
チューリヒ歌劇場が《ヘンゼルとグレーテル》で将来のオペラ・ファンを獲得

スイスの12月の音楽シーンから、オペラのレポートとニュースを現地よりお届けします。

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1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
チューリヒ歌劇場がマティアス・シュルツ新総裁の下で制作した3作目の新演出、フンパーディンク《ヘンゼルとグレーテル》は、11月16日の初日にチューリヒ州の20の映画館でも同時上映された。トム・ルッツの演出は映像を効果的に使い、歌劇場での劇中劇のように始まる。「序曲」の間に楽団員がだんだん集まる様子が影絵のように映され、本番前の高揚感が、指揮のギエドレ・シュレキーテが自在に操るオーケストラのクレッシェンドとあいまって、鳥肌が立つようにさえ感じた。
ヘンゼルのスヴェトリーナ・ストヤノヴァ、グレーテルのクリスティーナ・ガンシュは最初、子役の黒子のような役回り。まろやかな声と上質な歌唱を聴かせながら、徐々に一体化し、途中は子役なしで話が進むものの、魔女の家(お菓子の家ではなく、歌劇場!)でまた子役が出てきても、違和感を覚えさせない上手な演出だ。
母ゲルトルートと魔女を一人二役でこなしたロージー・アルドリッジは完璧な歌唱と演技、父ペーターはもったいないほど色っぽい美声のヨッヘン・シュメッケンベッヒャーと、歌手陣は全員申しぶんなく、ハイ・レヴェルでぜいたくなクリスマス・プレゼントとなった。所見した12月21日のマチネは子供たちが多く、映画館上映もふくめ、将来のオペラ・ファン獲得に貢献するプロダクションだ。

シュルツ新総裁が開くチューリヒ歌劇場への扉
勢いに乗っているチューリヒ歌劇場の仕掛け人、マティアス・シュルツ新総裁にインタヴューを行なった。チームを大切にする人格、ピアニストとして、またいままでの経験を生かし、的確な音楽的視点で歌劇場の舵を取っていること、そしてオペラを次世代につないでいくために、自分の5人の子供を通した目で見られることが勝因だと感じた。実際、自身がピアニストを務めたエリーナ・ガランチャのリサイタルで今季を開けたのだが、2025年6月に彼女と日本で公演したというので、聴かれたかたもいるだろう。
その9月18日のシーズンオープニング・リサイタルは収録されて、12月26日にスイス国営放送で放映、その2日後のR.シュトラウス《ばらの騎士》はARTE(テレビ局)を通して生放送された。チューリヒ歌劇場の公演がライヴ放映されるのは2007年以来のことで、関心の高さが表れているといえる。彼は日本のNHKともより緊密に協働する体制に入っていると言い、ARTEが日本でも放送されることを願っているそうだ。
上記の《ヘンゼルとグレーテル》映画館ライヴ上映も大成功し、各館が宣伝したこともあって、普段はあまり取材に来ない経済紙2社でも報道されたほどだ。現時点での手応えは、「これ以上望めないほど上手くいって満足している」と言う。
ドイツ・バイエルン地方出身のシュルツがチューリヒ歌劇場を特別だと感じる点は、その適度な大きさだ。約1150席ほどの比較的近距離で、世界のトップ歌手や若手注目株を聴けるぜいたくな体験を、日本人をふくめ、多くの人に味わってもらえるようにすることが目標だという。学割も高待遇で、次世代の観客を育てることに重点を置いている。子供オーケストラも創設し、チューリヒ州の音楽学校と協働したり、元映画館を借りて若者用のワークショップを企画したりしてオペラへの興味を目覚めさせ、維持させていくのが目標だという。
当歌劇場は2007年の初来日以来、18年間訪日していないことについて聞いてみると、2028年頃に実現できることを願っているという。その理由はまず日本の聴衆にあり、「世界一のレヴェル」と賛辞を惜しまない。6月のガランチャとの訪日公演時も、ほぼ満席のホールに集中力が満たされる様子が印象的だったという。
ザルツブルクのモーツァルテウムでピアノを学んでいたときに、日本人の友達から得た情報から、日本人の音楽的好みが自分たちと似ていることを知っているつもりなので、満足できる演目を持っていきたいと意欲を見せる。これから大きく飛躍しそうで、期待に胸がふくらんだ。





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