演奏や歌を楽しんでいるそうですが、クラシック音楽には難しさもあるとのことでした。

「クラシック音楽は景色・情景とセットになっていることも多いですよね。例えばイタリア民謡を歌っても、綺麗な海、ゴンドラを写真や映像として見せることはできません。それをどうやって伝えるのか、工夫が必要です」

演奏・お話・楽器を触る体験で完結するコンサート

コンサート会場の教室では、サロンのように椅子を並べて、生徒たちがカルテットの4人を迎えます。

みどりさん、アレハンドロさん、ジャマイカ出身のエレノア・デ・メロンさん、ヴィオラの笠井大暉さんは祖父母が新前橋に住んでいらっしゃったのだとか!

左からヴァイオリンの五嶋みどりさんとエレノア・デ・メロンさん、ヴィオラの笠井大暉さん、チェロのアレハンドロ・ゴメス・パレハさん

4人はチャイコフスキーの「花のワルツ」、童謡「七つの子」など馴染みある作品や、ハイドンの弦楽四重奏曲を凄まじい集中力で披露。合間のトークも、作曲家のこと、曲の表す情景やイメージの言葉を盛り込んで、詳しく解説していきます。

そして、こちらでも途中「楽器を触る」体験が挟まれました。しっかりと時間をとって、ヴァイオリンとヴィオラの大きさの違い、弓の毛の感触、チェロのエンドピンから伝わる振動……楽器のあらゆる部分を生徒の皆さんが手で感じ取っていきます。

その直後に演奏されたブラームスの弦楽四重奏曲は、この日一番の大作。しかし、先ほどまで以上の集中力で、生徒たちは音楽を感じているような気がしました。

1時間のコンサートが終わり、生徒代表として栗原陸斗さんが、「わたしたちは視覚に障害がある分、ほかの五感、特に聴覚は研ぎ澄まされています。だから生演奏は待ち遠しいし、励まされるし、リフレッシュした気持ちになります。また来てほしいです!」と元気に挨拶。

より多くの人が、音楽を楽しめる環境を作ることの難しさ。聴覚だけではない音楽の伝え方……群馬県立盲学校の先生方の細やかな努力や、みどりさんの長年の活動に裏打ちされたプログラムを目の当たりにして、あらためて考える機会となりました。

ミュージック・シェアリングの「訪問プログラム」は年に2回行なわれており、2024年11月21日には、雅楽のチーム(石川高[笙]、中村仁美[篳篥]、〆野護元[龍笛])が同校を訪問するとのことです。

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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

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