
リムスキー=コルサコフの最後のオペラ《金鶏》がマリインスキー劇場で新演出上演

ロシアの11月後半から12月の音楽シーンから、注目のオペラ公演をレポートします。
サンクトペテルブルクのネフスキー大通りからザーゴロドゥヌイ大通りを折れて少し南下したところに、リムスキー=コルサコフが住んだ家がある。現在は博物館となり、生前の生活がわかるように彼を偲ぶさまざまなものが並んでいる。朝は自分でアルコール・ランプを使ってコーヒーを淹れることが日課で、午前中は音楽院で仕事をし、午後は自宅で昼食をとって作曲活動に勤しむ。夜はときに友人らを呼んで晩酌といった具合で、毎日の生活ルーティンがあったそうだ。作曲家のふだんの几帳面さが、この博物館からも見て取れる。
そんなリムスキー=コルサコフの最後のオペラとなったのが《金鶏》である。マリインスキー劇場で年間を通して上演され続けている作品でもある。2024-25シーズンまでは第2ステージでアンナ・マティソンの演出版で上演されてきた。今シーズンはコンサートホールに新演出として登場したので、これについてお伝えしたい。
オペラ《金鶏》がマリインスキー劇場コンサートホールにて、アンナ・シシュキナの演出で11月24日からプレミエ上演されている。コンサートホールは豊田泰久の設計で作られ、マリインスキー劇場の管弦楽演奏会を支えている。とはいえ、当初は老朽化してきているオペラとバレエ用の「本劇場」の改修工事を見込んで、その代替施設となるようオペラも上演できるように作られた、特殊なコンサートホールだ。舞台の前部が地下に降りる仕組みで、そこにオーケストラ・ピットができる。また、照明や字幕、舞台後ろのドアなどを備え、かなり大掛かりな舞台装置を使った演出付きの上演が可能だ。だから、今回の《金鶏》もいわゆるコンサート形式のオペラではない。

《金鶏》は、最初と最後が占い師によって語り始められ終わるという、「お話を読んで聞かせる」コンセプト。そのなかで、ともすれば舞台が入り組んで迷子になってしまうような話が、オペラでは理路整然とわかりやすく作られている。リブレットもそうだが、物語の配置や音楽が説得力を持ち、聴衆に「わからせる」ことができるのは、作曲家の手腕によるところが大きい。こうしたところからも、冒頭に述べた作曲家の几帳面さやバランス感覚、論理性などをよい意味で感じるのである。
11月26日のプレミエ第2回の公演は、ザウルベク・グカーエフの指揮で行なわれた。ストーリーの要であるドンドン王をデニス・ベガンスキー(Bs-Br.)、シェマハ女王をオリガ・プドーヴァ(S)という若手が務めたのも特筆すべき点だ。「統治」に手をやくドンドン王と、ある意味策士として国を滅ぼすシェマハ女王。この二人のキャラクターがこれらの若手によくハマり、頼りない王と、暗躍する女王という対照的な二人を描き出していた。
グビドン王子のドミトリー・ヴァロパエフ(T)、アルフォン王子のアナトリー・ミハイロフ(Br)の二人も、2幕目での「死」が女王を取り合った結果の恋をめぐる葛藤として、そのコントラストを演出する上で好演していた。
また、金鶏(アンナ・シュルギナ、S)は舞台後方の座席上に陣取り、1幕目の間、舞台を常に見守る。声を発する際そこだけにスポットライトが当たり、その存在が浮かび上がる。薄暗いなかでも半落としのスポットライトのなかにいるので、聴衆は金鶏が次に何かを言うのではないか、という思いに駆られ、舞台上のキャラクターやそのストーリーに自然に溶け込んでしまう趣向だ。
いままでに観た《金鶏》のなかで、いちばんしっくりときて納得する仕上がりであった。少し前なら、新演出といえば読み替え演出が主流で、話の内容がよくわからなかったり、ひどいときは話を捻じ曲げてでも演出に合わせるということが行なわれたりしてきたが、こうした原点回帰ともいうべき、本来観客が見たい世界観での上演だったこと、またその美しさにとてつもない満足感を感じた。今後しばらくコンサートホールでこの演出が観られるので、再び足を運ぶことは間違いない。





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