レポート
2018.10.28
特集「社会と音楽」

フレンドリーな鍵盤ハーモニカを八丈島に! 菅谷詩織さんの「ケンハモキャンプ」

どんなところに暮らす、どんな子どもたちにも、音楽を思い切り楽しんで、のびのび表現してほしい。それも、身近でフレンドリーな楽器でできれば最高だ。
そんな、シンプルにして、夢のある企画をスタートさせた人がいる。しかも日本中の人たちからのエールを得ながら。

鍵盤ハーモニカ奏者・ピアニストの菅谷詩織さんによる、「ケンハモキャンプ」実現へのチャレンジを追った。

八丈島でケンハモキャンプを主宰した人
菅谷詩織
八丈島でケンハモキャンプを主宰した人
菅谷詩織 鍵盤ハーモニカ奏者、ピアニスト

東京都町田市出身。6歳からピアノ、12歳からサクソフォンを始め、サクソフォン専攻として高校に入学、2年次にピアノ専攻に転向。18歳から独学で鍵盤ハーモニカを始める。ク...

取材・文
飯田有抄
取材・文
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

写真:飯田有抄

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とてもメジャーな楽器“ケンハモ”

「鍵盤ハーモニカでドキドキの夏を!八丈島の子供達とつくるライブ」。

そんなプロジェクトを、クラウドファンディングで日本中からエールと資金を集め、八丈島の人々と協力しながら実現させたのは、鍵盤ハーモニカ奏者の菅谷詩織さん。

「鍵盤ハーモニカ」という楽器はご存知だろう。
そう、多くの日本国民が、学校の音楽の授業で一度は吹き鳴らす楽器だ。ONTOMO世代の読者にとっても、ランドセルにさした縦笛に勝るとも劣らないメジャーな楽器であろう。

最近では“ケンハモ”などと呼ばれ、その音色の艶っぽさに気づいたオトナたちの間で、密かなブームとなっている(ちなみに「ピアニカ」や「メロディオン」というのはメーカーによる商品名)。

菅谷さんは、そんなケンハモ・ブームを牽引するプロ奏者のお一人で、オリジナル曲からポップス、ジャズ、クラシックのアレンジ作品まで、歌うような表現力と、楽器のイメージを覆すような本格的なテクニックで、人々を惹きつけている。

そんな菅谷さんが、八丈島の子どもたちと一緒に、ケンハモで夏休みライブをやろうと思い立った。

なぜ八丈島なのか

八丈島は東京の南方海上287キロメートルにある。羽田空港からの飛行機なら、約1時間で飛んでいける。

しかし、その気候は亜熱帯。雨量が多く、湿気の多い気候のため、ピアノなどの楽器にとっては少々過酷な環境だ。鍵盤ハーモニカは、そうした環境にも左右されにくい丈夫な楽器。だれもが買いやすく、すぐに音も出る。だが、ほんのちょっとしたコツで、生き生きと歌うような表現ができる。

八丈島の人口約7000人の割合からすると、お稽古事で楽器を習っている子どもたちは多いそうだ。しかし、コンサートなどの音楽イベントを体感できる機会は少ない。

菅谷さんは現地で、子どもたちとコミュニケーションをとりながら、ケンハモのコツを伝授したり、一人ひとりの音楽性を活かしたアレンジを作ったり、そして最後にみんなでライブステージを行ないたいと思った。一人でも多くの島の子どもたちに、夏休みのチャレンジとして、ケンハモを通じた音楽体験を楽しんでもらいたいと願った。

クラウドファンディングで支援を得る

そんな思いを、菅谷さんは全国に向けて発信。「Readyfor」というクラウドファンディングのプラットフォームを利用し、企画の意図や意義を伝えたのだ。2日間の会場費や人件費、告知諸経費など、最低でも25万円の費用が必要だ。それを、社会からの応援の形で実現させようと思った。

関係者や島の参加者のみが知る、閉じたイベントではなく、活動全体や島の現状を広く知ってもらい、「サポート」という形で離れたところに暮らす人々にも企画に「参加」してもらおうと考えたのだ。

予想外に大きな反響があった。目標金額には1週間で到達。思ってもみないスピードだった。ストレッチゴールを設定し、さらに15万円の支援が得られれば、映像の撮影・制作をプロに依頼することにした。その目標も達成!

最終的には北海道から高知県まで、49名のエールによって43万7000円の資金が集まった。

一人ひとりの音楽性に応えるリハーサル

「ケンハモキャンプ in 八丈島」は8月28、29日の2日間に渡って開催された。小学生から中学生までの子どもたちが鍵盤ハーモニカを手に、次々とリハーサル会場にやってきた。

「きらきら星」「聖者の行進」「私のお気に入り」「リベルタンゴ」から好きな1曲をチョイス。菅谷さんが一人ずつ、息遣いやタンギング、指使いのレッスンをし、その場で即興的に伴奏をつける。

「スウィングするような、かっこいい感じと、かわいい雰囲気、どっちがいい?」などと問いかけ、一人一人の好みや、演奏のテンポに応じて、即興的にピアノで伴奏する。ベーシストの緒方崇志さんも加わると、ジャジーなノリが出たり、音楽の奥行きが一段と増す。

友だちどうしや、親子での合奏参加も見られた。ピアノで菅谷さんの鍵盤ハーモニカと共演した子もいた。最初は緊張の面持ちだった参加者も、菅谷さんの明るいキャラクターや、自分の演奏に応じてくれる伴奏に惹きこまれ、笑顔になったり、もっと真剣になったりと、集中力をみせていた。

オシャレな夜のカフェで、ライブ!

リハーサルが終わると、夜はいよいよライブ! 八丈島の緑豊かなカフェ「空間舎」が会場だ。最初は菅谷さんによる演奏コーナー。自分も持っている鍵盤ハーモニカが、どれだけ可能性を秘めた楽器なのかを、目の前で見せてくれる菅谷さんの演奏に、子どもたちの目と耳は釘付けに!

つづいて、家族やお友だちの見守る中で、ひと組ずつ参加者が菅谷さんと緒方さんと共演。星空の輝くオープンなステージで、お客さんを前にしての演奏は、だれにとっても特別な音楽体験になったことだろう。

「リハーサル」という名の一人ひとりへの丁寧なレッスン、そして夜のスペシャル・ライブ。菅谷さんはそんな2日間をパワフルにこなした。

動画撮影&編集:平野敦

 

参加した子どもたちからは、

「練習のときよりも上手にできて気持ちよく吹けた」

「パートに分かれて弾くのが楽しかった」

「タンギングなど、知らなかったことを知れてよかった。また鍵盤ハーモニカを吹きたいと思います」

そんな声が寄せられた。

だれにとってもアクセスしやすい日常的な楽器、鍵盤ハーモニカ。「ケンハモキャンプ」の輪を、菅谷さんはこれからも広げたいと考えている。2019年は、さらに「キャンプ」らしく1泊2日のプログラムを組み、埼玉県秩父市にて行なうことが決まっている。

動画撮影:平野敦/編集:編集部

八丈島でケンハモキャンプを主宰した人
菅谷詩織
八丈島でケンハモキャンプを主宰した人
菅谷詩織 鍵盤ハーモニカ奏者、ピアニスト

東京都町田市出身。6歳からピアノ、12歳からサクソフォンを始め、サクソフォン専攻として高校に入学、2年次にピアノ専攻に転向。18歳から独学で鍵盤ハーモニカを始める。ク...

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飯田有抄
取材・文
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

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