レポート
2025.01.18
「マーヴェルス・オブ・サウジ・オーケストラ」がアジア初、5都市目の開催

「奇跡のサウジアラビア・オーケストラ」が東京へ!両国の音楽文化が出会い融合した夜 

サウジアラビアとオーケストラ? すぐにはイメージがわかないが、実は同国ではいま、音楽の分野で劇的な変化が起きている。2017年にコンサート活動が解禁となり、2019年にはなんと「サウジアラビア国立オーケストラ」が設立されたのだ。西洋音楽の楽器にサウジ音楽の楽器が加わる独自の編成で、結成から5年が経たぬうちに世界4都市で公演を行ない、開催国と音楽を通した交流を行なってきた。そしてアジア初開催の5都市目に選ばれたのが東京。11月に東京オペラシティ コンサートホールで行なわれた画期的な公演の模様をレポートする。

取材・文
山崎浩太郎
取材・文
山崎浩太郎 音楽ジャーナリスト

1963年東京生まれ。演奏家の活動とその録音を生涯や社会状況とあわせてとらえ、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。『音楽の友』『レコード芸術』『モーストリーク...

サウジアラビア国立オーケストラと合唱団による舞台(2024年11月22日・東京オペラシティコンサートホール)

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サウジアラビア社会の変容を音楽で世界に伝える

サウジアラビアから、オーケストラがやってきた。

サウジアラビア国立オーケストラおよび合唱団が、日本とサウジアラビアの外交関係樹立70周年を翌年に控えた2024年11月に初来日、東京オペラシティ コンサートホールで「マーヴェルス・オブ・サウジアラビア・オーケストラ」と題する公演を行なったのである。

近年のサウジアラビアは、ヨーロッパの超一流サッカー選手を自国リーグに招き、世界的な話題となっている。しかし、こと音楽となるとどうだろう。この国の音楽を聴いたことがある人は、あまり多くないのではないか。

実は、サウジアラビアでは長いこと、宗教上の理由から、公の場での音楽の演奏が禁じられてきた。どんなジャンルであれ、コンサートというものが存在しなかったのである。

ところが、状況は2017年に劇的に変化した。首都リヤドなどでクラシックからジャズ、最新のポップスまで、さまざまコンサート活動が再開されたのだ。

そしてさらに、サウジアラビアの音楽を世界に紹介するべく、サウジアラビア国立オーケストラが2019年に結成され、世界各地を訪れてきた。東京は5番目の開催地となる。

会場となった東京オペラシティ コンサートホールのホワイエには、サウジ音楽の楽器が展示されていた。左からラババ(弓弦楽器)、中央奥がカーヌーン(撥弦楽器)、中央手前がティラン(打楽器)、右がウード(弦楽器)

「音楽とはとても美しい方法で、人類共通の人間性を理解させてくれるもの」

公演に先立って行なわれた記者会見の席で、サウジアラビア音楽委員会のCEOをつとめるポール・パシフィコ氏は、「いままさにサウジアラビアの社会は大きな転換期にあり、その変容を体現するのに音楽ほどふさわしいものはなく、ここで紹介できることを嬉しく思う。また、他国の文化との関係のあり方も、まさに変容を遂げようとしている。二つの偉大な国の協力関係を一つの形にしたこのコンサートを、さまざまな交流事業を展開するきっかけにしたい」と語った。

「音楽というのはとても美しい方法で、人類共通の人間性を理解させてくれるものであり、文化の違いや国境をこえて、パワフルにストーリーを伝える手段だと思います。そのようなメッセージを、コンサートで感じていただけたら幸いです」

布袋寅泰氏(右)と握手を交わすポール・パシフィコ氏(左)。パシフィコ氏はイギリスの音楽業界におけるさまざまな組織で役職を務め、演奏家および音楽起業家としての長いキャリアを経て2023年1月、サウジアラビアの音楽セクターの発展を担う文化省内の音楽委員会CEOに就任した

