オオルタイチ×mama!milk×京都市交響楽団——京都市京セラ美術館、音で生まれる憩いの場
2020年5月にリニューアルオープンした京都市京セラ美術館。10月3日に開催された「ナイト・ウィズ・アート2020」のコンサートでは、「漂流する内的民俗」をキーワードに活動するオオルタイチ、アコーディオンとコントラバスのデュオmama!milk、そして京都市交響楽団から5人の奏者が登場した。1日限りのスペシャルセッションをレポート!
1997年大阪生まれの編集者/ライター。 夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オ...
2020年5月にリニューアルオープンした、京都市京セラ美術館。
前身となる京都市美術館は1933年にオープン以来、市内の文化芸術の中心地として機能してきた。2017年4月からリニューアルのため休館となっていたが、ついに新しい佇まいを披露しオープンした。
以前の由緒正しき風格を残しつつ、エントランスや本館は開放的な色調と空間にアップデートし、新館「東山キューブ」も増設。豊かなアートとの出会いの中心地として、心躍る場となっている。
10月3日、京都市内で大規模なイベント「ニュイ・ブランシュKYOTO2020」が開催された。毎年10月の第1土曜日、夕方から深夜まで繰り広げられる現代アートの祭典だ。
京都市京セラ美術館 では同時開催プログラムとして、同日に「ナイト・ウィズ・アート2020」を実施した。
撮影:来田猛
撮影:来田猛
撮影:来田猛
撮影:来田猛
アートを楽しむ秋の夜長
イベント当日、京都市京セラ美術館は開館時間を延長し、夜間までオープン。リニューアルした館内各所のお披露目のごとく、豊富なプログラムが実施された。
会期中の展覧会『コレクションルーム:秋期』『杉本博司 瑠璃の浄土』のほか、館内を物語と地図にしたがって一巡するツアー形式のパフォーマンスや、ザ・トライアングルでは京都ゆかりの若手アーティストの木村翔馬のライブペインティングや、VR技術を駆使した作品展示、市民の作品発表など、まさに「アート一色」。夜が更けるころには、ライトアップの下で芸術に酔いしれる人々が多く集う様子が印象的だった。
撮影:仲川あい
撮影:金成基
撮影:金成基
オオルタイチ×mama!milk×京都市交響楽団
多彩なアート作品があふれる中、野外の「京セラスクエア」では音楽イベントが催されていた。「オオルタイチ×mama!milk×京都市交響楽団」、京都にゆかりのあるアーティストによるスペシャルセッションライブだ。
「漂流する内的民俗」をキーワードに、電子音と非言語の歌が融合した音楽を生み出すオオルタイチ、アコーディオンとコントラバスによるデュオのmama!milk、そして京都の文化芸術界を率いる京都市交響楽団の5人の奏者。
ジャンルを問わない三者の音楽性が、緩やかに優しく、かつ色濃く溶け合う。こうして館内の賑わいと相反する「穏やかな憩いの場」が作り出された。
セッションは、まずはmama!milkと京響メンバーによる『Parade』で幕を開けた。『mimosa』『Veludo』『ao』『an Ode』などmama!milkのオリジナル作品が続き、彼らならではのメランコリックで叙情的な世界が繰り広げられる。
こちらの動画は、本来のmama!milkのデュオ演奏。
確かな安定感を持つコントラバス、その上で自由かつ柔軟に歌うアコーディオン。2人のオーラが相まって、「おとぎ話」を綴るような優しい世界観が生まれる。そこにさらなる彩りを加えたのが、京響のフルートとホルンとトランペット各奏者たちだ。
演奏を聴く傍ら、バックにあるリニューアル前と変わらぬ面影を残す美術館に目をやる。音楽のムードと相まって、思わずノスタルジックな感情が誘発された。
後半に差し掛かると、オオルタイチ、キーボード担当の石田多朗(サポート)が登場。緩やかに築かれた雰囲気が一変し、神秘性を帯び始めた。
まずは雅楽曲『陪臚』から着想を得た作品で、歌いながら八雲琴を奏でるオオルタイチ。クラシカルで西洋的な楽器であるフルートは龍笛のように、アコーディオンは笙のように響く。
『Flower of life』では浮遊するようなミステリアスな雰囲気が印象的。オオルタイチが漂うように歌う中、京響メンバーとmama!milkが紡ぐ柔らかなハーモニーに、安堵感を覚える。
空気は一転し、優しい日本語で歌われる『楽園』。本来、この楽曲はオオルタイチによるギターの弾き語りによるもの。ギターのアコースティックな響きに、温かみある管楽器の音色と、mama!milkによる叙情的な響きがソフトに色付けをする。
ラストは『紀伊』。オオルタイチによる非言語のスキャット風な歌と、何度も同じ旋律を繰り返すピアノ。妖艶なオーラをまとい、静かに山場を迎え、そっとイベントの幕を引いた。
当日は多くの来場客が集まったが、このご時世からか、派手に盛り上がる様子は全くみられず、非常に静かに耳をすます聴衆が多く見られた。その場に流れるふくよかな空気の流れに、身を委ねているようだった。
彼らの生み出す音楽は、新しく生まれた京都市京セラ美術館の趣ある佇まいと、見事にマッチしていた。
アートや音楽で彩られた、京都市京セラ美術館の秋の夜。新型コロナウイルスによる自粛期間を経たからこそ、こんなアート空間を人々は待ちわびていた。訪れる来場客のワクワクとした表情が印象深い。
新しい姿を見せた京都市京セラ美術館の取り組みに、これからも期待したい。
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