2019年日本の夏、一味違う《トゥーランドット》を見逃してはいけない理由
「オペラ夏の祭典2019-20 Japan⇔Tokyo⇔World」と題した、大きなオペラ・プロジェクトが幕を開けました。初年度の今年はプッチーニ未完の遺作《トゥーランドット》。7月12日の東京文化会館を皮切りに、新国立劇場オペラパレス(東京)、滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール、札幌文化劇場 hitaruの4か所で約1ヶ月にわたり上演されます。
大野和士の指揮、バルセロナ五輪開会式も手掛けたアレックス・オリエの演出などが話題沸騰中の《トゥーランドット》。衝撃のゲネプロを目撃した編集部が、この夏見逃せない一大スペクタクルを全力でおススメいたします!
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
2006年のトリノ・オリンピック、開会式に姿を表した名テノール ルチアーノ・パヴァロッティが歌ったのは、プッチーニ作曲オペラ 《トゥーランドット》のアリア「誰も寝てはならぬ」。
その運命に導かれるように日本人フィギュアスケーターとしてはじめてのオリンピック金メダルを手にした荒川静香選手がフリープログラムに選んでいたのも《トゥーランドット》でした。「誰も寝てはならぬ」のメロディにのせてレイバック・イナバウアーでリンクを滑りぬける荒川選手の姿を覚えている方も多いのでは?
そんな人気演目の《トゥーランドット》を〈東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会〉にあわせて東京文化会館と新国立劇場が日本を代表する各地の劇場と連携して2年に渡り展開する「オペラ夏の祭典2019-20 Japan⇔Tokyo⇔World」において、上野を皮切りに4か所で上演されます。
超名作《トゥーランドット》の貴重な舞台上演を見逃すな!
1926年の初演以来、変わらぬ人気を保ち、録音や映像なども多数発売されている《トゥーランドット》ですが、実際の舞台上演は意外とレア。
理由のひとつは、主役である氷の姫トゥーランドットのソプラノパートがあまりにもキツく、歌える歌手が限られていること。
トゥーランドットを当たり役にしていたスウェーデンの大ソプラノ歌手ビルギット・ニルソンが「(ワーグナーの)イゾルデが私を有名にして、トゥーランドットが私を金持ちにしてくれた」と語ったと言われるくらい、この役が歌えれば世界中から引っ張りだこになるほどの難役なのです。
今回のオペラ夏の祭典には、トゥーランドットを当たり役とする2人のドラマティック・ソプラノであるイレーネ・テオリンとジェニファー・ウィルソンが来日。世界レベルの氷の姫の歌唱が日本で楽しめるだけでも、聴き逃す手はありません。
タクトをとるのは現在、新国立劇場オペラの芸術監督を務める大野和士。日本が世界に誇るマエストロです。ベルギー王立モネ歌劇場、リヨン歌劇場などで腕をふるってきたオペラ指揮者としての実力は折り紙つきの彼が、2015年から音楽監督を務めている、70年以上の歴史を誇るスペインのバルセロナ交響楽団は24年ぶりの来日。
大野/バルセロナ響のコンビは、コンサートでも聴いてみたい魅力的な組み合わせ(先月バルセロナで行なわれた両者のコラボレートは《トゥーランドット》演奏会形式での上演)ですが、今回はオーケストラ・ピットに入ってオペラを盛り上げます。
名演出家アレックス・オリエの魔法にかかったトゥーランドット
《トゥーランドット》の舞台は中国。祖先であるロ・ウ・リン姫を外国人に虐殺されたトラウマから、求婚者に3つの謎を出し、解けなければ首を跳ねてしまう「氷の姫」ことトゥーランドットに、愛をかけて挑戦する異国の王子カラフ。そして、「一度だけ微笑んでくれた」ことで恋心を抱くカラフのために命を投げ出す悲劇の女奴隷リューを描いた愛の物語です。
このオペラには問題がひとつ……プッチーニが完成させる前にこの世を去ったため、結末部分が未完成で残されたのです。フランコ・アルファーノが補筆した版では、自分を犠牲に主人の命を守ったリューの死後にトゥーランドットはあっさり心を許し、カラフと結婚! めでたしめでたし。多くの人が思ってきたのではないでしょうか。
「でも、それってあんまりじゃない!?」
今回演出を務めるのは世界的な評価を得ているバルセロナのパフォーマンス集団ラ・フーラ・デルス・バウスで芸術監督を務める演出家アレックス・オリエ。彼曰く「ハッピーエンドで終わるはずがない、と思います」。
しかし、今回の上演で使用されるのは普段通り、ハッピーエンドで終わるアルファーノ補筆版……。トゥーランドットを我が物にして晴れやかな顔のカラフ。新しい王の誕生に祝福を送り「栄光を!」と叫ぶ民衆。その中に横たわる、たった今犠牲となったリュウの亡骸。
その姿に、トゥーランドットは何を想うのでしょうか? オリエは今回の《トゥーランドット》に、演出という名の魔法をかけました。
美術担当のアルフォンス・フローレスが創り出すアジアのフィルム・ノワールか、はたまたSFか、という美しい舞台で迎える、想像を絶するラストシーンは息を飲むこと必至です。
見どころが盛りだくさん! 劇場の興奮を味わって
演出や舞台美術だけでなく、「誰も寝てはならぬ」にはじまる数々の名アリアや、迫力の合唱シーンなど音楽的にも息をつく暇なく楽しませてくれる《トゥーランドット》。オペラをはじめて観るかたでも、難しいことを考えず劇場のスペクタクルに身を任せることができるはずです。
カラフの挑戦を阻むコミカルな宦官ピン・パン・ポンの憎めないトリオも見どころのひとつ。3人の登場シーン音楽にあわせて、AKB48グループや乃木坂46なども手がける振り付けユニットCRE8BOYによる「踊ってみた」動画も公開されています。
日本の夏を彩る一大スペクタクル! 見逃す手はありません。
出演:
イレーネ・テオリン/ジェニファー・ウィルソン(トゥーランドット)
テオドール・イリンカイ/デヴィッド・ポメロイ(カラフ)
中村恵理/砂川涼子(リュー)
リッカルド・ザネッラート/妻屋秀和(ティムール)
持木弘(アルトゥム皇帝)
桝貴志/森口賢二(ピン)
与儀巧/秋谷直之(パン)
村上敏明/糸賀修平(ポン)
豊嶋祐壹/成田眞(官吏)
指揮: 大野和士
管弦楽:バルセロナ交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部、びわ湖ホール声楽アンサンブル
児童合唱:TOKYO FM少年合唱団
演出: アレックス・オリエ
美術: アルフォンス・フローレス
衣裳: リュック・カステーイス
照明: ウルス・シェーネバウム
演出補: スサナ・ゴメス
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