両国の音楽文化の交流を中東の10億人に向けて生中継

迎えた当日のコンサートは、客席の日本やサウジアラビアなどの聴衆だけでなく、インターネットを通じて、中東の10億人の視聴者に向けて生中継された。

まず第1部では、宮内庁式部職楽部が日本古来の舞楽である『陵王』を演奏し、1200年以上続く世界最古の管弦楽団の響きを、中東世界に向けてアピールした。

第1部では宮内庁式部職楽部が舞楽『陵王』を演奏。きらびやかな衣装や舞楽である点が、中東の視聴者にもアピールしたことだろう

そして第2部に、民族衣装に身を包んだサウジアラビア国立オーケストラと合唱団が登場した。西洋風の弦楽五部、ピアノ、フルートなどとともに、ウードやカーヌーン、ティランなど、サウジ音楽の楽器が使われているのが特色である。

合唱団の半数が女性であり、オーケストラ奏者にはヒジャブをつけない女性がいるなど、女性の地位向上が進むサウジアラビアの状況も、端的に示されていた。

女性合唱団が男性合唱団と同数で出演。「マーヴェルス・オブ・サウジアラビア・オーケストラ」はこれまでパリ、メキシコシティ、ニューヨーク、ロンドンで公演を行ない、東京はアジア地域で初の開催となった

布袋寅泰とサウジ・日本合同オーケストラのスペシャルな共演

曲目は前半がサウジアラビアの伝統音楽で、東京公演のために編曲、再構成されたもの。後半は『UFOロボ グレンダイザー』など日本のアニメ・メドレーもあり、アニメが日本とサウジアラビアを結ぶ重要な架け橋の一つとなっていることを実感させた。

おしまいの第3部は、サウジアラビアと開催国の音楽の融合として、東京音楽大学オーケストラ・アカデミーがサウジアラビア国立オーケストラと一緒に舞台に上がった。

若い日本の音楽家にとっても、貴重な経験となったことだろう。かれらの参加によりクラシック的なサウンドを強めつつ、サウジアラビアのさまざまな名曲が演奏される。

またラスト近くにはスペシャル・ゲストの布袋寅泰が登場、エレキギターを力強く響かせて、聴衆をわかせた。

布袋寅泰氏が、サウジアラビア国立オーケストラと東京音楽大学オーケストラ・アカデミーによる合同オケとの共演で、自身の楽曲「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」(タランティーノ監督の映画『キル・ビル』のメインテーマ)を演奏した

サウジアラビアでは本格的な音楽教育もスタート

パシフィコ氏によると、サウジアラビアは人口4000万のうち、70%が35歳未満というとても若い国で、みな好奇心にあふれている。学校での本格的な音楽教育も始まったばかりであり、オーケストラはリヤド、ジッダ、フフーフの3都市に拠点を作り、楽員の育成や生涯教育のプログラムを開始したそうだ。

「伝統を大切にしつつ、現代化もとてもうまく行なっている点や、また礼儀正しさと人間的な温もりを感じる点で、日本とサウジアラビアは共通していると思います」

サウジアラビア音楽界の発展とともに、両国の関係が音楽面の交流も含めて、さらに深まっていくことを願ってやまない。

公演概要
「マーヴェルス・オブ・サウジ・オーケストラ」東京公演

開催日:2024年11月22日

会場:東京オペラシティ コンサートホール

プログラム

第1部:宮内庁式部職楽部

舞楽「陵王」

第2部:サウジアラビア国立オーケストラおよび合唱団(指揮:リーブ・アーメド)

ラミ・バシが編曲・作曲したサウジアラビアの伝統音楽や、日本のアニメ・メドレーを演奏

第3部:サウジアラビア国立オーケストラおよび合唱団、東京音楽大学オーケストラ・アカデミー(指揮:ハニ・ファルハット)

サウジの名曲メドレー、BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(ラミ・バシ編曲、特別ゲスト:布袋寅泰)、サウジアラビアの国歌などを演奏

「マーヴェルス・オブ・サウジ・オーケストラ」東京公演の収録映像

取材・文
山崎浩太郎
取材・文
山崎浩太郎 音楽ジャーナリスト

1963年東京生まれ。演奏家の活動とその録音を生涯や社会状況とあわせてとらえ、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。『音楽の友』『レコード芸術』『モーストリーク...

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