レポート
2018.07.09
芹澤一美の“共奏”ライフ! Vol.2 一緒に歌うことで生まれるもの

「うたごえ喫茶」と「カラオケ」は違うのか? 体験して深掘り!

「うたごえ喫茶」と聞いた反応は、「まだあるの!?」あるいは「なにそれ!?」と、世代によって分かれるところでしょう。みんなで合唱する、そこに何か気恥ずかしさを感じる若い世代には、少しハードルが高く感じるかもしれないけれど、実は、驚くほど根強い人気があるらしいのです。

老舗「ともしび新宿店」の常連客でもある芹澤一美さんに、「共に歌う」場がなぜ人の心を惹きつけているのか、探っていただきました。

ナビゲーター
芹澤一美
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芹澤一美 音楽編集者

音楽療法専門誌「チャレンジ!音楽療法2003」(2002年)「the ミュージックセラピー」(2003年vol.1~2011年vol.20/音楽之友社)の編集・取材・...

写真:各務あゆみ

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うたごえ喫茶のお作法

最近、さまざまなメディアに取り上げられ話題となっている「うたごえ喫茶」。その代表格の「ともしび新宿店」は1954年に誕生した老舗中の老舗だ。今もなお、多くのファンが通い続ける「うたごえ喫茶」は、カラオケとどこが違うのか。双方の違いと、うたごえ喫茶の根強い人気の秘密を探った。

「この曲の思い出、皆さんそれぞれにありますよね。ではいきましょう! 緑の歌集の54ページ《夏の思い出》」

司会者の曲紹介に続いてグランドピアノの生伴奏が始まる。歌集を手にしたお客さんたちが、伴奏に合わせて思い思いに歌う。音程もリズムも気にせずに、自分なりの歌い方でみんなと一緒に歌う。まずは、このスタイルがカラオケとは大きく違う。

真ん中にいるのが常連客でもある芹澤さん。同行した編集部員(右)も参加してみると、想像以上に歌いたい欲求が高まっていく。この日は、月曜日の開店早々にお邪魔したので席に余裕があるが、週末に近づくにつれ賑わいを増していく

司会者用にマイクはあるものの、誰かがマイクでソロを歌うことはない。自分のリクエスト曲や好きな曲が歌われるときはピアノの前に出て歌うのもOKだが、そのときもみんなで歌う。歌集のページを探していると、近くの人がさりげなく教えてくれたりして、自然と会話も生まれる。初めて会った人もだんだん前からの知り合いのように思えてくるのが不思議だ。

一緒に歌うことで、何が生まれるのだろう。斎藤隆店長はこう語る。

斎藤隆店長
斎藤隆店長

「音楽の共有、ではないでしょうか。ひとつの歌には人それぞれ違う思い出を持っているものですが、共に歌うことで違う思い出なのに思いが共有できてしまう。音楽にはそういう面があるのではないかと思います」

しかし、ただ集まって歌うだけでは楽しくない。楽しさを生むポイントは選曲だ。ベースとなるのは、赤と緑のオリジナル歌集。

赤と緑のオリジナル歌集
赤と緑のオリジナル歌集
あらゆるジャンルの歌の歌詞がぎっしりと掲載されている

ここから選ばれるリクエストを取り上げながら、その日の雰囲気や客層などに合わせ、司会者が即興的に曲を決めていく。時には知らない曲も登場するが、周囲に合わせているうちになんとなく歌えてしまう。思いがけず名曲と出会って音楽の世界が広がるのも、自分の歌いたい曲を選ぶカラオケとの違い。

さらには、司会者がその場を巧みにファシリテートするところも「うたごえ喫茶」ならでは。

「スタッフも店内に気を配り、初めての来店とか遠方から来られたとか、それとなくお客さんの情報をキャッチしています。司会のテクニックは長年の経験によるもの。若いスタッフはベテランの技を見て覚えていきます」(斎藤店長)

ジェネレーションギャップはないのか?

ところで「うたごえ喫茶」といえばロシア民謡、と思い浮かぶ人もいるはず。もちろん歌集にはロシア民謡も入っているが、童謡や唱歌、昭和歌謡やフォークソング、そしてゴスペルやシャンソン、民謡、合唱曲など、幅広い全742曲を載せている。

《ハナミズキ》《世界に一つだけの花》《旅立ちの日に》など、時代を越えて思いを共有できる曲も入れ、あらゆる年代が楽しめるよう工夫されているのだ。

リクエストカードに記入してスタッフに渡せば、好きな歌を歌えるかも
その月のリクエスト曲が掲示される

ともしびに入って35年の斎藤店長は、曲の変遷をこう語る。

「私が入った当時、主に歌われていたのはロシア民謡や労働歌。店名にもなっている《ともしび》、そして《トロイカ》といったロシア民謡は、ロシアから復員した人が日本に伝え急速に広まり、うたごえ喫茶ができたきっかけにもなっています。その後、童謡や唱歌が増え、10年ほど前からは昭和歌謡など、より広く取り上げるようになりました」

音楽の雰囲気によってしみじみ思いを深めたり、時には振り付けのある曲でワイワイ盛り上がったり。喫茶といっても食事もできればお酒も飲めるので、なお楽しい。

ともしび新宿店で人気の料理は、ミックスピザや焼きそば、豆腐サラダなど
お酒もお料理も種類が豊富で、お腹もココロも満足!

共に歌って心が繋がる。

その楽しさは全国に広がり、ともしびのスタッフが各地に出向いて開かれる「出前歌声喫茶」は、年間約250公演とネットワークを広げている。カラオケとは一線を画す「うたごえ喫茶」のスタイルは、時代も世代も越えた社交場となっている。

毎月1回、コーラスグループ「ベイビー・ブー」がゲスト出演する日は毎回大盛況。これをきっかけに若い層も来店するようになっている
伴奏は、主にピアノ。ドラムやコントラバスが入ることもあるが、演奏するのは「ともしび」のスタッフだ。誕生日月に訪れた芹澤さんは、お店から送られてきたはがきを持参してワインと歌をプレゼントされ、さらに心躍る
近年では、夜は出かけられないという人向けの「お昼のうたごえ」(営業:13:30~15:50)も人気で、夜よりもにぎわう日もあるとか
お店情報
うたごえ喫茶「ともしび新宿店」

営業時間:

・月・火曜日 17:00~22:30(17:20~ステージ)

・水・木・金・土曜日 16:00~22:30(16:20からステージ)
・日曜日・祝日 16:00~21:30(16:20~20分の休憩をはさみ、45分間のステージ)
お昼のうたごえ 毎週水・木・金・土曜日 13:30~15:50(13:50~15:50の間で2ステージ)

 

料金:

・歌声チャージ 864円
・コーヒー 486円から
・季節料理、お食事、お酒、おつまみなど
・お昼のうたごえ 1ドリンク付き1600円 ※すべて税込

 

問い合わせ先:

東京都新宿区新宿3-20-6 FSビル6F
Tel. 03-3341-0915

http://www.tomoshibi.co.jp/sinjyuku/

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芹澤一美
ナビゲーター
芹澤一美 音楽編集者

音楽療法専門誌「チャレンジ!音楽療法2003」(2002年)「the ミュージックセラピー」(2003年vol.1~2011年vol.20/音楽之友社)の編集・取材・...

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